第5話 繋ぐ手、ココロ。

 

 ついに、村同士の会議が始まった。

昼より少し前に、クルス村の村長や見た顔がぞろぞろとやってきた。

 お互いに、若干の緊張を感じながらも、村長の部屋にそれぞれが席に座った所で俺が口火を切った。


「えー、本日は、お集まり頂きまして、ありがとうございます。

 村の会議を初めて執り行なうと言う事で、まずはそれぞれの村長に挨拶をして貰おうと思います。まずは、エンス村の村長からお願いします」


「えっ.....エンス...村の、そっ..村長のリゲルでっせ、す!」


(緊張しているのか?まぁ初めての顔合わせなら仕方ないか?しかし噛んだな)


「今日は...よっよろしくお願いします...」


 幸先の悪い挨拶だなぁと思うも口にする事はなく、挨拶を進める。


「それじゃ、クルス村の村長、お願いします」


「おっ、おう...」


何か、この違和感を感じる物の、挨拶は続く


「クル、クルス村の村長じゃっ!」


捲し立てるように発言した。


「え?名前は?」とついつい確認してしまう。


「ジンじゃっ」



 言うやいなや、すぐに視線を下に落とす。

そして、リゲルを見ても何やら落ち着かないようだ。


 何か、おかしいと思った。


(まさか.....??)


村長である人間が、人と会話をするのに、あそこまで言葉に詰まるなんて信じられない。


 (これは、もうコミュ障だろ!!)


 あまりにも、長い間、お互いに交流がなく

村の中の人で全てが完結してきたから故の弊害が、ここで発揮されている。


 大人が、何恥ずかしかってんだよ!と言いたくなるも、その恥ずかしそうにしているおっさんとじじいの顔を見たら、その言葉を発する気力が無くなる。


 まるで、初恋の相手といる様な顔をしている。


(き、気持ちわりぃな!!!!)


 仕方ない、こればかりは、慣れて貰うしかないという事で、俺はコホンと咳払いをして、話し始める事にした。


「今回の会議ですが、まず確認の地図をーー」


持ってこられた地図を見て、クルス村の連中は、おぉと声を漏らしている。

ジンも、なかなかじゃのぅと見入る様に称賛していた。


 仮にも、この地図に不平不満がつけられてしまえば、この話は難航を回避できなかったが、既にワタルによって確認していた事によってその完成度は高い物であると自負していた。


なにより、元の世界にある地図をしっているからこそ、出来上がった地図と比較ができた事によってその自負は揺るぎない自信へと繋がっていた。


 ここにきて、元の世界の記憶が意味をなす事となった。


「これからは、2つの村で協力出来れば良いと思います。その内容はーー」


「なるほどのぉ」


説明を受けたジンだが、納得の表情を浮かべながらも、解せない幾つかの点を指摘してきた。


「しかしの、それじゃとどちらかが手を抜いても食料などが、得られる事になるんじゃないかの?

 それにの、班を作って襲われないと言う確証もないじゃろ?」


「オレが襲うとでもいうのか!」

「お前らこそそうだろ!手を抜いて楽しようとしてるんだろ!」


 他の連中が、互いに誹り合う。

こればかりは、仕方ない事なんだが、そもそも顔合わせが初めてなんだから、今すぐ信用しろと言う話も無理な話だ。


「よすのじゃ、お前たち」


 ジンが、制する。


「だからこそのルールだ。村同士の掟を作るんだ」



 ルール?とジンもリゲルも言うが、俺は続ける、信用たる言葉になるよう気持ちを込めてーー


「今すぐ、互いに信じ合えと言うのは、さすがに無理なのは承知している。だから取り決めるんだ。


 それは、なんだって良い、例えば村同士で喧嘩をしたら、そいつに食料は渡さないとか、そう言う縛りを加えれば、楽をしようとする人間は居なくなる。


 その繰り返しが、信用に変わっていくはずだ。

 初めての事だ、不安はわかる。

 でも、初めて手を取り合うんだ。散々、喧嘩をしてきた、散々、争ってきたんだ。


 もう、いいんじゃないか?誰が死ぬのは悲しいだろ?人は殺し合ったりするものじゃないんだ。手を取り合って笑い合って生きていくものなんだ」


 和解。

 互いに、争いあってきた相手を許し合う事、そこから全ては始まる。


「そうじゃのぉ、ワシらも身内が死ぬのは、避けたいからの」


「私たちも、それは同じ気持ちです」


「散々、こうして争ったが、腰を据えて向き合えば、違うものじゃの」


「そうかも、しれませんね」


 散々争ったが、そこに憎しみなど無かった。


 お互いが、手を伸ばす事ができなかっただけなんだとーーーー


 改めて、2人は名を伝え、互いに手を伸ばし、その手は、ついに、長い時を経て、結ばれたーー


 固く握られたその手は、これから先、違えることのなく続く、2つの村の絆の固さを思わせるほど、力強く、そこに言葉は必要なかった。


 その後は、細かいルールの取り決めを村長同士、そして村人も含めて行われた。

 俺のお役は既に御免となっていた。

 そして、いつのまにかコミュ障の様なしどろもどろしさは無くなり熱く議論を続けてるーー

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