第3話 嘘も方便。
連れられてきた村は、クルス村と言う名前らしい。
そして、村長がいると言われる建屋の前まで連れられた。
リーダーの男が「少し、まっていろ」といい先に中に入り、事情を説明しにいった。
その間に後方にある村を見渡す。
村の景観は、エンス村と遜色なく同規模の村だとわかる。
そして「はいれ」と言う声を聞き、ふぅと深呼吸をして、一張羅であるスーツの襟元を正し、今一度気合を入れる。
ネクタイに手をかけギュッと背筋を正すように締め付け中にはいる。
部屋は、広くその中には部下である連中も数人同伴しており、その奥に鎮座する老人
それが村長だった。
「して、どういった要件かの?ワシはすぐにでも、エンス村との事でハッキリと分別と言うものを教えてやらんといかんのじゃがな」
ゆったりと、静かな部屋に村長の声は響く。
老人とは言え、村の長である故に、その声はどっしりとした声色に重圧が感じられる。
しかし、俺は狼狽は事なく口を開く。
「そのエンス村の件で、お話があります。その前に、こちらをお納め下さい」
交渉には第一印象が大切な事を知っているからこそ、物腰を低く、柔らかく丁寧に言葉を贈る。
村長から受け取っていた物を、挨拶の品として受け渡す。
「ほぉ、魔物の肉と、木の実に草か。これはどういった意味で用意したのかの?」
「はい、初めての挨拶になりますので、その挨拶の品として受け取ってもらえればと思います」
「ふむ、それじゃあもらい受けようかの、それで話とはなんじゃ?」
「はい、この度、狩り場についてで争いになっていましたので、先に1つ確認しておきたいのですが...地図と言うものはお持ちですか?」
「地図か、それはこの村にはないの」
やはりな、とこの村にもそれは存在していなかった。
ならば幾らでも交渉の余地はあると確信する。
しかし、その表情は崩さずに見せる
「やはり、そうですか...困りましたね...エンス村にはあるのですよ。それを元に狩り場を区切り、その範囲の中で魔物を狩っているのですよ」
そのハッタリは、他の連中に動揺を生んだ。
もし、事実であれば狩り場を侵しているのは、クルス村と言う事になるのだから。
しかし、村長は冷静に感心したように口を開く
「ほぅ、それならば、間違いようが無いということじゃな?その地図は今あるのかの?」
「いえ、村には1つしかない貴重な物です。もし良ければその地図もご覧になった上で、武器による危険な争いではなく、話し合いをしませんか?」
「それは、困ったのぉ。あくまでも、ワシらが悪いとそなたは言うのじゃの?」
「いえ、そうではありませんよ。どちらが悪いと言う話は一旦水に流してもらおうと思ってその品を持ってきたのですから」
受け取った手前、村長は自分が簡単な餌に食らいついた事に動揺する。
「カカッ!じゃがそれをなかった事にすればどうじゃの?例えば、そうじゃのそなたは、そもそもこの村に来てないとなればどうじゃ?」
周囲の部下達が、その携えられている武器に手を取る。
村長は、恐らく試しているのだろうと読む
おおかた、一杯食わされた仕返しでもしたいのだろうと、しかし、既に交渉は俺からすれば終わっている。
「それは、不可能でしょう。村長は、私の服を見た事ありますか?これはスーツと言います。そして私は異世界から来たのです。そんな私が無防備にここを訪れると思いますか?それこそ愚の極みでしょう。今、私と村長の距離なら....ね?」
これもハッタリだか、その未知の人間に対しての技量を推し量るのは村長であれ、不可能だろう。
まして、この見たことも無い服を見れば、信じざるを得ないだろうとーー
「カカッ!」と笑い声を上げる村長
「わかった。応じようかの、食えん奴じゃわい」
村長がそう告げると俺は安堵する。
そして、そこからは日取りを決めて
2日後にエンス村に来ると言う事になった。
そこで改めて、村の話し合いを行うと言う流れだ。
この話が終わると、部下の連中は部屋から退室していき、それと入れ替わりに女性が数人、食事を運んできたのだった。
「一杯食わされたからの、ワシも何か食わしてやらんといかんじゃろ?」
カカッと笑いながら村長はもてなしてくれる事になった。
しかも、配膳の女性がそのまま隣にすわりお酌までしてくれると言うご褒美付きだった。
しかし、エンス村然りクルス村にも美女が多いのだと実感した。
ティアにも負けず劣らずの美貌が俺を虜にしてくる。
「天国か!?」
「クルス村じゃ」
村長のツッコミだった。そこは隣の美女だろうと言いたくなったが、思い止まる。
「最後の話じゃが、あの時、本当にワシに攻撃するつもりじゃったのか?」
「いやいや、丸腰ですよ。その前に部下に私が仕留められたでしょう」
村長の笑い声が響く。
「若いのに、聡いのぉ、それにその自信じゃ全く一杯食わされただけじゃなかったのか」
嬉しそうに、語る村長との晩餐はこの後も続き親睦を深めていった。
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