第3話 手続き
「と言うわけで特定第3号権を行使される、と言うことでよろしいですね?」
「...はい。」
今、私はお役所に来ている。
ここまで至った経緯を説明しようと思う。
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4時間ほど前、母さんから電話がかかってきた。かけてくることなんて到底ないから、権利の話だろう。
「もしもしー?アリア?」
「はい」
私はこの人が嫌いだ。
できる限り距離を置こうと思って敬語を使う。
「メール届いたんだけど、やってみなよ!チャレンジは大事だよ?」
「そんなの今やってますけど」
今、この社会に不満を持つ人のために新しいプロジェクトを立ち上げているところなのだ。何年も同じ研究で、何度も何度も毎回同じことをやって失敗している人には言われたくはない。なぜ周りの研究者より劣った母さんが上に行ったのかいまだに謎だ。
「これをやると私のところにも特典がくるのよ〜やっぱり
特典、というのは優遇サービスらしい。
母さんが上に行ったせいで苦労したのは父さんと私だ。
普通、家族がいて天界に行く人は原則として家族と(優遇さは違うが)同居はできる。しかし母さんは、自分のことしか考えないで天界に行った。自分のことしか...
そう考えていると思っていることと口が同じになってくる。
「自分のことしか考えずに周りに迷惑ばっかりかけて自分ばっかりが裕福に、金持ちになりゃいいってわけならゴミクズだ」
「えっ...。」
私が怒っているのは、反抗期だからじゃない、母さんが子育てを放棄したからでもない。もちろんそれも入っているのかもしれない。しかし、今重要なところはそこでは無い。
別居しているとはいえ家族なのだし、自分の夫と娘を見捨てて上に行ったわけだ。
「ほんと困った子ねぇ...」
スピーカーから聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「困った子じゃないし何考えてんの」
むしろあんたの方が人間としてヤバいやつだろ...
「分かってね、アリア。なんでやって欲しいかってね。研究のためなの」
なんでも、転送装置はあるが、人体に影響を及ぼすため、人には使えないらしい。
そこでデータを取ってほしいというのだ。2次元なら3次元から助けることもできる。
「結局そうなんじゃん、異常だよ」
皮肉だ。
「じゃあいいよ。ただ、2次元に転生するのは母さんが手続きしといて。あと」
「わかったわ。」
「装置ができて、テストも終わったらこっちにそれを渡せ」
「えぇっ」
驚きの声が返ってきた。次第に口が悪くなっているような気がするがまあいいだろう。
「母さんだけがやってるわけじゃ無いんだし、それはちょっと難...」
「いいね?じゃなきゃやんねぇから」
私が協力してあげるのなら、使うのは「ダメ」ということはないだろう。
それだったらやる必要もない。
「ええ、じゃあわかったわ。聞いてみ...」
「聞いてみるじゃなくて、絶対や、れ、よ?」
話を遮った後、返事も待たずに電話を切った。それが妥当だと思った。
喋り方がヤクザみたいになってしまった。
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『決断理由:|異世界転生して人生の再スタートのため」
これで怪しまれないだろう。転送装置ができて2次元から3次元に行けて、
顔が変わるなら、復讐できるかもしれないし。
異世界転生しても記憶は残るし、お金や服、家はあるそうだ。これでしばらくは困らないだろう。
さあ、
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