第25話 初めての魔族は強くはなかったです



 夜営をしていくなかで、星羅はピギーボアをくれたお礼として休んでていいと言われたので、ありがたく朝を迎えた。


「おはよう、セイラ」

「あぁ。おはよう、ミーニャ」


 その日もその日で平和その物で、魔物や魔族の類いは一切出てこない。

 2時間ほど歩いては休憩、2時間ほど歩いては休憩を繰り返してカルテ大街道とソルテ大街道の交差する所までやって来た。

 とは言っても夜になっていて、今日の夜営はここでする事になる。


「よーし、昨日のセイラみたいにピギーボアでも探してくるか」

「止めとけよ。普通に夜、マリテラ大森林に入るなんて死にに行くような物だぞ?」


 そんな声が星羅に聞こえてきて驚く。

 自分のした事が自殺行為だったとは思ってもいなかったからだ。


「セイラ? もしかして、今ごろになって気づいたのか?」

「あ、あぁ。いつものミーニャならついてくるのに、何でついて来ないんだろうと思ったんだ」

「それは自殺行為だからね」

「あぁ、よーくわかったよ。けど、俺は上手いものが食いたい。食いたいなら獲るしかない……という事で」


 星羅はまたも森の中に足を踏み入れる。


「“‘光よ 《khafif》’”」


 明るくなった森を歩いていく。

 昨日の様に運が良いことは起きずに時間だけがただただ過ぎていく。


「見つけた!」


 魔力を探るといくつかの反応を見つけられた。


 その反応の正体は悪魔と呼ぶに相応しい見た目をしている。


「ンぁ? 人間がコんな所にアんの用だ?」

「魔族、か?」


 星羅は初めてみた魔族に戸惑いを隠せないでいる。

 見た目や、その存在全てが禍々しく、自然と体が萎縮してしまう。


「――――ッ」


 星羅は後ろから来た魔族の爪をギリギリで避ける。

 避けれはしたが、服は引きちぎられて使い物にならなそうだ。


「5体も、かよ」


 星羅を取り囲むようにして、魔族が5体いる。

 今、この状況では大魔術を使える隙は一切ない。


「“‘火法・炎狐’”」


 炎で出来た狐が魔族に攻撃を仕掛けるが、


「何だ、この生ぬるいのは」

「弱い人間だな」

「おい、俺が狩ってもいいか?」


 全くと言っていいほど効いていない様子。


「死ねぇ」


 魔族の爪からドス黒い斬撃が星羅を殺さんとしてくるが、唇を噛み切り金色こんじきの魔法陣が現れて星羅の身を守る。


「“‘雷法・紫電’”」


 紫色の雷が魔族の体に当たる。

 一瞬だけ体の動きを鈍らせたが、すぐに元に戻り星羅を切り裂かんと爪を振るってくる。


「どうにか、守りは大丈夫だな。試すか」


 魔族の攻撃はそこまで強くなく、守りに関しては問題がなかった。

 だから、どこまでの魔術が効果的かを確かめる。


「まずは」


 ――――パチンッ


 星羅が指を鳴らすと、魔族たちは一瞬だけ動きを止めた。

 次に噐晶石を取り出してから、


「“‘鋭利の刃 《spica》’”」


 9つの噐晶石が決まった形に並んで魔術が発動する。


「どうかな?」


 10の光剣が1体の魔族に突き刺さっていく。


「グガァァァアギ」

「おっ? これは聞くのか」


 魔族は苦しみだして、少ししてから動かなくなった。

 それを見た残りの魔族たちは星羅が弱い……という考え方を改めて一斉に襲いかかってくる。

 炎、風、水、土の魔法が星羅を仕留めようとするが、金色の魔法陣の前には無意味に終わる。

 そして、勝てないという事を理解したのか逃げ出そうとするが星羅はそれを許さない。


「“‘ 虚空の尾の檻 《sargas qafas》’”」


 15の噐晶石が式句に反応して、見えない檻が星羅と魔族の4体を閉じ込める。


「な、何だ!」

「何かがあって出られないぞ」

「何をした、人間!」


 またも魔族が星羅に攻撃するが結果は変わらず意味はない。


「そうだな。殺す前に自己紹介をしよう。俺は魔じゅちゅ師の天城星羅だ……」


 星羅は噛んだことを感じさせないほどの堂々とした態度を見せる。

 そして、噛んだという事実を消すために星羅は魔術を使う。


「“‘2つの腕 《castor》’”」


 8つの噐晶石と式句に反応して、バチバチッと雷で出来た大きな手が2つ、宙に浮く。

 それは一瞬にして魔族を捕まえると、そのまま握り潰した。


「よし、顔だけは残ってるな。こっちは体も」


 5体、全部倒した事を確認して、その全てを持って商団の所に向かう。

 星羅はこれで臆病者とか言う人は現れないだろうという安易な考え方をしている。


 数分して、商団の所までやって来た。


「セイ、ラ?」

「いやー、今日は手に入れられなくってね」

「だ、大丈夫なのか? というか、それは?」

「見ての通り、魔族だよ」


 それは魔族の死体。

 4つは首だけで、1つはまぁまぁ綺麗な状態。


「怪我はしてないのか?」

「うん。服が、ね。そうだ!

 “‘呑み込む者 《fumalsamkah》’”」


 10の噐晶石が式句と反応して、黒い水瓶を出す。

 そこから星羅は1つの服を取り出して着る。

 黒く、いかにも胡散臭いといった感じの服装だ。


「セイラ?」

「なに?」

「首が1つ無くなっているが」

「えっ?」


 星羅はそんなはずないと見ると、普通に1つ足りなくなっていた。

 周りに確認しても、首を振るばかり。


「チッ」


 星羅は魔力を探ると首を持って空を飛ぶ魔族の気配を捉えられた。

 が、今から魔術を発動させても間に合わないだろうし、深追いはよくない。


「俺が魔術を使った隙に盗られたのか」

「そうなのか? 私でも気がつかなかったんだぞ?」


 星羅はミーニャの力がどのくらいかわからないが、相当な物だと予想している。

 そんなミーニャでも気がつかず、星羅も気がつかないとなると相手は相当な使い手……という事になる。


 そして、星羅はこの魔族の首を盗られた事を後悔する事になるのを、まだ・・知らない。



 ※



 星羅がお世話になっている商団は今、ソルテ大街道を歩いていた。

 そして、マリテラ大森林を抜けてカラリラ大平原と呼ばれる場所に出た。


「おっ! ここは見晴らしがいいなぁ」

「セイラは見晴らしがよくても、よくなくても関係ないだろ?」

「まぁね。でも見晴らしがいい方が、なんかいいじゃん」


 そんな星羅の目には魔物が何体か見えていた。

 見えると言っても実際に見える訳ではなく、魔力的に見えるという訳だ。

 その魔物たちは物凄いスピードで商団に近づいてきているが、誰1人として気がついている様子はない。

 況してや、冒険者の中で1番ランクの高い者も気がついていない。


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