第26話 雷より速い一撃を



 星羅だけしか気がついていないだろうが、魔物の大群が商団に向かってやって来ている。


「ミーニャ?」

「どうしたんだ?」

「あっち」


 星羅は指を差して魔物が来るのを教えようとするが、視認できる距離ではないため、


「何があるんだ?」

「魔物の大群がくるから、ミーニャには先に教えておこうと思って」

「そうなのか?」


 ミーニャは半信半疑といった感じで、魔物の方向を凝視する。


「ちなみに数はどのくらい何だ?」

「大体だけど100体くらい」

「そ、それは早めに言わないと!」

「待って! ミーニャ、流石に信じてもらえないだろうからいいよ」

「でも、星羅は1人で魔族を倒せるって昨日の内に知ってるから、信じてくれると思うが?」

「白ランクだよ? それも初心者の初心者」

「そうだけど……」


 ミーニャはやっぱり、納得の出来ない様子。

 星羅は渋々、冒険者の中で1番ランクの高い者に声をかける。


「あのー」

「ん? 確か、セイラだったね。何かな?」

「あっちの方向から、魔物の群が向かってきてます」

「そ、それは本当か?」


 星羅が「はい」と答えようとした時、声をわざとらしく被せて、


「リーダー。そんな白ランクの言うことを聞くんですか? しかも見えないじゃないですか」

「そうは言っても、セイラは昨日に魔族を狩ってきたじゃないか」

「そ、それは……そうだ! コイツは魔道具から出したんですよ。それを自分が殺したかのようにして」

「そうか?」


 銀ランクの男は考えてから、


「セイラ、後どのくらいで見えてくるかわかるか?」

「はい。望遠鏡か何かを使えば5分後には見えるでしょう。10分すれは視認できて、30分すれば戦闘を始めないといけません」

「わかった。まぁ、信じれないやつがいるから、一応は気に止めておく」


 そう言われて星羅は下がる。


「本当だったね」

「だろ? 普通に白ランクなんて信じられないんだよ」

「でも、今の会話は結構な人に聞こえてただろうから5分後に魔物が見えたら星羅は確実に信用されるだろうな。けど、実力を隠さないで良いのか?」

「俺はこれでも魔法の才能はアリって言われたんだよ?」

「それは言わせたの間違いじゃないのかな?」

「そうとも言う……」


 そんな話をしていると、あっという間に5分という時間は流れて、


「り、リーダー! 見えました! それも1体や2体じゃありません! 100体以上はいるものと思われます!」

「なに! ほ、本当か? 見間違えじゃなくて、本当に100体もいるのか?」

「はい。このまま進めば30分後には戦闘が始まるでしょう」


 その言葉を聞いて、冒険者たちの間に緊張が走る。

 そして、1人の男が、星羅に突っかかってきた男が声をあげる。


「アイツだ、アイツが呼び寄せたんだ! じゃなきゃ見えない時から言うのは無理だ!」


 そんな、星羅にとっては検討違いな事を言ってくる。

 が、冒険者からしてみれば100を越える魔物と相手をするのは現実逃避をしたくなる事。

 そこに丁度、悪者が現れたらとる行動は1つ。


「そうだよ。アイツは勇者についていかなかったんだ。そのせいで天罰をくらったんだ」


 誰かがそう言うと、次々と広がっていく。

 それは、星羅を置いていけばどうにかなる、という検討違いな考えに向かっていく。


「セイラ?」

「大丈夫だよ。薄々、こうなるんじゃないか、って思ってたから」

「いや、セイラならあの大群を一撃で仕留められるだろ? 距離もあるんだし」

「うん。でも、やったらやったで畏怖されるだけだしね」

「……やらない、のか?」


 星羅は考える。

 ここでどんな行動をとるのが正解なのかを。

 大人しく追放されるのか、大魔術を使って一掃するのか。


「セイラ、士気の関係上どうしても、ね?」

「わかりました。けど、最後に教えてください」

「何かな?」

「あの魔物の名前と特徴を」

「そんな事か。あの魔物はベルウルフ。群で行動をするんだけど、あそこまでの大群は見たことがない。そして目を見ればわかるんだけど赤く染まってるっぽいんだ。それは怒ってるのを意味して、普段は人を襲わないんだけど、この時ばっかりは……」


 星羅はそれを聞いても特に何かが変わるわけでもない。

 が、殺す魔物の名前くらい知っておきたかったという気分の問題だ。


「り、リーダー! あの中にベルルフウルフも居ます」

「なに? それは厄介だな」


 星羅はそんな会話を尻目に商団から離れていく。


「行かないの?」

「こっちの方が安全だと思ってね」

「根拠は?」


 ミーニャは1人の男、星羅に突っかかってきた男を指差す。

 が、星羅からしてみれば、その男が原因だとは思えない。


「昨日、セイラは魔族を狩りに行ってたから知らないと思うがあの男はベルウルフの上質な毛皮を自慢していたんだ」

「上質な毛皮?」

「そう。上質な毛皮はベルウルフの子供からしか採れない。それの匂いを感じとったと考えられるんだ」

「なるほど……他の面々は気がつかないのか」


 気がついていたら、星羅は追い出されていないだろう。


 数分が経過して、商団とは結構な距離が空いた。

 そしてベルウルフの大群は速度を上げた商団に向かっているのは変わらない。


「あそこにいる人たちは全員死ぬだろう」

「子供が殺されてるから?」

「あぁ、そうだ。ベルウルフは違う群でも仲間意識が芽生える面倒な魔物なんだ。だから、基本的には運んだりしないのが鉄則」

「でもその鉄則を破ったからって事ね」


 星羅とミーニャはソルテ大街道に突っ立って商団を見続ける。

 そして襲われた。


 冒険者の数は30。

 それに対してベルウルフは100体以上もいる。

 そのベルウルフ、1体1体が強く単独でも茶から黒ランク。

 群となると銅ランクくらいになる。

 そして、100を越える数となると銀ランクが適正と言えるが、冒険者たちの中に銀ランクは2人。

 他は下となるから勝てる訳もない。


 すると、1人の男が、商団の団長であるマルコが星羅たちのいる所に逃げてくる。

 が、すぐ後ろにはベルウルフが迫っている状況。


「“‘雷――――」

「――――ッ」


 星羅が魔術を発動する前に、横から息を吐く音と同時に突風が吹く。

 ミーニャが物凄い勢いで飛び出していき、一瞬でマルコの後ろにいたベルウルフを斬り伏せた。


「おいおい、嘘だろ? 普通に100メートルはあったぞ」


 星羅はそんな独り言を漏らしてしまう。


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