第24話 熒惑(けいこく)は災いを報せる
女は1人の友達と5人の顔見知りと知らない場所にいた。
「よく来てくださいました。私は◯◯◯◯です」
女には名前がよく聞き取れない。
そもそも知ってる言語ではない。
なのに理解出来る、理解出来てしまう。
「勇者には戦争で活躍してもらいたいのです。きっと素晴らしい力を備えてやって来てくれたのだから。他の皆さんは申し訳ありません。巻き込まれてしまったみたいです」
女は今の状況を考える。
そもそも、ここに来る前の記憶がぐちゃくちゃでわからない。
ギルドの受付嬢として仕事をしていた、はず。
「では、あなた方の力を確認してもらいましょう。リコールと発音してください」
次々に周りは言っていく。
が、女は言おうとはしない。
なぜか、本能的にわかるんだ。
自分が勇者という存在よりも強い力を秘めている事を。
「ど、どうしたんですか?」
「な、何でもありません。ただ、疲れてしまったみたいで」
「そうですよね。では先にお休みください」
女は通された部屋で休まない。
今の状況について考える。
まずは、
「リコール」
すると、1つの固い物が手に収まる。
そして使い方は自然と頭の中に流れてくる。
「えっと」
試しに使った……つもりだったが、固い物から発射されたそれは壁を壊して遠くの方で大爆発を起こした。
そして悟った。
この力は隠すべきだ、と。
何故なら、この力と同じような力を相手が持っている可能性があるからだ。
※
時は流れた。
女は自室から出ようとはせずに無能のレッテルを貼られる。
それでも、この選択が正しいと信じて。
本当は違う。
自分が前線で戦うのが怖いだけだ。
死と隣り合わせの場所が嫌なだけだ。
※
「おはようございます、受付嬢のお姉さん」
女は、受付嬢はパズルのピースがハマったかのように状況を理解した。
そして……恐怖に思考が染まる。
「では、ギルドマスター。そういう事で」
「わかりました」
星羅とミーニャが部屋から出るとギルドマスターは急いで準備をする。
受付嬢の情報を拡散する。
家の場所から家族構成。
経歴に給料まで、ギルドで把握している情報を全て揃えて紙に起こしていく。
肝心の受付嬢はまだ部屋に残って放心している。
「わ、私は」
もしも自分が力を使っていたら……と考える。
色々な人からの反感も買っただろう。
勇者を越えたという事で面倒な事は沢山起きただろう。
その全てを理解して、部屋から出る。
「な、何をしてるんですか!」
「……」
「……」
「……」
同僚である受付嬢たちやギルドマスターは答えない。
「や、止めて、止めてください。こんな事をして許されませんよ! お願いです。お願いですから、今すぐ止めてください」
泣きながら懇願するが、誰1人として手を止める者はいない。
1週間後には、その受付嬢の情報がフェルミニア王国全体に広がったが、星羅は知らない事だ。
※
「お帰りなさいませ。速かったですね?」
「そうですか? まぁ、仕返しは終わりましたので」
「そうなんですか?」
「はい」
マルコはあまり信用しきれていない様子だった。
そして出発の時間になった。
「セイラ?」
「どうしたの、ミーニャ」
「あ、あの」
「あぁ、怖かった?」
「少しだけ」
「それはごめんね。ミーニャも思うでしょ? 何で力を隠してるんだ、って」
「正直、気になってはいたが、セイラから言わない限り聞くつもりはない」
「うーん。まぁ、ミーニャは信用出来そうだし言うけど、俺のいた世界だと魔術を消そうとする存在がいるの」
その存在は魔術に対抗するために科学で色々な事をする。
その中には魔術師その者を殺すための道具もある。
そんな存在たちは魔術を知る者を良しとはしないから、現世組に知られる訳にはいかないのだ。
「なるほどな。仲間を守る為にも言えない、と」
「そういう事。わかってもらえて良かったよ。それから俺のスタンスは折角異世界に来たんだから楽しむってね」
「それは……」
「でも、一応は魔族を勇者たちより倒してるんだよ? 誰にも文句は言わせないよ」
「な、なるほど?」
そのまま、フェルミニア王国と軍国ルベルトを繋ぐカルテ大街道を進んでいく。
カルテ大街道をある程度行くと、商業都市シャルドニアと魔法国家ユリエーエを繋ぐソルテ大街道がある。
ソルテ大街道もカルテ大街道もマリテラ大森林に囲まれているので、道は塗装されているがいつ魔物が出てくるかわからない。
星羅はそんな道を警戒半分、考え事をしながら歩く。
「イラ、セイラ」
「ん? 何?」
「考え事ですか?」
「あぁ、ちょっとね。ここでも威力を発揮する魔術を作ろうかな~ってね」
「つ、作る? そんな事が出来るんですか」
「まぁね。最初は大変だろうけど、いい案は浮かんでるから」
「そう、なのですか」
星羅はその為の準備段階として、夜になるのを楽しみにしていた。
魔物も出なく、特に問題なく進んできた。
「今日はこの辺で夜営をします! 冒険者の皆さんには食事を用意してありますので」
マルコは優しく冒険者全員に食事を振る舞った。
とは言っても長い旅となるので食事は簡易的な干し肉と黒パン。
「ミーニャ、魔物って食べる風習ってある?」
「はい? そんなの当たり前……はい、食べる風習はありますよ」
ミーニャは星羅がこの世界の住人じゃない事を思い出して優しく答える。
それを聞いた星羅はミーニャに「ありがと」とお礼をしてからマリテラ大森林に姿を消した。
「流石に干し肉だと俺は辛いから、何か丁度いいのはいないかな?」
流石、御都合主義!
とはならずに、出てきたのは虫型の魔物。
星羅は燃やす事で対処する。
そのまま探し続ける事、数分。
星羅が見つけたのは大きな猪のような魔物。
「豚のようなもんだから肉は美味しいよね?」
――――フゴォォォン
星羅の質問に答えるように鳴く。
――――フゴゴォ
「“‘抉れ 《altalaeub》’”」
星羅が腕を
倒した猪の魔物を引きずりながら商団に合流する。
「せ、セイラ!」
「ただいま。これを狩ってきた」
「それはピギーボアか?」
「ごめん、名前は知らない」
星羅は足で地面を2回ほど叩いて岩の棒を出す。
それを猪の魔物に串刺しにして焼いていく。
「美味しそうだな」
「よければ一緒にいかがですか?」
「いいのか? じゃあお言葉に甘えて」
そして星羅は他の人の方を向いてから、
「皆さんもいかがですか? 流石に俺も1人では食べきれないので」
返ってきた答えは「yes」。
星羅の事を殺意の籠った目で見ていた人を含めて、皆で猪の魔物、ピギーボアを囲んで楽しく過ごした。
その日の星は綺麗だった。
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