第23話 情報はきちんと管理をしましょう



 依頼の集合場所となるフェルミニア王国の外壁門近く。


「よろしくお願いします。天城あまき星羅せいらです」

「ん? あぁ、君か。聞いてるよ。勇者と一緒に召喚されたのに魔族と戦う事を放棄した臆病者だよね」

「えっ?」


 星羅は最初、意味がわからずにフリーズした。

 が、すぐに言ってる意味を理解して、理解に苦しんだ。

 なぜ召喚された事を知っているのか。

 また、誰から聞いたのか。


「まぁ、いいや。普通に自分の命は大事だもんね。私はこの商団の団長をしているマルコ・リュダンダルフだ。ユリエーエまではよろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 星羅は納得のいかない様子で挨拶を済ませる。

 色々と聞ければよかった。

 聞ければよかったが、次の人が来てしまい星羅は退かざるおえなかった。


「セイラ。今のは本当なのか?」


 ミーニャが小声で聞いてきたから、小声で「そうだ」と答える。

 そして、


「まぁ、気にしても仕方ないよね。それにセイラは魔族を倒したんだから」

「うん……そうだけど」


 星羅は基本的に周りの視線は気にならない。

 が、その中に殺意の籠った視線があると、つい反応してしまう。

 どうやら、星羅が呼ばれた存在であるにも関わらず魔族を倒す事に尽力しないのが許せない者らしい。


「あの、マルコさん」


 星羅はマルコが誰とも話してない時を見計らい話しかける。


「ん? どうしたんだい、セイラ殿」

「あの、さっきは聞いたと言いましたが誰から聞いたんですか?」

「あぁ、その事か。そんなのギルドからに決まってるじゃん。ギルドから誰が受注したかの名前が送られてきてね。君のだけ追記があったんだよ」

「へぇー、なるほど」

「ん? あぁー、そういえばギルドの契約書には個人情報を流出させないとかそんな様なのが書いてあったね。出発は今から2時間後だから間に合うんだったら行ってきていいよ」

「ありがとうございます」


 マルコは流石、商人と言うべきか信用第一で、星羅の信用を勝ち取るために手伝いをする。

 星羅を呼び止めて証拠となる追記の書かれた紙を渡してくれた。


「本当にありがとうございます」


 星羅は急いでギルドに向かう。

 もちろん、というか……なぜか、というか、ミーニャまでもがついてきている。


「なんで?」

「また近くで魔法を見れる機会があるかもしれないじゃないか」

「そんなに魔法を使いたいのか?」

「あ、当たり前だ!」


 星羅は身体能力を魔力によって強化したが、ミーニャは普通についてきている。

 魔力も使ってなければ、精霊も手伝っていない。


 そして到着した冒険者ギルド。

 まだ5分くらいしか経過していないから、時間的余裕はとてもある。


「なんのご用ですか?」

「これはどういう事ですか?」

「これは……な、何ですか? よく作られた物に見えますが」


 その受付嬢は心当りがあるのか少しだけ脈拍が早くなり、額に汗を少し浮かべている。

 星羅は声と視線に魔力を乗っけて、


どういう事ですか・・・・・・・・?」

「ッ……わ、私は知りません」


 それでも頑なに認めようとはしない。

 泣きそうな顔をしている受付嬢を見て、何人かの冒険者は動かされる。


「おい、あんちゃんよ。そんな怖い顔して脅すのはよくないんじゃ――――」

「――――黙れ・・


 視線と声の魔力を強めてそう言う。

 すると男は尻餅をついて、腰を抜かしたのかズルズルと下がっていく。


どうしても・・・・・認めないんだな《・・・・・・・》?」

「で、ですから私じゃありません。上の指示だったんです」

「ほぅ、それで、上って誰だ?」

「マスターです。ギルドマスターです」


 周りの視線……特に他の受付嬢たちからの視線が冷やかな物になる。

 その視線の先にいるのは星羅ではなく、星羅が問い詰めている受付嬢に向いている。

 すると、受付嬢の1人がギルドマスターを連れてきた。


「何用だ? 受付嬢を泣かして」

「これはお前の指示らしいな」


 星羅はその紙を見せる。

 すると驚いた様子で紙を凝視してから、


「場所を変えよう」

「いいだろう」


 ギルドマスターと星羅の相手をしていた受付嬢。

 それからミーニャを加えた4人が部屋にいる。


「まず始めにこれは本物だ。こんな事になり申し訳ないと思っている」

「あぁ、だろうな。だが、そこの受付嬢は良くできた偽物っていう話だぞ?」


 受付嬢は体をビクッと震わす。

 星羅は今、魔力を包み隠さずに放出している状態で、魔力に耐性の無い者だと気絶してしまう。

 魔力に耐性があっても威圧になるほどの魔力だ。


「これはギルド全体のミスでもあります。今後、この様な事の無いように尽力をするので――――」

「――――穏便に、なんて済まさないからね?」


 ギルドマスターは考えていた事を言い当てられ、驚きが顔に出てしまう。

 そして、いくらギルドマスターと言えど、星羅の魔力に当てられて勝てないと理解してしまい実力行使も出来ないでいる、まさに八方塞がりだ。


「さて、俺には時間がない。だから色々と仕返しをしてもいいよね?」

「な、何をするつもりですか?」

「うーん、例えば神の力がたまたま・・・・この冒険者ギルドに降ってきたり」

「ッ!」

「あっ、まずはそうだな。

 “‘熒惑の炎 《antares》’”」


 15の噐晶石が星羅の式句と反応して魔術が発動する。

 それは受付嬢だけに作用する。


「な、何を」

「簡単な話。これってコイツの筆跡で間違いないでしょ?」


 星羅は受付嬢を指差して聞く。


「は、はい。それは間違いありません」

「だから、夢を見てもらってるの。知りもしない土地に巻き込まれただけで未知の敵と戦うのはどういう事なのか、ってね」

「そ、そんな魔法が」

「次。コイツの個人情報を下さい。それをギルドの名で流出させて下さい」

「それは――――」

「――――何か・・?」


 星羅の視線は刃物のように突き刺さり死の幻覚が見えてしまう。

 星羅の声は脳に溶けて体の自由を奪っていく。

 殺気と言霊に当てられてギルドマスターは力なく、


「わかり、ました」


 そう答えるしかなかった。


 ――――パチンッ


「おはようございます、受付嬢のお姉さん?」


 星羅はその瞳の奥を覗き見る。

 そこはもう恐怖に支配されていた。


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