第22話 消された記憶と消えない記憶



 その日は朝から……否、朝になる前から騒がしかった。

 もちろん理由はある。

 それは星羅が使った大魔術だ。

 その大魔術によって魔族たちは一掃されたのだが、誰も……本人ではない1人を除いては誰も、誰が魔法を使ったのかわからないのだ。


 そしてここ、王城でも誰が使ったのかを探している。


「まだ見つからないのか!」

「はっ。宮廷魔法師であるチャロさまも、勇者一行である誰も違うと言っています。そして、冒険者等に問い合わせた所、使ったと言う者が後をたちません」

「その中にはいないのか?」

「はい。もう1度使えと言っても使えないと言い訳したり、諦めたりする者ばかりです」

「そう、か。では、あれは神の力だとでも言うのか?」


 国王は誰が使ったのかわからないという事に凄く残念に思う。

 そこまでの使い手となれば、城で抱えて魔族にも対応出来るようになると考えてしまう。


「1つ、宮廷魔法師であるチャロさんが虚言を」

「なんだ? 言ってみろ」

「これは絶対にセイラ殿が使ったと言っています」

「何を馬鹿な」


 国王は半笑いになりながら続ける。


「あのセイラ殿か? 魔法の才能もないし、これ以上勇者一行と一緒にいても足を引っ張るだけだから金だけ渡して追い出したというのに」

「私も、おかしいと思い、チャロさまに何度も聞きましたが答えは同じでした」

「そうか。まぁ、虚言として切り捨てろ。そして、神が力を貸してくださったと言って回れ」

「はっ。かしこまりました」


 報告しに来た騎士団の1人は部屋を出ていく。

 そして国王は、理由のわからない頭痛に悩まされていた。


「セイラ殿は魔法の使えない存在だったはず」


 なのに、何か大事な……とても大事な約束をしたような気がしてならないでいる。


「黒の騎士団」

「お呼びですか、国王」

「セイラの所在は?」

「付けていたのですが見失いました」

「まだこの国からは出てないと見える。必ず探し出して監視を続けろ。そして逐一報告をしろ」

「はっ。失礼します」


 黒い騎士団の1人は一瞬で姿を消す。

 やはり頭痛は治らなかった。



 ※



 所、変わらず王城。


「なんで? セイラ殿が何かをしたとしか考えられません! 昨日の大きな音と、光が関係しているのでしょうか?」


 チャロは昨日、光の届かない場所、地下牢に来ていた。

 理由は簡単で、リーデンス親子が逃げた時に匂った甘い香りが気になったからだ。

 何かしらの手がかりがあれば……と。


「セイラ殿は何の為に」


 理由のわからない行動に頭を悩ませるだけだった。



 ※



 またまた、所、変わらず王城。


「それって星羅に貰ったやつだよな?」

「あぁ、そのはずだよ」


 真昼は手にある粉々に砕けた黒い石、魔晶石を見て夕士郎の質問に答える。


「あの時、俺は死んでいたはずだ。魔族の爪は俺の体を捉えて貫いていたはずだったから」

「けど、実際は星羅のくれた石が壊れるだけで傷は無し。相手の魔族も驚いてたよな?」

「うん。そして次の瞬間には強い光と音で魔族は消えていた」


 こちらも、星羅が魔術を使えるという事を忘れて……記憶から消されている。


「そういえば夕士郎は本当に商業都市に行くのか?」

「んー、考えたんだけどやっぱり真昼についてくかな」

「本当? よかったぁ」


 真昼は親友がついてきてくれるという事実に胸を撫で下ろした。

 ただ1人、灯だけは浮かない顔をしたまま。



 ※



 ――――ドンドンドンッ


 勢いよく叩かれた扉の音で星羅は目を覚ます。


「んーー。やっぱりお城のベッドの方が気持ちよかったな。で、誰ですか?」

「私だ! 昨日、会っただろ」

「えっと、確かミーニャさんだっけか?」


 星羅は扉を開けながら確認する。

 すると、昨日一緒に魔族を倒しにいった少女がそこにはいた。


「何の用だ?」

「セイラは知らないのか? 昨日の魔法を使った者に報酬を与えると国王が言ってるんだぞ」

「で?」

「その本人であるセイラが行かなくてどうする」

「は?」


 星羅は一瞬だけ意味がわからず制止する。

 そして頭を振ってから、


「俺が魔術を使える事を覚えているのか?」

「何を言っているんだ? あんな凄いのを間近で見せられて忘れる訳無いだろう」

「……」


 それを聞いて星羅はミーニャをジッとよく見る。


「そんなに見られると恥ずかしいのだが……」


 星羅はよく目を凝らしてから、魔術的な観点からも見る。


「せ、セイラ? 何かついていますか?」

「なるほど、な」


 星羅は1人納得した様子で、


「はぁーー?」


 驚いた。


「なんで精霊がこんなに!」

「ッ」


 星羅の「精霊」という言葉にミーニャは反応したが気がつかなかった。

 星羅のいた世界、地球では精霊なんて存在はいなかった。

 そして、もちろん神という存在も。

 ただ、神の力とされる魔術はあって、それはその世界で信仰されていたり、信じられていたり、認知されていると力を発揮するという物。

 その中の1つが星羅の固有魔術である【星座喰い 《constellations eater》】。

 星座はこの世界になく、知ってるのは星羅や現世組だけ。

 だからこの世界だと威力が落ちてしまう。


「なるほどな。色々とわかってきた」


 ちなみに、昨日の魔術は星羅の魔力で無理矢理大きくしただけで、本当ならあの数倍の力は発揮していた。


 そして、ミーニャの周りにはおかしなほど精霊が飛んでいる。

 まるで、外敵からミーニャの体を守るかのように。


 ――――パチンッ


「どうしたの?」

「やっぱり、か」


 星羅の魔術が全然効いていない。

 今の相手の思考に「空白」を入れる魔術も意味がなかった。


「ミーニャは剣士なんだよね?」

「そうだが?」

「魔法は使わないの?」

「それが使いたくても使えないんだ」

「なるほど……精霊に邪魔されてるのか」

「精霊が? そんな訳ない! 精霊は私の体を守ってくれてるんだぞ」

「ごめんごめん」


 星羅はミーニャがどこまで認識しているのかわからずに上手く切り出せなかった。


「それはそうと、セイラは行かなくていいのか?」

「あぁー、あれは良いよ。色々と面倒な事になるから、さ」


 そう言って、星羅はミーニャと冒険者ギルドに向かう。

 昨日とは打って変わって掲示板には色々な依頼が貼り出されていた。


「おっ、丁度良いのがある」

「セイラは魔法国家ユリエーエに行くのか?」

「うん、そうだけどなんで?」

「いや、目的地が同じだと思ったから」

「なるほど。じゃあミーニャも一緒に受ける? 人数はまだ余裕があると思うから」


 その依頼は募集しているのが30人ほど。

 行商人の護衛が主な仕事だ。

 

「そうだな。私もその依頼を受けよう」


 そう言って、星羅と一緒に受付に行く。


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