第21話 魔族には会えませんでした



 星羅の魔術により現れた鋭利な岩は魔法使いを仕留める事は出来たが、剣士は戦闘の勘が優れているのかギリギリの所で対処される。


「何をしたか知らねぇが終わらせてもらう」

「わかった」


 ――――パチンッ


 指を鳴らすと、剣士は一瞬だけ思考が止まる。

 何も考えられずに「空白」が生まれて、星羅はその隙を逃さずに蛮刀を奪い喉元に当てる。


「俺の勝ちだ」

「い、いつの間に!」

「弱いな。それに魔法使いの魔法も見れずじまい」

「弱い、だと? これでも俺たちは銅ランクの冒険者なんだぞ!」

「負けたのにそれを言う?」


 星羅はあまりにも弱かった事に対して残念に思ったのか、


「もう1回チャンスをあげるよ。多分だけど手加減してたでしょ? 弱いと思って」

「もう1回だぁ? 面白い。やってやろうじゃないか」


 倒れていた魔法使いも目が覚めたのか同意した。

 そして次は先手を譲ってくれる事もなく、星羅をここまで連れてきたギルド員が審判を勤める。


「それでは、相手を殺すのはダメ。どちらかが降参、または戦闘不能になるまで……始め!」


 その言葉で剣士はいきなり接近してくる。

 星羅の気になっている肝心の魔法使いは、


「“‘終焉の時、近く。破戒と創造、地の力を示して人々を恐怖に染め上げろ」


 長ったらしく魔法の詠唱をしている。

 星羅はその2人を待ってあげるほど優しくはないので、


「“‘鋭利の刃 《spica》’”」


 9つの噐晶石が決まった形に並んで魔術が発動する。

 星羅を守るようにして、宙には10本もの光剣が現れる。

 その光剣は迫ってくる剣士の蛮刀を斬り、5本は剣士の動きを止める。

 もう5本は魔法使いに迫り喉や手、胸などに押し当てられ動きを封じた。


「……」


 星羅は審判をしているギルド員を見ると、唖然としていた。


「まだ、か」


 星羅は光剣を操り、死なない程度に切り傷を付けていく。

 腱から太股、手の甲、頬、等々と斬り付けていくと、


「そ、そこまで! セイラさんの勝ちです」


 その合図で星羅は光剣を消すと、2人の、剣士と魔法使いは地面に経たり込んだ。


「ギルド員さん。試験はどうですか?」

「も、問答無用で合格です。これなら、攻めてきた魔族にも対抗――――」

「――――行きませんよ?」

「はぇ?」

「だから、俺は魔族を倒しになんて行きませんよって言ったんです」

「いやいやいや、何ですか? それだけの力があるのに行かないなんて」

「強制では無いですよね?」

「それはそうですが……あっ! で、でも2人に勝てるほどの力があれば銅ランクに、いや、銀ランクに出来るので、指名依頼が出来ます!」


 星羅は「そう来るか」と言ってから指をパチンッと鳴らす。

 そして、3人の記憶を改竄かいざんする。


 星羅は何とか頑張って戦ったが、素質はあるものの勝てなかった。


 というのが今回の試験のシナリオだ。


「では、白ランクからですよね?」

「はい。素質はあると思いますが、まだ銀ランクは速かったですね」

「ランクの順番だけ教えてください」

「ランクは白から始まって黄、緑、茶、黒、銅、銀、金という感じです」


 ギルド員にギルドカードを貰ってから、どんな依頼があるのか掲示板を見る。


「今はこの1枚だけか」


 全て剥がされたのか、残っているのは魔族を倒すという物。

 魔族を1体倒す事に10,000グルという報酬。


「旅費を少しは貯めたいからやるか?」

「残念ですが、白ランクだと出られませんよ?」

「そうなんですか?」


 星羅が1人で悩んでいると、少女が声かけてきた。

 その人も白ランクで、武器はおかしなほどの剣。

 ざっと見ただけでも10本以上はある。


「まぁ、君なら大丈夫だと思うけどね。あっ、私はミーニャ。ミーニャ・ララテンだよ」

「はぁ」


 星羅は困った様子で一応は名乗る。


天城あまき星羅せいらです。こんなナリだけど魔法使いです」

「ふーん、アマキ・セイラね。あのアマキ・セイラかな? まぁ、魔法使いっていうのは知ってるよ」

「あのアマキ・セイラです。でも何で魔法使いって?」

「さっきの試験は凄かったね」

「えっ?」


 星羅はここで、1つの答えを導き出す。

 いや、普通にわかるか。


「見てた、のか?」

「うん、見させてもらったよ。なんか魔法が魔法じゃないみたいだったよ。あっ、でも宮廷魔法師のチャロさんが使ってたのに似てるね」

「何が言いたい?」

「そんな怖い顔をしなくてもいいじゃん。誰にも言わないからさ。でもそうだな~」

「……」

「そうだ! 魔族を倒してよ。スッゴい魔法を使ってさ」

「……わかった、いいだろう」


 星羅はこの機会を利用する事にした。


「あっ、でももうすぐ夜だから危ないか」

「気にしないで良いよ。逆に好都合だから」

「何が?」

「見ればわかる。行くなら行こ」


 星羅はその少女、ミーニャを連れてフェルミニア王国を囲むマリテラ大森林に移動する。

 マリテラ大森林は木々が生い茂り、朝でも昼でも薄暗いのが特徴的。

 そして夜は月夜も届かない真っ暗闇と化すはずなのだが、


「明るいな」

「燃えてるからね。これは大惨事になりそうだよ」

「あぁ、森が減るのは良くない事だからな」


 星羅は4つの噐晶石をポケットから出して握る。

 そして、


「“‘魔力回廊・形成 《magia andron-formation》’”」


 心臓に魔力を流して循環させる。

 すると、星羅の魔力がどんどんと膨れ上がっていく。


「“‘魔法陣・展開 《circulus magicae-deployment》’”」


 幾重にも重なった魔法陣が広大なマリテラ大森林に広がっていく。

 魔族の気配を1つ、2つと捉えていく。

 その数はどんどんと増えていき、1000はいる。

 星羅はそんなに潜伏していた事実に驚きながらも次の段階へと進む。

 手にある4つの噐晶石を宙に投げてから、


「“‘暁の時 《elgenubi》’”」


 月夜も届かないほど分厚い雲が天を染めていく。

 そして、バチッバチッという音をたてて、雷がいくつもいくつも発生する。


「こ、これは」

「一瞬だから、よく見てるんだよ」


 カッと目も開けられないほどの強い光が辺りを包んでいく。

 その光は朝がきたのかと勘違いしてしまうほど以上の明るさで、


 ――――ガジャガァン


 耳を、鼓膜を破るほどの大きな音が聞こえたかと思うと、マリテラ大森林にいた魔族の姿は消えて無くなった。

 それと同時に、星羅はもう1つ魔術を使っていた。


 それは記憶を改竄する魔術。

 星羅が魔法を使えるという事実を知るものはいなく……いなくなっ……いなくなった、のか?


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