第20話 お別れの挨拶を済ませて……



 星羅は席についてからポケットに入っている6個の黒い魔晶石のついたペンダントを取り出す。


「はい、これが全員の分ね。魔力を通せば使えるようになるから」

「これは?」

「だから身を守るための道具。魔道具って言うちょっと特殊なやつだけど、それが壊れるまでは心臓が1つ増えたって思っていいから」


 すると、夕士郎はある事に気がついた。


「星羅。もう1つは誰に渡すんだ?」


 ニマニマと厭らしい笑みを浮かべながら星羅に聞いてくる。

 そして、逃がさないと言わんばかりに肩をがっしりと組んでくる。


「わかってて聞いてるだろ? 一応な。何があるかわからないから」

「そんなんだから勘違いされるんだぜ? それに1人だけ寂しそうにしてる人がいるだろ?」


 星羅はため息をついてから1人の女の子、灯の目の前に行く。


 ――――パチンッ


 指を鳴らして魔術を使う。

 星羅に向けられている好意その物を消してしまう魔術を灯にかける。


「あれ? 星羅、何したんだ?」

「特に何も。じゃあ俺は行くから」

「そうだ! 真昼たちはこの後すぐに出るらしい。どうやら近くで魔族が出たから戦いに行くんだとさ」

「夕士郎は?」

「俺も行ってくるよ。まぁ、商業都市シャルドニアに行くまでの間にな」

「いつ行くんだ? 後、1ヶ月後だな。丁度その時に定期便が出るから」

「なるほど、な。まぁ、気を付けて」


 星羅はそのまま、荷物を纏める為に部屋に戻った。



 ※



 ――――トントントン


「入れ……おぉ、セイラ殿か。どうした、んだ?」

「そろそろ行こうかと思いまして、挨拶に来ました」

「そうか……マヒル殿たちには挨拶はしたのか?」

「はい。それと、これをチャロに」

「ん? 自分で渡せばよかろう」

「変な噂が立つと良くないので」


 星羅は国王に7つ目の黒い魔晶石のペンダントを預ける。


「何か欲しい物は無いか? 最後ではないだろうが出来る限りの物を準備する」

「いえ、大丈夫です」

「そうか? じゃあ最後に……暇があれば軍国ルベルトにもよってくれ。そこは魔族たちが攻めている最前線だから、セイラ殿が大きな魔法を1発だけ放つだけでも士気は上がるだろう」

「考えておきます」

「あぁ、そうしてくれ」


 星羅は国王への挨拶を済ませて城を出る。

 そして、向かうは冒険者ギルド。

 そこから、魔法国家ユリエーエに行く集団についていこうという算段だ。


 冒険者ギルドはすぐに見つかった。

 見た目も分かりやすく、中は昼間にも関わらず賑やかだった。

 否、慌ただしかった。


「おい、マリテラ大森林の様子は!」

「魔族は何体でた!」

「勇者さまが向かわれたそうだぞ! 俺たちも行くぞ!」


 一瞬のうちに話は纏まって、大部分の冒険者たちがギルドから姿を消した。

 それを尻目に星羅は受付にいく。


「ご依頼ですか?」

「いえ、冒険者になろうと思って来ました」

「……失礼ですが、貴族様でいらっしゃいますよね?」

「えっ? 違うけど……」


 そこで星羅は理解する。

 今の服装は転移してきた時に着ていた制服。

 そんな姿では間違われるのも無理は無いというもの。


「ごめん。これは色々とあってね」

「そう、ですか。では、身分証の提示をお願いします。その後にいくつか試験をさせてもらいますので」

「わかりました」


 星羅は身分証を見せて手続きを済ませる。

 そして、書類を書いてから契約書にきちんとサインをする。

 契約書には当たり前の事、事件を犯したらギルドは関与しないだとか、個人情報はきちんと管理するとか、ギルド員たちの争いにギルドは一切合切関わらないとか、様々だった。

 星羅がざっと読んだだけでも100項目くらいはあっただろう。


「こちらが身分証のお返しとなります。それでは試験場まで、この娘が案内しますので」


 そう言って紹介されたのが、どう見ても子供な女の子。


「では行きましょう。ついてきてください」

「何歳なの?」

「女の子に年齢を聞くのはよく無いですよ? でも特別に教えてあげます。昨日、10歳になりました」


 「えっへん」と無い胸をそらして誇らしげにしている。

 そして連れてこられたのが大きな広場。

 広場と言っても外壁があり、石畳の広がる戦いに適した場所だった。


「えっと、アマキ・セイラさんですね。セイラさんは……拳闘士か何かですか? 見たところ武器も無いように見えますが」

「魔法使いです」

「またまた~。冗談でも職業の所に魔法使いなんて書いちゃいけませんよ?」


 星羅は魔術師だが、この世界では通じないだろうと思い、少しは近しい魔法使いという事にした。

 が、この世界では魔法使いというのはローブを着て杖を使うのが一般的だということ。

 星羅が思い出してみると、クジュラもルノーアもロッキーもルドルフも全員が全員、杖で魔法を使っていた。

 例外がチャロとアルフレッドの2人となる。


「別に杖なんて無くても、

 “‘雷法らいほう紫電しでん’”」


 バチッという音をたてて紫色の小さな雷を起こす。


「そ、それは宮廷魔法師になったチャロ・ルースターさんが使っていたやつに似ている……確か名前はアマキ・セイラぁ?」

「あっ、そういえば変な噂が立ってたね」

「あ、あの、チャロさんとどういう関係何ですか?」

「それよりも試験を開始してください」

「今、教えてくれれば試験を問答無用で合格にしますから」


 そんな魅力的な提案をしてきたので承諾しようとしたが、一足遅かったようで、


「ソイツが試験を受けにきた人か?」


 いかにもガラの悪そうな見た目で武器は蛮刀に似ている。

 その後ろから、THE・古い魔法使いという感じのローブに杖を持った男がやって来た。


「おい。コイツってあのアマキ・セイラじゃないか?」

「ん? そういえば似顔絵にそっくりだな」


 試験官である剣士と魔法使いはチャロのファンだったらしい。

 目を光らせてから、


「おい、今から試験を始める」

「先手は譲ってやるが容赦はしないからな」


 どうやら2対1で戦わなければいけないらしいが、星羅からしてみれば1人も2人も弱ければ変わらないも同義。


「なら先手をくれた事を後悔させれるように」


 ――――タンタンッ


 星羅は足で地面を2回ほど叩くと、放射状に鋭利な岩が2人を仕留めんと飛んでいく。


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