第19話 噂が拡散されていく



 星羅とチャロが王城につくと、メイドや騎士団たちからの視線が暖かい物になっていた。

 肝心の2人はその理由がわからないまま国王のいる応接間までやって来た。


「さて、色々と聞きたい事があるが、先にお礼を言わせてもらう。ありがとう」

「「……」」

「私が何を言いたいのかわかるよな? 特にチャロ、君がいればセイラ殿を止めてくれると思ったのに」

「わ、私が気がついた時にはセイラ殿が魔術を発動した後だったので」


 国王からしてみれば星羅は巻き込まれた者で、あまり強くは言いたくない。

 言いたくは無いが、言わざるおえない。


「セイラ殿? わかっているのか?」

「はい、ごめんなさい。正直、楽しくなってやり過ぎた所はありました」

「別に私は良いんだよ? だがな、他の貴族たちが黙っていないよ。そんな強力な魔法を使えるとなると色々な手を使って引き込もうとしてくるだろう」

「……はい」

「時にはマヒル殿たちに迷惑がかかる事があるかもしれないんだぞ?」

「…………はい」


 星羅は本気で反省して、顔を俯かせたまま落ち込んでいる。


「まぁ、わかってくれたならいい。私が何とかしてみよう」

「ありがとうございます」

「で、だ。確認だが、ちゃんとアルフレッド・リーデンスとクジュラ・リーデンスは抹殺してくれたのか?」

「はい。俺の魔術に誓って」

「そうか。セイラ殿の魔術愛は相当な物と思うから安心だな」


 そして話が一旦、終わると国王は顔をニマニマさせながら口を開いた。


「面白い噂が城にも流れているのだが知っているか?」


 2人は顔を見合わせてから、星羅はその噂が何かを理解した。

 が、チャロは全くと言っていいほど理解してない様子。


「宮廷魔法師であるチャロ・ルースターはお付き合いしている男性がいる、とね」

「ま、まさか」


 チャロは首から耳まで紅く染まっていく。

 頭から湯気が出かねないほど真っ赤に染まっている。


「城にいた者たちは普段から結構な頻度で一緒にいる2人の事……相手はセイラ殿とわかっている様子だっただろ?」

「なるほど。だからメイドたちの視線が暖かい物だったんだ」

「街では相手が誰なのか血眼になって探しているらしい」


 星羅は軽くチャロを睨む。

 が、チャロは照れた様子で、どこか嬉しそうな感じがする。


「チャロ?」

「ひゃ、ひゃい! な、なんでごじゃいましょうか、国王」

「いや、新たな任務を思い付いてな。また追ってしらせるから2人とも下がっていいぞ」


 国王に挨拶をしてから2人は部屋を出る。


「おっ! 昼まっからお熱い事で」

「夕士郎か。なんの用だ? 冷やかしなら間に合ってるからな」

「そうか? チャロさんは満更でもない様子だけど……今はいいや。はい、これ。俺の分も作ってくれるだろ?」

「……盗んだのか?」


 夕士郎が渡してきた物は、星羅が魔道具を作るために指定した魔晶石できちんと7個ある。

 これは手に入れるのが簡単ではない代物で、夕士郎が手に入れられるとは到底思ってなかった。


「おいおい、流石の俺でも傷つくぜ? 盗んだ物じゃなく、邪々じゃじゃ堂々どうどうと手に入れたから」

「そこは普通、正々堂々と言うところじゃないのか? 何が邪々堂々だよ。どんなズルい手を使ったんだ?」

「なーに、簡単な事だよ。たまたま・・・・俺が街で歩いてたらたまたま・・・・星羅とチャロさんがいたんだ。そしてたまたま・・・・チャロさんが星羅と付き合ってる発言をしたのを見て、その後にたまたま・・・・通りかかった冒険者ギルドでチャロさんの相手が誰なのかって言う情報と交換した訳だよ。その魔晶石の1つや2つ安い物だってね」

「……なるほどな。つまり、俺はこれから狙われかねないという事か」

「あぁ、そうだぜ? ついでに言うと、星羅の写真を見せて似顔絵も描かせたから7個もゲット出来たんだ」

「お前なぁ、俺は魔法国家ユリエーエに行くまで冒険者ギルドにお世話になろうとしてたのに」

「マジ? それはごめん。で、約束の品な。じゃ」

「ちょ、待て」


 夕士郎の足は速く、普通の星羅では追い付く事が出来なかった。

 が、自分で手に入れる必要がなくなり楽だと思う半分、これから厄介事が起こらない訳ないという思いに頭が痛くなる。


「セイラ殿、それは何ですか?」

「これは魔晶石の黒いやつだよ。知ってるだろ?」

「はい。強力な魔物が落とす物で、魔法使いは魔力庫として使う事もあります」

「そう。これで魔道具を作るんだ」

「ど、どんな魔道具を?」

「まぁ、出来てからのお楽しみだな。そうだ、集中したいから俺の部屋には誰も入らないように言っといてくれないか?」

「わかりました」


 星羅はチャロとわかれて割り当てられた自室に戻る。


「さて、

 “‘魔法陣・展開 《circulus magicae - deployment》’”」


 淡く光る魔法陣が部屋の床いっぱいに広がる。

 そして魔力に反応してか、魔晶石が星羅を中心にしてフワフワと浮かび上がる。


「“‘魔力回廊・形成 《magia andron-formation》’”」


 次いで、星羅は自分の心臓部に魔力を流して循環させる。

 そうする事で周りから神力を吸収して魔力に変換していく。


「ふぅーーー。最後に、

 “‘仔山羊の怒り 《algedi ira》’”」


 9つの噐晶石が宙に浮き、魔術が発動する。

 この魔術は術者に危害が加わる時、物に身代りさせるという物。

 簡単に言ってしまえば、心臓が2つになるという事。


「完成、した」


 外はいつの間にか暗くなっていて……朝日が見えはじめている。

 所謂、暁の時だ。

 が、星羅は物凄い睡魔に襲われてベッドに横たわった。



 ※



 星羅が目が覚めるとお昼の時間になっていた。

 部屋を出て、他の皆の魔力を探り集まっている所に向かう。


 この前の険悪な雰囲気から打って変わって、


「おっ、真昼。星羅が来たぞ」

「本当だ! 星羅、色々と聞きたい事があるんだ」


 真昼は星羅を見つけると何やら嬉しそうに近づいてくる。


「聞きたい事?」

「あぁ。だが、それより2日も部屋から出てこなかったけど大丈夫だったのか?」

「……そんなに経ってたのか? やっぱり魔道具を作るのには時間がかかるな」


 星羅自身は気がつかなかったが、時間は物凄い過ぎていたらしい。


「で、聞きたい事ってなんだ?」

「その……チャロさんとどういう関係なんだ? 街でも君の話題で持ちきりだよ」

「は? そんなにか?」

「それは凄いよ。星羅の似顔絵まで流出してたし、とんだ災難だね」

「あはは」


 星羅は渇いた笑みを浮かべる。


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