第18話 探偵ごっこ? いいえ、カチコミです



 次の目的地である、目撃証言のあった場所は路地裏も路地裏で、待ち伏せや奇襲をするには「とても」がいくつあっても足りないような場所となっていた。


「この先なんだよね」

「はい。そのはずですけど、不気味ですね」


 そうは言いながらも入っていく。

 人の気配はなく、ただただ薄暗く不気味。

 


 そして通り抜けた。

 襲われる事も、奇襲や待ち伏せされることなく通り抜けられた。


「ここは成果なしですね」

「そうだね。チャロ、次の場所は?」

「あっちです」


 またも、ここから違う方向をチャロは指差す。


「ちなみにだけど、後いくつくらいある?」

「次で最後です」

「なるほど……手がかりがあるといいね」


 そう言いながら、次の目撃証言のあった場所を目指して歩き始める。



 ※



「もう我慢ならん」

「どうしたんですか?」


 星羅は探すのを飽きたというか、疲れ始めた。


「最初からこうすればよかったんだよ。

 “‘尋ね紐 《alrescha》’”」


 21の噐晶石が決まった形に並び、星羅の式句に反応して魔術が発動する。

 水で出来た短い紐が現れて、それはユラユラと移動していく。


「これは何ですか?」

「魔術。もう面倒だからね」

「そんな事にも魔術が使えるんですか?」

「そんな事ってなんだよ。無くした物って探しても見つからない時ってあるだろ? そういう時によく使えるんだよ」


 フワフワと漂うようにして移動する水の紐についていく。

 すると、星羅が知っている道に出た。

 そして近づいてくる見知った場所。


「アルテ地下迷宮の方だな」

「アルテ地下迷宮ですか? 行ったことがあるんですか?」

「うん、遊びにね」

「でも、あそこはエルミーニャ家が所有していたような? セイラ殿はエルミーニャ家と繋がりがあるんですか? あまり良い噂は聞かないので止めた方がいいと思います」

「心配ありがと。でも大丈夫だから。繋がりっていうか……なんでもない」

「気になるじゃないですか!」

「と、ついたぞ」


 ここから先はエルミーニャ家の敷地で勝手に入れないように柵が立ててある。


「この先、ですよね」

「あぁ、いるはずだ。俺の魔術が失敗してない限りな」

「失敗なんてするんですか? セイラ殿が」

「俺だって人間だから失敗の1つや2つするよ。それにこの世界に来てから俺の固有魔術の調子が悪いんだ」


 チャロは「そうには見えませんが」と言い首をかしげる。

 本当だったら、星羅が今使っている魔術も長い水の紐で、一瞬で取ってきてくれる代物なのに、この世界では道案内しかしてくれない。


「使えるだけありがたいけどね。さて、どうやって入るか」

「わ、私の宮廷魔法師の紋章は意味をなしません。それから、この敷地内を調査する場合は色々と手続きが必要なので1週間はかかるでしょう」

「そんなに、か」


 星羅は「どうしたものか」と考える。

 そして導き出された方法が、


「この中にいる使用人は俺の友達だから会えれば入れる」

「友達、ですか? いつの間にそんな友達を作ったんですか」

「ヒミツ」


 そう言いながら、柵の周りを歩いて中の様子を伺う。

 特に怪しい様子や、おかしな所は見つからない。


「君たち、この家の周りで何をしている」

「いや、友達が働いているので挨拶をしたくて」


 声をかけてきたのは、このエルミーニャ家の雇われ兵士で、柵の中を覗いていた星羅たちが怪しく見えたのだろう。


「誰だか名前はわかるのか? よければ取り次いでやる」


 その兵士は普通に優しく、星羅は御言葉に甘える事にした。

 とは言っても、相手の名前がわからないなら友達とは呼べない……怪しい人で終わってしまう。

 だからこそ、


「“‘熒或の炎 《antares》’”」


 15の噐晶石が決まった形に並び、魔術が発動する。

 兵士の目の前に淡く光る炎が現れて、次の瞬間には兵士は眠りについた。


「せ、セイラ殿!」

「だってしょうがないだろ? 友達っていうのは冗談で普通に知り合いくらいなんだよ!」

「じゃあなんで友達なんて言ったんですか!」

「そ、それは……なんでだろう?」

「はぁーー。セイラ殿、これからどうするんですか?」

「そうだな」


 星羅は、もう1つの案しか浮かんでいない。

 強行突破という後々、面倒になること間違いない方法。


「“‘穿て 《albisi》’”」


 星羅の左腕に埋め込まれた噐晶石が式句に反応して強い光を放つ。

 そして星羅が拳を突き出すと柵は大きな音をたてて一瞬のうちに壊れた。

 それだけに止まらず、緑の綺麗な芝生を突き抜けて地面に大きな穴を開けた。


「セイラ殿?」

「強行突破ってね」

「いやいや。もう知りませんからね」

「心配性だなぁ。はい」


 バンダナを口元に当てて正体がバレないようにする。

 が、それは意味を成さない事を知るのはすぐ後となる。


「侵入者だ! 捕らえろ!」

「殺せ殺せ殺せぇ!」

「絶対に屋敷には入れるな! 今はクラリス様がお客様と会談中だ! 絶対に屋敷には入れるな!」


 最後の兵士は「馬鹿なのか?」とは考えずにいられない事を言っていた。


「チャロ。聞いたね?」

「はい。そのお客様がリーデンス親子の可能性が高いですね」

「いや、確実だろうな。俺の魔術がそう言ってる。という事で、

 “‘獅子の大鎌 《leo almunajil》’”」


 9つの噐晶石が炎に包まれて、星羅の身長と同じ大きさの鎌が現れる。

 それは見るからに禍々しい力を秘めていて、見る者を萎縮させてしまう。


「来ないのか? なら俺から行くまでだ。

 “‘小さな王 《regulus》’”」


 赤く紅く燃えていた大鎌の炎は、黒く暗く燃え上がり、星羅は兵士たちを斬り裂いていく。

 斬られた兵士たちには外傷が無いが、魂が抜け落ちたかのように動かなくなる。

 星羅は器用に体の周りに大鎌を滑らせて兵士たちを斬り伏せていく。


「ふぅ、終わった」


 エルミーニャ家の庭には沢山の動かなくなった兵士たちの姿が。


「さて、粛清の時間といこうか。あの時は気分で見逃したけど止めだ。俺を人質に捕りチャロが宮廷魔法師になるのを邪魔した罪、償ってもらう。

 “‘黄昏の時 《eschamali》’”」


 4つの噐晶石が式句に反応して決まった形に並ぶ。

 そして、辺りは一瞬にして暗闇に染まる。


「せ、セイラ殿! あ、あれ」

「うん。俺の魔術だから大丈夫だよ」


 辺りを一瞬で闇に包んだ理由。

 それは、大きな闇その物が降ってきたからだ。


 闇は触れた物も者も無に還すほどの力でみるみるエルミーニャ家の財産である屋敷を包み込んでいく。

 その闇は優しく、暖かな……虚しく、儚げに。


 ――――パチャンッ


 星羅の魔術で作った水で出来た紐が壊れる。

 それが意味するのは、探し物が壊れてしまった、死んでしまったという事を意味する。


「はい。見つけ次第、殺すという任務は完了だね」

「でも被害が……」

「チャロ。被害っていうのはね、何かしらの形でついてくる物なの。今回の被害はたまたま悪人が巻き込まれたってだけだから。兵士たちはその内、目が覚めるだろうしね」

「そう、ですか」

「浮かない顔だな。国王に報告しに行こっか」


 星羅はチャロの腕を引っ張って王城に向かった。


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