第17話 小さい悪魔、小悪魔な弟子



 星羅とチャロは街に出る。

 特に手がかりという手がかりが無いので、目撃証言の確認をするために街に出てきた。


「こっちなのか?」

「はい。1つ目はこっちです」

「1つ目? ちなみにだけど、2つ目は?」

「あっちです」


 チャロは向かってる方向と違う方向を指差す。

 手がかりが無い今、その目撃証言だけが頼りだったにも関わらず、いきなり信憑性が無くなってきた。


「まぁ、我慢して行くしかないな」

「頑張りましょう!」

「チャロはあれか? 宮廷魔法師になって初の仕事だから張り切ってるのか?」

「そ、そんなに分かりやすいですか?」


 チャロは照れた様子で頬をかく。

 それだけで絵になり、道行く人は何人か落ちただろう。

 そして最悪な事に、


「あ、あの、宮廷魔法師のチャロ・ルースターさんですか?」

「えっと、はい。そうです、けど」


 困った様子で星羅をチラチラ助けを求めながら答える。

 そう、答えてしまったんだ。


「やっぱり! それで、そちらの男性は? なんの権利があって横を歩いてるんですか? 見たところ我々と同じ平民ですよね? それで抜け駆けとかよく無いんじゃ?」


 チャロはその容姿からも人気が出てファンクラブまで作られるほど。

 その1人なのか、星羅を目の敵として追求してくる始末。


「俺は――――」

「――――言い訳は聞きたくありません! いいですか? 抜け駆けは良くない事です。それをあなたはそうやって。普段はお城にいるから話すことも出来ないというのに、親しげに話して更には隣を一緒に歩くなんて」


 それをすぐ横で見ていたチャロは悪戯イタズラをしたいという気持ちになり、


「えいっ」


 そんな可愛らしい事を言って星羅の腕に抱き付く。


「「えっ!?」」

「私が誰と付き合おうが関係ありますか?」

「「えっっ!?」」

「ね、セイラ?」

「えっ? いやいやいや。チャロ、何の冗談だ?」


 男の目は今にも人を殺しそうな目をしている。

 そしてチャロはニマニマと楽しそうに笑い、星羅はこの状況に理解が追い付いていなかった。


「そうなのか? やっぱりそうなのか? 今もチャロさんの事を呼び捨てにして呼び合ってたし、とてもとても親しげだし」

「あぁ、もう。めんどくさい」


 ――――パチンッ


 星羅は指を鳴らして近くの路地裏に逃げ込む。

 そのまま目的地の方向にチャロを引っ張りながら走る。


 男は一瞬、意識が飛んでいたかと錯覚するほど記憶が途切れていて目の前にいたはずのチャロを探すために血眼になった。


「この辺でいいだろう」

「ごめんなさい」

「あぁ、そうだな。それに面倒なのはこれからだぞ?」

「どういう事ですか?」

「よく考えてみろ? あそこには男以外にも人が沢山いた訳だ。チャロは言ったじゃん? 私が誰と付き合おうが関係ありますか?って」

「言いました」

「噂ってね、物凄い勢いで広がっていくんだよ」

「ま、まさか!」

「そう。チャロは付き合ってる人が――――」

「――――せ、セイラ殿と付き合ってる事に!」


 チャロは頬を染めて体をクネクネさせる。


「おい、満更でもない顔をするな」

「えへへ」

「いや、褒めてないからな?」

「わ、わかってますよ。でもセイラ殿と。えへへ」

「俺との記憶を消そうか」

「えっ!」


 星羅が考えていた事を口に出すと、チャロは泣きそうな、今にも泣き出しそうな表情になる。

 それを見た星羅は慌てて「冗談だ」とチャロに言い聞かせてから目的地に向かった。



 ※



「もう泣くなって。冗談だから。な?」

「わ、わかってます。けど、消されたら悲しいんでしよ」

「だから消さないってば」


 星羅は今後に起こるであろう面倒な事に心の中で頭をかかえて小さな唸り声を出す。


「セイラ殿。ここですよ」

「ここって……レストラン?」

「はい。ここで食事をしていたと、目撃証言がありました」


 星羅はチャロを連れて入る。


「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「いえ、チャロ。あれを」


 星羅に言われてチャロはポケットから宮廷魔法師の紋章を見せる。


「これは宮廷魔法師さま。本日はどのようなご用件で?」

「えっと、元宮廷魔法師であるクジュラ・リーデンスとその子供であるアルフレッド・リーデンスは来ませんでしたか?」

「……いえ、その2人でしたら1度も来た事はありません」

「本当ですか?」

「はい」

「そう、ですか。わかりました。ありがとうございました」


 そう言って店から出ようとした2人だが、


 ――――グゥゥゥウ


 可愛らしくお腹の音が鳴る。

 時間は丁度、昼時ということもあり、お腹が空くのも納得だ。


「チャロ。折角だし、お腹空いたから食べてこうよ」

「そ、そうですね」


 星羅はまるで自分のお腹の音が鳴ったかのように言ったが、チャロの耳が赤くなっていたので隠せてはいない。

 だが、チャロからは耳の色など見れないので満足げに席に座る。


「チャロ、この身分証にお金が入ってるんだよね?」

「はい。こちらに書いてあります」


 そこには数字が書いてあり、0の数が6個もついていた。

 日本と同じ物価だったので、


「1,000,000円も」


 星羅はその金額に驚いてしまう。

 が、チャロはそう思わない様子で、


「それでも少ない方ですよ」

「そうか?」

「はい。まず、勇者召喚に巻き込まれたという事で色がついてますが少ないです。それから、セイラ殿には私に魔法を――――」

「――――魔術な」

「はい。魔術を教えてくれた事に対する礼ですが、これは国王の自腹です。私が強くなれたので数億という利益が見込まれる予定ですから少ないのです」

「なるほど。そんなに利益が。まぁ、俺の事はあまり公には言えないからポケットマネーなのか」


 そんな話をしていると料理が運ばれてきた。 

 料理はお城のと比べると負けず劣らず……いや、少しだけ負けているが美味しい物だった。


「チャロ。払う時ってどうやるの?」

「ここにカードをかざして魔力を流します」

「なるほど。こうか?」

「は、はい。そうですが私のまで払ってますよ?」

「うん、知ってる。別にこのくらいじゃ全然無くならないし、稼ぐ方法もあるでしょ?」

「はい。セイラ殿ほど強ければ冒険者も1つの手です。1人でも問題無さそうなので」


 それから次の目撃証言のあった場所を目指して移動する。


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