第16話 やることが沢山あります
空気が悪い。
空気が重い。
空気が……。
沈黙が場を征してから少しして、勇者である真昼が緊張気味に言う。
「ほ、他の皆の今後の方針を聞きたいんだけど」
この場に残っているのは星羅と灯。
それから
「俺はついていくぞ?」
「ありがと、蔵之助。他の3人は?」
残りは女子の3人は顔を見合わせてから、
「私たちもついていくよ。ね?」
実里がそう、同意を求める。
そこには有無も言わせない威圧感がある。
「本当かい? よかった」
「俺は魔道具でも作るから。じゃ」
そう言って星羅は部屋を出る。
すると、
「よっ!」
「何が“よっ”だよ。空気が滅茶苦茶悪くなったぞ? てっきり助けてくれるものかと」
「あー、そっか。期待させちゃってごめんね」
「ウザい」
「そう言うなって。な?」
「あぁ、そうだな。夕士郎は勇者である
「そんな! それは無いよ。な? いいだろ? 俺にも作ってくれよ」
夕士郎は星羅の足を掴んですがり付いている。
そこで星羅は1つ、いい案を思い付いた。
「しょうがないな、夕士郎。作ってやる。これを持ってきたらな」
「これは?」
星羅は手早くメモをして手渡す。
そこには『魔晶石 黒 ×7』と書かれている。
「誰かに聞いて自分の力で集めてね」
「そ、そんな! ヒント、ヒントだけでも」
「健闘を祈る」
星羅は夕士郎を振り切って自室に戻る。
メモに書かれていた『魔晶石』はこの世界の魔物を倒した時に落ちる物で、黒は相当強い魔物の魔晶石となっている。
星羅はそれを媒体として魔道具を作ろうと考えている訳だ。
星羅が1人、部屋でゴロゴロとしていると、
――――トントントン
扉が叩かれたので星羅は出ると、そこにはメイドがいた。
「何か用ですか?」
「国王がお呼びです」
「さっきの部屋?」
「いえ、応接間です」
「応接間? またなんでそんな所に」
「ついて来てください」
星羅はメイドについていき応接間に行く。
中に入ると国王と宮廷魔法師になったチャロがいる。
「国王。用ってなんですか?」
「まぁ、そんな急ぐでない。座って話そう」
国王に促されるまま席につく。
「セイラ殿は魔法国家ユリエーエに行くのだったな」
「はい。色々と、この世界の魔法を見てみたいので」
「そうかそうか。なら魔法国家ユリエーエにある魔法大学に興味は無いかな?」
「何が目的ですか?」
何も目的も無しに、そんな事を言うはずないと星羅は目を細める。
「目的、か。ただ、娘の安否を確認して、出来れば守ってほしいだけだ」
「娘? 国王の娘、王女が魔法大学にいると」
「そうだ。この前までは普通に手紙が届いていたのだが、ここ最近は1通も来なくなってしまったんだ。遣いを出したが連絡は途切れてしまってな。こんな立場だから無闇に行く事も出来ない」
「事情はわかったけど俺が行かなきゃいけないのか? てか、俺に頼むのか?」
「そりゃそうであろう。今の所は1番強いと言っても過言ではない。それに、頼まれたら断れない性格であろう?」
「いや、普通に断れます。が、魔法大学と言うからには色々と学べる事があると思うので行ってもいいですよ」
「本当か? なら今すぐに推薦書を書くから待っておれ」
そう言って国王は物凄い早さで部屋から出て行った。
そして、星羅はさっきから
「……」
「で、チャロはなんでここにいるの? 話の流れ的にはついていくって事?」
「い、いえ。今は色々とごたついているので」
「……何かあったのか?」
「それは――――」
――――ガチャッ
「セイラ殿! 持ってきたぞ」
チャロが説明をしようとした時に丁度、国王が戻ってきてしまった。
「ん? 何か話しておったのか?」
「い、いえ。何でもありません」
「そうか。セイラ殿。これをユリエーエにある魔法大学に見せれば無条件とまではいかないが、簡単に入学出来るぞ」
国王は孫に玩具を渡すような顔でそう言うが、
「待て待て待て。入学? えっ、俺は入学しないといけないのか?」
「何を言っているのだ? 入学しないと色々と勉強は出来ないではないか」
「一般に書庫は開いて?」
「いない」
「なるほど。ありがたく頂戴します」
星羅は国王から受けとると空気が一転した。
それは、国王から発せられる気が変わったからだ。
「セイラ殿。ユリエーエに行く前に手を貸してくれないか?」
「わかりました」
「そこを何とか……へ?」
「だから、わかりました。手を貸しましょう」
「……いいのか?」
「別にいいですよ。チャロが困ってるみたいだからね。弟子を助けるのが師匠の役目だからね」
それから事情を聞く。
「地下牢に監禁していたリーデンス親子が脱走をしたのだ」
「……それはまた」
「看守たちは眠らされていて、何者かの協力があったとみられる」
「なるほど。それをチャロと一緒に調べてほしいと」
「そういう事だ。頼めるか?」
「わかりました。では、クジュラ・リーデンスとアルフレッド・リーデンスを捕らえましょう」
「いや、捕らえなくていい。見つけ次第、殺してくれると助かる」
星羅は睨むように、試すようにして国王に言う。
「俺に人を殺せと?」
「殺した事はあるだろ? それに、この世界でも」
「はぁーー、そんな事もバレてるのか。まぁ、茶々ッと終わらせられるように頑張ります」
「それはそうと、セイラ殿?」
「……何ですか?」
「ロッキーの事はいいのか?」
「あーー、忘れてた。でも絶対に誰にも伝えられないから問題ないでしょ」
「そうなのか?」
「まぁ」
星羅はチャロを見てから、
「チャロが許せないと言うなら見つけ出して約束を守るだけです」
「わ、私は大丈夫ですよ?」
「らしいからさ」
その後、星羅はチャロと一緒に部屋を出てから地下牢に行く。
「眠らされてた看守はどんな感じ?」
「まだ目は覚めていませんが命は大丈夫そうです」
「なるほど。他にわかる事は?」
「えっと、騎士団の報告によりますと、街での目撃証言がチラホラあります」
「街か。後で行こっか」
「街にですか?」
「それ以外に何処があるんだよ。ついた」
地下牢は星羅とチャロが捕まっていた時から、何1つ変わっていない。
壊れた所も魔法が、魔術が使われた形跡もない。
が、甘い変な匂いがする。
「この匂いは? 俺たちが捕まってた時には無かったよね?」
「ですね。これも報告にありましたが、騎士団が駆けつけた時からこの匂いがしていた様です」
「なるほど、ね。この匂いが看守の眠った原因かもしれないのか」
「そんな事が可能なのですか?」
「うん。睡眠薬とかあるじゃん? そういうのを気化させれば出来ると思う。問題は誰が、か」
「目撃者はいないので」
開始早々、手がかりがなく行き詰まる。
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