第15話 人心掌握のマジシャン



「ちなみに、魔法陣があった場所に残ってたのはアルフレッドさん。あなたの魔力です」


 夕士郎のその言葉で、星羅はある事に気がつく。

 それは単純明快で、星羅は魔法陣のある部屋で何度か魔術を使った。

 なのに、その事に関しては何も言ってこず、ただただ「魔法を使えるよね?」と聞いてきたのだ。


「そうだよ! 私が壊した。何が悪い? お父様をおとしいれたヤツは落ちこぼれと呼ばれていたはずなのに実際はどうだ? 未知の魔法を使いやがる。そしてお父様から役職を奪うは愚か、殺しまでした。だから俺は邪魔者を排除しようとしただけだ。何が悪い。ん?」

「いや、普通に悪い事だよね? まずさ、俺たちの友達を巻き込んだじゃん? 更には牢に入れたよね? 特に俺たちは真昼のおまけで来たのにそんな仕打ちはあんまりじゃないかな?

 次にさ、アルフレッドさんは俺のスマホを壊したよね? ここのお金の価値とか色々と調べたけど騎士団の給料の5ヶ月分だからね?

 最後に……最後に俺の推しがやっと出たというのにスマホを壊しやがって」


 星羅が後に聞いた話、夕士郎はソシャゲで転移する前に推しが出たらしい。

 それのバックアップがとれてない状況で壊された事が何よりも……1番のショックだったらしい。 


「黙れ黙れ黙れ黙れ!」


 アルフレッドは炎の矢を乱発する。

 それを引き起こした本人である夕士郎は星羅にウィンクを1つする。


「はぁーー」


 星羅はため息をついてから唇を噛む。

 一筋の血と、それを中心とした金色こんじきの魔法陣が星羅たちを守るように展開される。


「わぁ! 本当に使えるなんて」

「チッ。やっぱり、ハッタリだったのかよ」


 炎の矢は星羅の出した魔法陣の前には成す統べなく、消え去るのみとなった。


「騎士団たち、名誉を挽回するチャンスだよ」


 夕士郎はアルフレッドを捕まえるように指示を出す。

 アルフレッドは手に魔乱石の手枷をつけられ魔法が使えない状態にされた。

 そして、騎士団たちによって地下牢へと連れていかれた。


「星羅! 今のは? 何をしたの? そんなの使えたの?」

「灯。一旦落ち着いて、ね?」

「私は十分落ち着いてるから教えて。何をしたの?」

「うーん、咄嗟だったからよく覚えてないかな」


 星羅はここまで来て「まぐれ」という事にしようとするが、それを許さない者が1人。


「いやー。星羅は凄いね」

「ハッタリだったんだろうけど、途中でバレたっぽいからね」

「うん、正解。脈拍、目、呼吸、体温。それらが変化しててね」

「そんなのがわかるのか」

「まぁね」


 星羅と夕士郎は小声で話す。

 そして、


「後で俺の部屋に来いよ。色々と聞きたいからさ」

「わかった。行かせてもらう」


 その後、星羅は灯からの質問攻めにあって、クタクタのヘトヘトになった。



 ※



 ――――ガチャッ


 扉が開いて1人の男が部屋に入る。


「ようこそ、俺の城へ」

「態々、蝋燭ろうそくで雰囲気を作ってるけど、ここはお前の城じゃねぇだろ? 須藤」

「固い固い。俺は敬愛を込めて星羅って呼ぶから夕士郎って呼んでよ」

「えっ? 嫌だけど」

「嫌なの! なんでよ」

「嘘、嘘。でも、俺が魔術師だという事を見抜いたのは頂けないな」


 星羅にとっては重大な問題だ。


「星羅はなんで隠してたんだ?」

「ん? いくつか理由はあるな。まず、魔術師を消そうとする連中に狙われる可能性がある事。他にも魔術に魅せられたってロクな事にならないから」

「なるほど……命を狙われるのは嫌だな。けど、魔術に魅せられるとロクな事にならないってどういう事だ?」

「んー、それは現世に帰って教える機会があればね」


 そう言って、星羅は話を終わりにして部屋を出ようとするが、


「待った。俺に、魔術を教えてくれない?」

「嫌だ。なんで俺が教えなきゃいけないんだよ」

「だってチャロに教えたのは星羅だろ?」

「よくわかったな」

「そりゃあね。なんか普通の魔法と違ってたから」

「ふーん。まぁ、だからって教えはしないけど」


 それでも夕士郎は腰を低くして、


「せめて、身を守れる道具とか無いの? ここはさ、異世界じゃん。普通に命が脅かされるのは嫌だから」

「んー、そうだな。わかった、夕士郎たちが魔族を倒しに行くまでには作るから」

「ついてかないのか?」

「うん。俺は俺ですることが、本の世界に戻るための魔法陣を作りたいからね」

「おぉ、それは嬉しい。じゃあさ、じゃあさ、帰ったら取ってきてほしいものかあるんだけど」

「今じゃなくていいだろ? 俺はもう眠いから戻るは」

「まぁ、そうだね。ありがと、星羅」


 星羅も挨拶をしてから部屋に戻った。



 ※



 日が昇り、日付が変わる。

 そして、星羅を含めた現世組は勇者である真昼に呼び出された。


「さて、今後の方針を決めたいんだけど」


 真昼は全員がついてくる事を前提にそう言う。


「俺は魔法国家ユリエーエに行こうと思ってる」


 それを聞いて一瞬で星羅に視線が集まる。


「星羅はついて来てくれないのか?」

「なんで? そもそもの話さ、俺と東雲しののめって赤の他人だよな?」

「それは……そうだけど」

「別にこの世界の人を見捨てるとかそういうのじゃないから。俺は俺で行く先々で魔族を倒す予定だし」


 星羅のこの言葉で一気に空気が最悪の方向に向かう。

 それを払拭するために夕士郎には元々伝えていた切り札を出す。


「おまもりになる魔道具は作ってやるから」

「でも――――」

「――――でもって、俺は他人のおりをするつもりはないから」

「だって――――」

「――――だってなんだ? 俺が魔術を使えるからってだけだろ? もし俺が魔術を使えない無能だったら連れてきたいって思わねぇだろ?」

「……」


 切り札を切ったにも関わらず、星羅はまたも空気を悪くしてしまう。

 それを見かねた……見かねて……見かねたのか?


「別に無理強いをする必要はないんじゃねぇの?」

「夕士郎、そうだよね。俺たちも頑張れば――――」

「――――ごめん。俺は商業都市シャルドニアに行こうと思ってるから真昼にはついていけねぇわ」

「えっ?」


 星羅も知らなかった事に、この場の全員が驚く。

 否、空気が凍りつく。


「いやいや、なんで驚いてるの?」

「なんでって一緒に来てくれると思ってたから。それに夕士郎は2番目に魔法が上手いじゃん」

「あぁ、それが?」


 勇者である真昼は魔法を1番上手く使えて、夕士郎は2番目。

 現世でもそう。

 夕士郎が勉強をどんなに頑張っても、運動でどんなに練習しても結果は2番目。

 1番は絶対と言っていいほど真昼が奪い取っていく。


「一生の別れって訳じゃねぇんだしいいだろ? それとも何か? 勇者はどんな事でも命令するのか?」

「それは違うけど。でも俺たちは親友じゃん」

「あぁ、そうだな。真昼は凄いよ。凄い親友だよ。そして憎い……」


 夕士郎は最後にボソッと呟いて部屋を出た。


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