第14話 スマホという名のチート武器



 広間に国王とフェルミニア王国の重鎮たち、おまけとして真昼たち転移組が集められていた。

 そんな面々を呼んだ人物は敢えてなのか、遅れて登場した。


「態々、集まって頂いてすみません」

「どうしたんだ、宮廷魔法師見習いのアルフレッド・リーデンス」


 重鎮の1人がアルフレッドに事の次第を聞く。

 それを待っていたかのように、


「私は先程、色々な所を警備していたのです。そこで、たまたま通りかかった“儀式召喚の間”に立ち寄ったのですが、そこに2人の人が居ました。1人は宮廷魔法師になったチャロ・ルースターで、もう1人はアマキ・セイラくんです」


 転移組は何か仕出かしたのかと1人を除いて話に興味を示す。

 そして、チャロが宮廷魔法師になったことをよく思わない者がこの場に何人かいて、その何人かが興味深そうに目をキラキラさせる。


「その2人は儀式に使うための魔法陣を壊していたのです。騎士団もその時の様子を見ているのでこれは確かな情報です」

「それは本当なのか?」

「はい、国王。本当で、嘘、偽りのない事です」


 優雅なお辞儀を国王にするが、そのアルフレッドの表情はニマニマと卑しい笑みを隠し浮かべている。


「面白いね、それって本当に本当なんだよね?」


 急に1人の男が声を上げる。

 否、急では無い。

 転移組の中で1人、興味を示さなかった須藤すどう夕士郎ゆうしろうである。

 性格は兎に角クズ。

 いや、言い方を変えよう。

 悪人に対しては、どちらが悪人かわからなくなるくらいのクズだ、と。

 善人に対しては普通の好青年でしかないが、悪人に親でも殺されたのか、とことん相手を貶して落とす。


「な、何が言いたいんですか、ユウシロウくん」

「うぅ、お前みたいな悪人に“くん”付けされると悪寒が走るな」

「悪人、だと? どういう意味だ? 取り消すなら今の内だからな」

「その言葉、そっくり変えさせてもらうよ。本当に2人が壊していたんだね?」

「あ、あぁ、そうだが」

「そっかぁ~。じゃあ2人をここに呼んで」


 ニコニコと気持ち悪いと言われても仕方のない笑みを浮かべながら国王にそう言うと、国王は若干引きながらそれを許可した。


「何故2人を呼ぶ必要があるのか聞いても?」

「もちろん、目の前で断罪した方がいいでしょ?」

「なるほど、そういう事でしたか」


 夕士郎の嘘にも気がつかずに嬉々として喜ぶ。


 少ししてから星羅とチャロの2人が連れてこられる。


「思ったよりも早く出してくれたんだ」

「そこのユウシロウくんが君たちを呼んだんです」

「……へぇー」


 夕士郎は星羅に一瞬だけ笑いかけると、真面目な表情になりポケットに手を突っ込んだ。

 そして、


「これってなーんだ?」


 手にはスマホと呼ばれる現代のナイフにもなる、人を殺す力を持った武器を見せびらかす。

 アルフレッドは魔法国家ユリエーエに行っていたため知らないが、他の重鎮を含めてどういう物なのかある程度理解している人が多くいる。


「まぁ、いっか。これを見てほしいんだ」


 それは1つの動画。画面が小さい関係上、皆で近くに集まって観る。

 まず最初に夕士郎が映り手を振っている自撮りから始まる。

 そして、1人の男が、アルフレッドが挙動不審に辺りをキョロキョロしながら歩いているのを映し出す。


「こ、これはなんだ?」

「黙って最後まで観ようよ。ね?」


 夕士郎にそう言われてアルフレッドは下がる。

 動画は続き、アルフレッドがやって来たのは“儀式召喚の間”である。

 そこにある魔法陣はまだ壊れていない。

 が、次の瞬間には壊されていた。

 アルフレッドの魔法によって。


 そして、当の本人であるアルフレッドは気がついた。

 これは自分がした事を映す魔道具であると。


「ねぇ、どういう事かな? 俺が後をつけてみたら壊すわ壊す。じゃあ心優しい俺はもう1度聞くね? アルフレッドさんは本当に2人が壊したのを見たんだよね?」

「あぁ、見た。それに、そんな物が証拠になるわけない」


 そう言いながらも、自分を危機に陥れかねない物だと理解しているからか、炎の矢を1本だけ放つ。

 狙い違わずスマホに刺さり、すぐに燃えて使い物にならなくなってしまう。


「やっぱり壊すと思ってた。でもさ、人の物を勝手に壊してただで済むと思ってる?」

「ふん! ガキが1人で何を出来ると言うんだ? それに私がやったという証拠でも?」

「そんな事を言ったらさ、星羅たちが壊したっていう証拠は? 俺は壊してる所も見たって言ってるんだよ? それなら今すぐに星羅たちを解放しても問題ないよね?」

「ぐっ、それは――――」

「――――それから、壊して安心してるなら意味がないよ? 基本的に俺はスマホを2台持ちだし、データは皆にも送ったから」


 そう言うと、夕士郎は嬉しそうにニコニコしながら近くにいた騎士団から鍵を奪って星羅とチャロを解放する。


「さてさて、星羅」


 夕士郎は標的を星羅に変える。


「君、魔法を使えるよね? しかも普通じゃない」


 ニマッと音が出そうな笑みを浮かべながら夕士郎は言う。


「もしそうだとして、なに?」

「いや、答えなくてもいいよ。ただ、アルフレッドさんが抵抗して俺に危害を加えようとしたら守ってね? ってだーけ。使えるなら、ね?」

「わかった。使えるなら、な」


 星羅は平常心を装うが、内心バクバクでパニック状態。

 まず、何時バレたのかがわからない。

 現世でバレたのか、異世界でバレたのか。

 はたまた、夕士郎も魔術師なのか……。


「では続きといこうか。俺ね、こっちの世界に来てからある能力を手に入れたんだ。何だと思う?」

「わ、わからん」

「だよねー、アルフレッドさん。わかるわけないよね。魔力の残子を見れるようになったの」


 普通の時の星羅からしてみれば「そんな事か」というくらいだが、今、中立的?な立場にいる夕士郎がその能力を使えるのは好都合だ。


「証明するために、俺は後ろを向くから、アルフレッドさんが誰に魔法使ってもらいたいか指名してね。それを当てるから」


 そう言って、布を目に当てて縛り後ろを向く。

 そしてアルフレッドさんに指名されたのは、ただの騎士団の1人。


 魔法を使い終わってから夕士郎は一通り皆の顔を見る。

 そして、


「あなたですね?」

「な、なんでわかったんだ!」


 見事、言い当てた。

 更には、


「ちなみに、魔法陣があった場所に残ってたのはアルフレッドさん。あなたの魔力です」


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