第13話 チャロと一緒に急降下します



 定刻の鐘が鳴ると同時に大きな歓声が会場を越えて響き渡る。


『さてさてさーて、待っていた皆さんも多いんじゃないでしょうか?

 でもまずは今のポイントから。チャロさんとアルフレッドさんは4点。ロッキーさんとルドルフさんは0点となっています。これで順位が決まります。

 では、入場していただぎましょー!』


 ボルテージは今までで1番の最高潮まで上がっていく。

 会場の中心にチャロとアルフレッドの2人が登場するだけで歓声は大きな物になる。 


『それではー、始め!』


 その合図でチャロは距離をとる為に離れて、アルフレッドは逆に接近戦を挑む為に近づこうとする。

 アルフレッドは手を前にかざして無言で炎の矢を何本も撃つが、それをチャロの水の障壁で消される。


「“‘雷法・虎琥電雷’”」


 チャロの魔法はアルフレッドとの差を一瞬にしてゼロにするほどの早さで迫るがギリギリ、本当にギリギリで避ける。


「“‘光を喰らい、暗い世界に代える」

「“‘水法・龍流’”」


 チャロの式句は簡潔だ。

 それでいてきちんと魔術が発動する。

 水で出来た龍が流れるようにアルフレッドを襲うが、元々の身体能力が高いのかギリギリの所で避けられてしまい決定打に欠ける。


「闇よりでて怨嗟の声を」

「“‘火法・煉獄’”」


 走り回るアルフレッドを炎の檻が囲む。

 それでもアルフレッドは詠唱を止める気は一切なく、続けていく。

 炎の檻は少しずつ、確実に狭まっていく。

 炎の檻に潰されるのが先か、アルフレッドの魔法が完成するのが先か……。


「怨み辛み、私怨にまみれた心を蝕む力を今、解き放て。くろ’”」


 アルフレッドを中心として気色の悪い色のモノが波打つかのように広がって蝕んでいく。

 その闇から奇怪な悲鳴や怨念、声が聞こえてきて心を蝕んでいく。

 会場の床は一瞬にして廃れて、炎の檻は闇に蝕まれ形を保てなくなり消えてしまう。

 その闇はどんどんと広がってヒロガッテひろがっていく。


「さて、チャロ。ここからどうするかな」


 星羅はチャロがどう対処するか気になり、楽しそうに笑う。

 観客は盛り上がりが嘘かのように静かになって、誰かの息を飲む音が聞こえてくるほどだ。


「えっと、えっと……

 “‘水法・天雨てんうの裁き’”」


 雨が降る。

 否、会場の上を塞ぐほどの大きな水の塊が現れる。

 そこから落ちる水滴が闇に触れるとジュッと音をたてて消していく。

 水滴はポツポツと少しずつだったのがどしゃ降りと言っても良いほど降り注ぐ。

 そして、闇に包まれているアルフレッドがいるであろう所に重点的に雨は降り注ぎ、


「届けぇぇぇ!」


 降り注ぐ雨の刃はアルフレッドの体を捉えて傷をつけていく。

 それは致命的な一撃となり、集中力が切れたのか闇は一瞬にして晴れた。


「これで終わりです。

 “‘水法・がん’”」


 手をピストルのようにして水の小さな弾を撃ち出す。

 それは寸分たがわずアルフレッドの額に当たり、


 ――――ドサッ


 倒れて動かなくなった。


『しょ、勝者、チャロ・ルースターさん!』


 それまで止まっていたかのような時間は流れを取り戻して、今までで1番大きな歓声の嵐が降り注ぐ。

 その後は可哀想だった。

 ロッキーとルドルフの試合だが、順位を決めるためには仕方のない事で戦ったのだが、チャロとアルフレッドのレベルが高すぎてあまり盛り上がらなかった。

 いや、全然、全くもって盛り上がらなく、逆にブーイングの嵐だった。


『えー、では国王から宮廷魔法師の任命です』


 恙無つつがなくく進んでいく。

 国王が何やら話してから、チャロに宮廷魔法師の制服とバッチを渡して終わりとなった。

 そして、負けた3人にはこのまま宮廷魔法師見習いを続けるか聞く。

 アルフレッドとルドルフは続けると、ロッキーはそわそわした様子で辞退を宣言する。


『これで宮廷魔法師を決める祭典を終了する』


 その合図で解散となる。



 ※



「良かったね、チャロ。宮廷魔法師になれて」

「はい! 全部セイラ殿のおかげです。なんとお礼を申したらいいか」

「別にお礼なんていいよ。お礼が欲しくてやったわけじゃないしね」

「そうですか? で、セイラ殿は何処に向かってるんですか?」


 星羅とチャロはお城の廊下を歩いている。

 その場所は星羅とチャロが最初に出会った場所でもある、


「ここ。召喚された……場所?」


 星羅は扉を開けて言葉を失う。

 そこにあったはずの魔法陣が床から壊されて、所々消えてしまっている。

 元々、ここに来た目的は魔法陣の解明だ。

 知らない形に知りもしない言葉で出来た魔法陣を読み解いて元の世界に戻るための魔法陣を自作しようと考えていたのだ。


「セイラ、殿?」

「チャロ。急いで国王に報告しない――――」


「――――これはこれは。2人で何処に行くのかと後をつけてみれば。何をしていたのかな? と聞く必要はありませんね。捕らえろ!」


 いつの間にかついてきていたアルフレッドは騎士団に星羅とチャロの2人を捕らえるように命令する。

  

「チッ。そういう事かよ」

「無駄な事はしない事だよ、セイラくん。君がいくらお客人だと言っても壊したんだから、ね?」

 

 アルフレッドは卑しい笑みを浮かべながら熱弁する。

 まず、魔力の残子から見てもアルフレッドが壊したというのがわかるがそれでは証明出来ない。


「せめて証明出来れば」

「何をですか?」

「あのアルフレッドが壊したんだよ」

「そうなんですか? でもどうして」


 星羅にも理由はわからない。

 が、壊したのは確実にアルフレッドでそれを証明出来る手があれば別だが。

 星羅とチャロは無駄な抵抗はしないで騎士団に捕まる。

 手にはかせがつけられ、魔力が乱れるのが見てとれる。


「これは、魔乱まらんせきの手枷!」

「チャロは知ってるの?」

「はい。魔法使いを拘束するために使う手枷で、魔力を乱されて魔法が使えなくなるんです」


 星羅は「ふーん」と言ってから心の中で呆れる。

 これくらいの乱れなら星羅からしてみれば問題なく魔術が使える。

 が、ここで事を大きくしてもメリットが無いから、星羅は大人しく連行される。


 そして連れてこられた地下牢。

 2人仲良く同じ場所に入れられたのは星羅にとって少し辛い。


「チャロは一応は女の子なんだから俺と一緒じゃなくてもいいじゃん」

「わ、私は一緒でもいいですよ?」


 星羅の独り言をチャロが拾う。


「はいはい、そうですか」

「なんです? こんな美少女と一緒で嬉しくないんですか?」

「いや、自分で言いますか」


 とりあえず、星羅はこの後の事を考える事にした。


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