第12話 弟子が人気者になってる件



 追い付いたのは運が良かったのか、星のさだめだったのか……。


「だーかーらー、俺は今からこの国を出て修行をするんだって!」

「ですから何度も申し上げてる通り、国王から通すなと言われていますので」

「なんでだ! なんでこうと上手くいかない」


 ロッキーは国自体から逃げようと考えていた様だが、結果はこの通り。

 国王は逃げることを予測して国からの逃亡を封じたのだ。

 そしてそこに駆け付けたのが、


「やっと追い付いたな」

「セ、セイラ。冒険者の2人はどうした! まさか倒したのか? 2人は銀級で強いはずなのに」

「あれが? 少し睨みを効かせただけで腰を抜かして終わりだったけど? さて、約束だ。俺の弟子を馬鹿にした罪と、俺をおまけとしてこの世界に呼んだ罪を払ってもらおう」

「ま、待て待て待て。まだチャロを馬鹿にした方は受け入れてもいい。が、この世界に呼んだのは俺じゃないぞ。それは理不尽じゃな――――」

「――――問答無用!」


 星羅がそう言うと、ロッキーとの距離をゼロまで縮めて鳩尾みぞおちに1発喰らわせる。


「魔法は、使わねぇのかよ」


 そう言ってロッキーは意識を手放した。


「あの、あなたは?」

「ん? あぁ、ごめん邪魔しちゃったね。俺は」


 ポケットに入っていた身分証を兵士たちに見せる。


「こ、これは失礼しました。それと、ご協力感謝します」

「別にいいですって。じゃあロッキーさんは俺が城まで運ぶので」

「いえいえ、そんな事はさせられません。急いで馬車の準備をするのでお待ちください」

「本当ですか? それならありがたく待たせてもらいます」


 星羅はこの世界に来て始めての馬車にウキウキとした気分が滲み出ていた。


 そして、少しして準備が完了したのか、


「では参りましょう」

「はい」

「馬車は向こうの世界には無いんですか?」

「有るにはあるけど、乗る機会がないので」

「やはり貴族が乗る物だからですか?」

「違いますよ。俺の世界だと、鉄の塊が走るんです」

「それはまたご冗談を」

「まぁ、そういう反応だよね」


 星羅は「案の定、信じてもらえないか」とは思いながらも兵士からの質問に答えながら馬車に揺られてお城まで戻った。



 ※



 星羅が会場に戻るとチャロを多くの人々が囲んでいた。

 魔法を見て教えてもらおうと近づく者、今からでも遅くはないと取り入ろうとする者、友達になろうと近づく者、その見た目の可愛さから口説き落とそうとする者、商売の匂いがするのか色々な物を売ろうとする者など、色々な人々でごった返している。

 当の本人であるチャロはそれの対応に追われ、目をグルグルさせながら頑張っている。


「これは凄いな」


 そんな星羅の小言であり独り言。

 周りの煩さで届くはずもないのにチャロの耳は反応する。


「セイラ殿!」


 人の山を掻き分けて星羅の方に近づいてくる。

 そして、


「助けてください、セイラ殿。アカリには逃げられてしまい私1人ではもう無理です」

「そうは言ってもな、まずは離れてくれないか?」


 星羅を見る周りの目は突き刺す刃のように鋭い。

 それもそのはず、チャロは星羅を見付けると助けを求めるようにして抱き付いたからだ。

 それを見た一部のいつの間にか出来ていたファンクラブの面々に殺意の籠った視線を向けられている。


「なら逃げればいいじゃん」

「で、ですが逃げるにも逃げられなくて」

「なるほど……俺も面倒事に巻き込まれたくないから行きたいけどその前に1つだけ」

「なんですか?」

「国王が呼んでたから急いで行った方がいいよ」

「わ、わかりました」


 するとチャロは物凄いスピードで行ってしまった。

 問題はここからの星羅の行動だ。

 チャロとこんなに親しげで国王とも面識がある。

 が、ここにいる人たちは星羅の事を何1つ知らない。

 と、なると興味を引くのは当たり前で、


「貴方はチャロ様の何なんですか?」

「こ、国王とお会いしたことがあるんですか?」

「あの、よければ私とお友達になりませんか?」


 星羅は一瞬にして囲まれる。

 そして「男」という事もあり触れても問題ないと考えているのか逃がさない為に捕まる。


 ――――パチンッ


 星羅は1回指を鳴らす。

 すると、その音を聞いた周りの人たちは一瞬だけ意識が飛ぶ。

 星羅の使える簡易的な魔術で、相手の思考に「空白」を作るというシンプルで、それでいて強い物となっている。

 その隙をついて人の山を星羅は抜け出す。

 そしてチャロの向かった所へと足を進める。


「セイラ殿! 国王は呼んでないじゃないですか。おかげで私は恥をかいてしまいました」

「あれは助けるための嘘だってば。そんなのも気がつかないのか?」

「あっ! なるほど。そういう事だったんですね」

「あぁ、そういう事だったんですよ」

「セイラ殿はどうやって抜け出したんですか?」


 そう言われてパチンッと指をチャロの目の前で鳴らしてから急いで後ろにまわる。


「あれ、セイラ殿?」

「後ろ」

「ひゃわぁ! び、びっくりしたー。何をしたんですか?」

「相手の思考に“空白”を埋め込んだだけ。魔力に耐性が無ければ簡単に効くから結構使えるんだ」

「す、凄いです。無詠唱でそんな事が出来るなんて」

「まぁ、態々言ってあげる必要もないけど、どうしても詠唱が、式句があった方が威力は上がるんだよね」

「そうなのですか?」

「そうなのです」


 星羅は魔力で人気ひとけの少ない方へと歩いていく。

 もちろん疚しい事をするためではなく、なるべく人に囲まれないようにという意味がある。


「そういえば、セイラ殿は遅かったですけど何処に行ってたんですか?」

「あぁ、ロッキーを追ってたんだよ。まだ祭典が終わってないのに逃げたりするからさ。それよりも次の試合は自信あるか?」

「有るか無いかだと有ります。セイラ殿のおかげで魔法が上手くなったので」

「それは良かったよ」


 そんな話をしていると、1人の男が近づいてきた。


「お前がチャロだな」

「あなたはアルフレッドさんですね」

「……お前が父上を牢獄に入れた存在。ただで済むと思うなよ」


 最高の捨て台詞を残して行ってしまった。


「まぁ、強いとは言ってもソコソコだから問題ないって。それにチャロは修行すればもっと強くなれるから」

「本当ですか?」

「あぁ、だって天才じゃん。自分で言うのも何だけど“類は友を呼ぶ”って言葉があるんだ」

「……?」

「言っちゃえば俺も魔術に関しては天才って言われてきてたから、仲間は仲間を呼んだって事だよ」

「な、なるほど。でも、自分で天才と言うセイラ殿はちょっとカッコ悪かったです」

「それは言わないでもよくない?」


 他愛の無い話をしていると、定刻が近づいていた。


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