第11話 こんな所でお約束はいりません
休憩時間が終わり、第3試合が始まろうとしていた。
未だに冷めないボルテージは、観客の期待と同じく高まっている。
特に、異色の魔法を使うチャロへの興味は尽きない。
『では、参りましょーー! ただいまのポイントはチャロさんとアルフレッドさんが2点。ロッキーさんとルドルフさんは0点となっています。このまま挽回となるのか? チャロ・ルースターさん対ロッキー・バーナッシュさんの試合です』
2人の出場者が入場すると大きな歓声と拍手。
祝福するかのように大きな、人をも殺せるほどの炎の塊が2人に向かって飛んでいく。
「――――ッ」
チャロは式句を発しずに水の障壁を展開させて事なきを得た。
ついでと言わんばかりにロッキーを守っていた事はあまり触れないでおこう。
「
兵士と騎士団が犯人を捕らえていく。
どうやら、チャロが宮廷魔法師になることをよく思わない存在の仕業だったらしい。
が、星羅はそれよりも驚く事が起きていた。
「まさか1時間足らずで完成させるなんて」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ただ、チャロ嬢は天才何だろうな、って」
「うん。凄いよね、雷を使ったり無詠唱で魔法を使ったり」
灯は、ワクワクが隠せないほど表情に出ている。
星羅も星羅で、違う意味のワクワクで顔を綻ばしている。
『それでは、ハプニングもありましたが……始め!』
その合図でロッキーは相手に近づき接近戦を仕掛ける。
チャロに少しも詠唱をさせまいとしていた突きは水の障壁に阻まれて無意味となる。
それどころか、水の障壁に捕らえられて離れられなくなってしまった。
「ではいきます!
“‘雷法・
雷で出来上がった虎はとてつもない勢いでロッキーの体を貫く。
貫くと言っても穴が開くわけではなくて、幽霊が透け通るかのように貫いた。
そしてロッキーは体をビクビクと震わせながら、ガクッと膝から崩れ落ちた。
「ロッキーさんは災難だね」
「なんで?」
「さっきから散々な負け方だから」
「言われてみれば……」
炎の矢の餌食となり、雷の虎に打たれと可愛そうに思う。
『勝者、チャロ・ルースターさん! 凄い、凄いです。無詠唱で魔法を発動しながら更に魔法を使うという。こんなの、見たことも聞いたこともありません』
またも新たな魔法を使ったチャロは人気をかっさらい、ボルテージを上げに上げていく。
そして、またもそれに比例するかのように妬ましい視線を送る者が何人かいる。
「チャロちゃんは凄いんだね?」
「あぁ、凄い。驚かされてばかりだ」
そんな話をしていると、
「セイラ殿! と、ア、アカリ」
「お帰り、チャロちゃん。凄かったね? 星羅も凄いって言ってたし」
「ほ、本当ですか?」
チャロは嬉しそうに笑う。
そうこうしている内に次の試合が始まった。
アルフレッドは悔しそうな表情を浮かべたまま、さっきと同じく炎の矢でルドルフを串刺しにして終わりにした。
観客たちは同じ光景に残念そうな表情をするが、次の試合の事……チャロ対アルフレッドの試合を期待してかギリギリ、本当にギリギリ、ボルテージは下がらずにいる。
『さて、また休憩を挟んでから皆さんお待ちかねであろう、チャロ・ルースターさん対アルフレッド・リーデンスさんの試合です』
チャロとアルフレッドが相手を瞬殺で屠るので、時間的に早く終わってしまいそう……という事で始まりは午後のそれも夜に近い状態でやるとの事。
「チャロちゃん、勝てそう?」
「もちろんです! 私は頑張ったんです。そう、さっきだって無詠唱を使えるように魔力を無理矢理切らすくらい魔法を使って……死ぬかと思いました」
「そんな事したの? チャロちゃん凄いね」
「いやー、何となくですが、そこまでしないと殺されかねないと思いまして」
「だ、誰に? 誰に殺されちゃうの? その人を私が代わりに倒すから」
灯はシュッシュッと自分で効果音を付けながらジャブを撃つ。
そして、星羅がどこかに行こうとしているのを見て、
「どこに行くの? 私もついてく」
「トイレだよ、トイレ。それでもついてくの?」
「なーんだ。楽しい事かと思った」
星羅はそのまま魔力である人物を探す。
その人物の反応は見つけたが、この会場からどんどんと離れていく。
「逃がすと思うなよ」
弟子を馬鹿にした分と、今までの弟子を馬鹿にした分。
結局は弟子を馬鹿にしたことに対する憤りと、
「こんな魔法もクソの世界に転移させやがって」
そんな腹いせを胸にロッキーを追いかける。
が、町には祭典の影響か沢山の人でごった返している。
星羅としては路地裏には入りたくはない。
こういう時に限って、
「お約束が起こる可能性が高いからな」
星羅は人波に逆らうようにしてロッキーの所へ向かう。
「うぇーーん。お母さんどーーこーー」
「はぁー」
星羅に助ける義理は一切ない。
ないが、気がつくと体が動いてしまうのだからしょうがないだろう。
星羅はそんな自分に、ため息が出てしまう。
「大丈夫?」
「大丈ばない」
星羅が周りを見るも目を逸らして助けようとも、手伝おうともしない。
「お母さんはどんな感じ?」
「綺麗! 可愛いの。でね、でね、僕が大きくなったらお母さんと結婚するの」
「そ、そっかぁ」
お母さんの事を聞かれたのが嬉しかったのか、涙は止まってくれた。
魔力で辺りを探すとオロオロした人がいるのを見つけた。
その方向に子供を連れて歩く。
そして、
「あっ、お母さん!」
「オルタ! オルタ、どこ行ってたの」
「あのねあのね、このお兄さんが連れてきてくれたの」
「それはどうもありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか」
星羅は「急ぐ」という旨を伝えてロッキーの逃げた方向に足を向ける。
※
会場から離れていくにつれて人の数は次第に減っていき、
「チッ。馬でも借りてくるべきだったか」
そう悪態をつきながらも追いかけるペースを上げて少しずつ距離を縮めていく。
が、ここでもお約束が発生してしまい、
「お兄ちゃんどこに行くんだい?」
「そんなに急いだって良いことはないよ?」
星羅は2人の
この、2人の破落戸はただの破落戸ではなくそれなりに訓練を積んだ……依頼された破落戸だろう。
「
言葉と視線に魔力を込めて放つ。
魔力を込めた言葉は「言霊」として、魔力を込めた視線は「殺気」として2人の破落戸を威圧する。
魔力その物を浴びた事が無いのか、耐性が無いのか2人仲良く尻餅をついて体を硬直させている。
「ありがと」
星羅はそう言うとまたロッキーを追うために足を進める。
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