第10話 2人の強者と2人の弱者
決着はあっという間だった。
ルドルフは一撃で仕留める為に高威力の魔法を放とうと長ったらしい式句を、チャロは力を見せつけるという意味なのか苦手な雷の魔術を使う為に式句を羅列していく。
「“‘吹き荒れろ。風の刃となりて竜巻を起こす力を。我は風の王だ。今、風を――――’”」
「“‘――――
バチバチッという嫌な音を鳴らしながらチャロの手から雷で出来上がった狼がルドルフを襲う。
ルドルフはそれを見た瞬間、式句の羅列を止めて唖然としたまま雷の餌食となる。
――――パタンッ
『な、な、勝者、チャロ・ルースター! なんという事でしょう。チャロさんは神の力を扱うというのか! もしかしたら、優勝候補であるロッキーさんよりも強いのかも』
司会の人の本音が入る。
それを星羅は「当たり前だろ」と思っていると次の試合が始まろうとしている。
『続いては、ロッキー・バーナッシュさん対アルフレッド・リーデンスさんです。さぁ、いきなり高度な魔法を披露した今回の祭典。この熱を冷まさないまま次のチャロさんに繋げられるのかー?』
会場のボルテージは最高に引き上げられている。
それと比例してか、何人かの裕福そうな服装の人たちは嫌そうな表情を浮かべているのが星羅の目に写る。
「セイラ殿!」
「ん? あぁ、お疲れさま、チャロ」
「はい! 大丈夫でしたか?」
「良かったと思うよ、魔力も安定してて。ただ、少しだけ多めに魔力を持ってかれてたからそこは改善点だね」
「違います! 私の事じゃなくてセイラ殿の事です」
「えっ、俺の?」
星羅はそう言われて自分が同意の上の誘拐?された事を思い出す。
そして、案の定と言うべきかチャロはそれを耳に入れていた、と。
「心配してくれるのか?」
「はい、心配で心配で大変でした。人を殺しすぎないか」
「あっ、俺の身を案じてくれたんじゃないのね」
「えっ? だってセイラ殿ですよ」
「おい、それはどういう意味か聞かないといけなさそうだな」
そんな会話をしていると、
『――――始め!』
司会のそんな声が会場に響き渡る。
「“‘炎は炎にして――――’”」
「――――まさか詠唱をする気? 待たないでいいよね」
アルフレッドが手を前に
「“‘水は火を打ち消す盾となり’”
……ぐぁぁあ」
ロッキーは打ち消そうと魔法を変えようとしたが間に合うはずもなく炎の矢の餌食となる。
体からプシューという音をたてながら倒れて動かなくなった。
『しょ、勝者、アルフレッド・リーデンスさん! 優勝候補であるロッキーさんをこれまた瞬殺! ボルテージは冷めないまま次へと進みます』
そして休憩時間となった。
魔力や疲労を回復させる為の時間だ。
「次はチャロとロッキーの戦いか」
「はい。私は負けませんよ」
「そりゃあな」
「それにしてもアルフレッドさんは強いですね」
「そうか? 無詠唱なんて普通だし、見栄えの為にやってる所が俺はあるけどな。それと、見た感じ無詠唱で出来るのはさっきの炎の矢だけだぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ、というよりもこの世界の人たちは1つの魔法を極めれば自然と精霊が力を貸してくれて無詠唱が出来るらしい」
「それは1つの魔法だけを、と」
「そういう事。だから、急いでこの世界の、それもチャロが得意な属性の守る系を今たくさん練習して無詠唱出来るようにしとけ」
「私の得意な属性……水、です」
「そ。相性がとってもいいって訳」
宮廷魔法師見習いは全員で得意な属性が違い、チャロが水、ロッキーが炎、ルドルフが風。
そして、星羅に精神を壊されたルノーアは土が得意だ。
「で、でもそんな簡単に無詠唱なんて……」
「出来るだろ。俺はこの世界の魔法が好きじゃないから覚える気はないけどね」
「で、でも私が覚える無詠唱が守る系の魔法でいいんでしょうか……」
「別にいいだろ。咄嗟に守る事が出来るのは何かと役に立つから」
「で、でも――――」
「――――さっきからでもでも、でもでも煩いんだよ」
「だって――――」
「――――だってじゃない」
「うぅぅう」
「はい、唸ってないで練習あるのみ」
とぼとぼと、チャロは練習しに行く。
それも入れ代わりで、
「国王がわざわざなんの用ですか?」
「なに、無事か確認をしにな。でも本当にいいのか?」
「何がですか?」
「その、エルミーニャ家をそのままにしておいて」
「問題ないですよ。別に命が狙われていようが対処出来ますし、もしも攻撃されようものなら、俺から潰しに行くので。暇なら」
「そうか。そうだ、セイラ殿にはまだ渡してなかったな」
国王から渡されたそれは、身分証だった。
が、書かれている身分があまり嬉しいものではない。
「国王、この異世界の住人て書いてありますけど通じるんですか?」
「それは大丈夫だ。勇者以外には皆その身分だし、昨日の内に公言しておいたから」
「そう、ですか」
星羅としては、それを悪用されないか心配だ。
が、身分証が純金で出来ているから、そう簡単には造れない事も理解している。
「おっと。お友達が来たから私は失礼するよ」
「はい。では」
国王と入れ代わりでやって来たのは、
「何しに来た? 灯」
「星羅、大丈夫?」
「もちのろんで大丈夫だよ。俺の身分を言ったらすんなりと開放してくれたから」
星羅は嘘で誤魔化す。
が、流石の幼馴染みと言うべきか、
「何か隠してる。まぁ、いつもみたいに教えてくれないんだろうけど」
「あぁ、教えないね。ミステリアスな男の方がカッコいいだろ?」
「真昼くんの方がカッコいいよ」
星羅がそうなるように仕向けたのだが、思いの外、言葉のナイフは星羅の心臓に深く突き刺さった。
「あっそ」
「あっ、拗ねてる? 星羅、拗ねてる?」
「拗ねてないって」
「えーー、つまんないの」
そこで気がつく。
いつの間にか星羅のかけた魔術は効力が消えていて灯がまた星羅の事を好きになりかけている事に。
そして、さっきの灯の言葉は嘘であると。
「特に理由はないはずだけどな」
「何か言った?」
「いや、なんでも。灯は皆の所に行かないでいいの?」
「星羅も一緒に行こうよ」
「俺はいいや」
「なら私も」
ここで星羅は確信する。
自意識過剰と思うかもしれないが星羅は10年以上幼馴染みをしてきた。
相手の思ってることくらい、ある程度は理解出来るようになっている。
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