第9話 弟子の晴れ舞台を見なくては
星羅が連れてこられた場所には、他にも人が十数人いて、その全員が小汚ない服装をしていて痩せこけている様に見える。
「あなたも連れてこられたんですか?」
「あぁ、そうだよ。でも同じ境遇の人がこんなにいるなんて」
そう言いながら周りを見る。
すると星羅はおかしな事に気が付いた。
連れてこられたであろう全員が全員、服の内側に暗器らしき物を隠している事に。
「さて、今から皆さんには、クラリス・エルミーニャの名においてアルテ地下迷宮に行って、エルスラド鉱石を採ってきてもらいます。質問のある者は?」
クラリスは城にいた時のおどおどとした態度と代わり、貴族としての偉そうな態度が板についている。
1人の使用人に連れられて星羅を含む十数人はアルテ地下迷宮に入っていった。
※
地下迷宮を進むこと数時間。
外は真夜中になっているだろうか。
「地下迷宮と聞いていたんですけど敵は、魔物は出てこないんですね」
「えっ、あ、あぁ。そうみたいだね」
星羅に話しかけられるとは思ってなかったのか驚いておかしな返しになっている。
「にしても、皆さんは眠くないんですか? 今ごろ外は真夜中でしょう。なのに、誰1人として根を上げるどころか、ズンズン進んでいくしメイクが落ちてきてますよ?」
星羅がそう言うと、何人かが顔をペタペタと触る。
もちろん、今言った「メイクが落ちてきてますよ?」はただのハッタリだ。
痩せこけているメイクはしているが、どういう訳か一切合切崩れていない。
「いつから気がついていた?」
ここまで連れてきてくれた使用人が聞いてくる。
「最初から、かな。俺を捕らえてチャロが宮廷魔法師になるのを阻止させようとしてるんだろうけど無駄だよ?」
「ほう、それは何故か聞いても?」
「もちろん、俺が魔
星羅は盛大に噛んだ。
が、それを感じさせないくらい普通に続ける。
「こうやったり」
地面をタンタンッと2回叩くと星羅を中心として放射状に岩の塊が飛来する。
それは使用人以外の全員に当たる。
もちろん岩のスピードは速く、足を貫かれ、胴を穿たれ、頬を抉られ、首を跳ねられ、と周りに死体が増えていく。
「ま、まさか魔法を使えるとは。それも無詠唱で」
「そんなに凄い事なの? 魔法国家ユリエーエだと10人に1人は使えるって噂だけど」
「えぇ、そうみたいですね。そして私も使えます。勝った気でいるなら、残念ですが私を最初に殺さなかったのが間違いでしたね」
「間違いじゃないよ、主の事を思うならね」
「……なに?」
主であるクラリスの為だと言うと少し興味を示した。
「証明する方法はないけどさ、俺、勇者の仲間だから。聞いた事あるでしょ? 勇者とその仲間5人が召喚されたって」
「それを信じろと? 馬鹿馬鹿しい。確かに見た目は黒髪黒目で情報通りですが、それはこういう時の為と思うのが普通じゃないですか?」
星羅はそう言われて不覚にも「確かに」と思ってしまった。
そしてそれが顔に出ていたのか、
「た、確かにそれが本当だったとして、クラリス様になんの得があるんですか?」
高圧的な態度から一転、相手の顔を伺うような恭しい態度に変わる。
「利益? 何を言ってるの? 俺は損はしないよって言ってるだけだよ」
「損、ですか?」
「そう、損。例えば俺が連れていかれるのを何人かのメイドや兵士に見られている。まぁ、今ごろその情報が王様に伝わってるだろうけど」
星羅の言った事は本当であり、何人かのメイドや兵士が見ていたから報告されていただろう。
更に国王は星羅含めた転移組に黒騎士と呼ばれる裏の騎士団の人たちを配置して監視していたが、それは星羅以外は知らない事だ。
「で、どうする? 俺を捕らえる?」
使用人は少しだけ悩んでから、
「わかりました。その代わりこれで私を斬りつけてください」
近くで星羅が殺した人の懐から武器を取り渡してきた。
これで抵抗したという事にさせるつもりらしい。
「じゃあ、遠慮なく」
腕を広げて胸に斬りかかって来いとしている使用人を尻目に星羅は使用人の太股にナイフを突き刺した。
そして去り際に、
「それ、催眠薬がついてるから気を付けてね」
使用人はその事を知らなかったのか、驚きに顔を染めて気を失った。
「周りのヤツらは二重スパイっぽいけど使用人は違うからな」
死体を調べると、一部のナイフには毒が塗られていて、ちゃっかり殺そうとしていたのが見てとれる。
が、使用人はキチンと話を聞いてくれて交渉にも応じてくれた。
「ここで見捨てるのは寝覚めが悪いな」
そう言いながら星羅は
※
『さーーて、始まりました。宮廷魔法師を決める祭典がぁーー!』
星羅はギリギリ始まる前に到着することが出来た。
なに?
使用人がどうなったか、って?
今ごろお城の地下牢で眠っているだろう。
『では、出場者の登場でーす!』
その合図で3人の宮廷魔法師見習いが会場に入ってくる。
星羅の弟子であるチャロ・ルースターに、そのチャロと勝負をすることになったロッキー・バーナッシュ。
そして星羅がまだ会ってない4人目の宮廷魔法師見習いであるルドルフ・フィンジェル。
長身でスキンヘッド、目付きの悪い顔が特徴的だ。
『そして、空席になった宮廷魔法師見習いの座についた、アルフレッド・リーデンスさんです』
雰囲気から滲み出ている傲慢さ。
それに比例しているかのように大きな魔力。
星羅が
『では、ルールを説明します。この祭典では4人にポイントを競ってもらいます。ポイントの獲得方法は勝てば2点、引き分けで1点、負ければ0点という風でリーグ戦形式で行います。
まず、第1試合から参ります。チャロ・ルースターとルドルフ・フィンジェルさんはそのまま会場に残ってください』
最前列には魔法師団が並んで、観客席に飛んできた魔法を止める役割をする。
そして、
『ではーー、始め!』
そのスタートの合図でチャロとルドルフの2人は詠唱を開始した。
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