第8話 誘拐? いいえ、同意の上です



 とうとう明日まで迫ってきた宮廷魔法師を決めるお祭り。


「やっと形になったな」

「はい! ありがとうございます!」


 チャロは満面の笑みを浮かべて感謝の意を告げる。

 チャロの才能は凄い物で、最初に使った雷の魔術が嘘のように形となった。


「さて、ロッキーはズルい手を使ってこなかったな」

「はい。あの人はあんな酷い性格をしてますが、勝負事に関しては凄い真面目な人です」


 そしてチャロは遠い目をして、


「まぁ、試合が終わればいつものロッキーさんに戻ってましたが。ははは」


 馬鹿にされてきた嫌な思い出が蘇ってきたのだろう。

 乾いた笑みを浮かべた。


「に、しても前夜祭かな? 凄い盛り上がりだな」

「そうですね。セイラ殿は観に来ますよね?」

「もちろん。て言うか、俺を含めて勇者たちも招待されてるからね」

「そうですよね……」

「どうした? 浮かない顔して」

「えっ! そ、そうですか?」

「あぁ、してたな」


 星羅は心当たりがないか考えるがない。

 1つあるとすれば、明日の宮廷魔法師を決めるお祭りで、精神的に死んで使い物にならないルノーアの代わりに誰かが出場すると言うこと。

 その誰かがまだわからないから、緊張してしまうのも無理はないだろう、と考える。


「チャロ。今日は気を付けた方がいいよ」

「なんでですか?」

「チャロが宮廷魔法師になることを望まない人たちがいるみたいだから」

「そ、それは私が落ちこぼれだったからで」

「そうか? ただ魔法の才は無いが魔術の才があっただけだろ」


 星羅は周りの警戒を続けたままチャロと話す。

 周りにはいくつもの敵対分子の気配がする。


「あっ、星羅!」

「どうした、灯」

「まだロッキーさんに魔法を教えてもらおうとしないの? ロッキーさんもう何も言わなくなっちゃったよ?」

「そうは言われてもな。俺はここにいるチャロ嬢に教わってるから」


 実際に教えているのは星羅の方だが、それを灯に言える訳ない。


「えー、じゃあ私もチャロちゃんに教えてもらう。いい、チャロちゃん?」

「チャロ、ちゃん? アカリ殿、その呼び方はちょっと……」

「えー、なんで? 可愛いじゃん。それに、私の事をアカリ殿って呼ばないでアカリとかアカリちゃんって呼んで?」

「で、ですがあなた方は国の大事な来賓ですので――――」

「――――堅苦しいよ。ね? お願い?」


 チャロは助けを求めるように星羅を見るが、「諦めろ」と言わんばかりに首を2回縦に振る。

 そしてチャロは渋々、


「わかりました。アカリ」

「んー、なんかまだ堅い気がするけどいっか。よろしくね、チャロちゃん」

「あの、出来ればちゃん付けは」

「えー、しょうがないな。よろしくね、チャロちゃん」

「取れてませんよ?」

「あれ、本当だ!」


 そんなこんなで、食堂まで来た。

 星羅はあの堅苦しい感じの場所が嫌で、他に食事出来る場所を探した結果、チャロと一緒に食事をすることになった。

 灯とは途中でわかれて食堂に入る。


「おまかせ2つ」

「はーい。おまかせ2つね」


 おばちゃんに注文してから席につく。

 お金はとられないし、食べ放題とお城で働く人たちには嬉しい場所となっている。

 他にもこのお城では大きな浴槽があったり、風邪を引いた時に貰える薬なども無償と、とてもホワイトな会社お城だ。

 

「おまかせ2つ注文した人ー」


 それを聞いて、星羅は食事を運ぶ。


「ありがとうございます」

「いいよ、このくらい。今日のこれはなんの肉かな?」

「鳥ですね、鳥。美味しいですよ」

「うん、美味しい」


 美味しいけど、という感じだ。

 少し調味料が足りないというか、味が少しだけ薄い。


「そ、そういえば……」

「どうしたんだ?」

「なんか変な噂を耳にするんですよ」

「変な噂? どんな?」

「えっと……わ、私が故郷の恋人を連れてきて城内で見せびらかしてるっていう」

「へぇー、恋人ね……もしかしなくても、俺?」

「は、はい。セイラ殿の事を勘違いしている者がいるみたいなのです」


 「へぇー」とは言ったものの、内心の焦りが半端ない。

 チャロが狙われている今、星羅自身も狙われかねないという事だから。


「チャロ・ルースター、チャロ・ルースターはいるか?」

「は、はい! ここにいます」

「おお、よかった。国王が呼んでいたぞ」

「国王が、ですか?」

「あぁ、至急来てくれ、とね」

「わかりました。ありがとうございます。セイラ殿、これを」


 チャロは急いで残りを口にかけ込んで行ってしまった。

 星羅は残りを食べてからチャロの分の食器も片す。


「あら、お兄さん。今晩一緒にいかがですか?」

「……」

「お、お兄さん?」

「……」


 星羅はその女性の脇を通り抜け部屋に向かう。


「ちょ、無視をするとはどういう意味ですか!」

「何かあったのですか、クラリス嬢」


 星羅は、わざとらしい演技に笑うのを我慢しながら振り向く。


「そこの平民が私の事を無視するんです」


 星羅の今の服装は平民が着るような動きやすい服装。

 派手な装飾ではなく目立たないはずが、城内という事で逆に目立つ服装となっている。


「ほう、たかが平民の分際で無視をするのか」

「えぇ、そうなんです」

「これは貴族権を使うのがいいんじゃないか?」

「それはいい考えですね」


 最初からどうあっても「貴族権」は使うつもりだっただろうと、星羅は心の中で悪態をつく。

 貴族権は書庫に行った時に知った情報で、貴族が粗相そそうを犯した平民に対して使う物で、罰則は殺さない限り、有りとあらゆる事が許される。

 訳ではない。

 人道的に問題ない限り……例えば町の掃除や畑仕事など、罰則と言っても軽いものが普通だ。


「おい、名前をなんと言う」

「これは申し遅れました。天城あまき星羅せいらです」

「ほう、アマキ・セイラとな? 珍しい名前だな。まぁ、いい。ではついてきてもらおうか」

「何故ですか?」

「何故と聞くか。それはもちろん貴族権の対象だか――――」

「――――貴族権の対象は粗相を犯した平民のはずですが? ちなみにどんな罰則を?」

「へ、平民なのは知ってる! どんな罰則か気になるか。そうだろうな。これからセイラには地下迷宮に行って、エルスラド鉱石を採ってきてもらうだけだ」

「地下迷宮にですか? でも、確かそこは一部の貴族しか行けないんじゃ」

「問題ない。そこに行ける許可を私が出すのだから」


 それを聞いて、星羅は安心したのかついていく事にした。


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