第7話 恐怖で支配された“やくそくごと”



「おい、お前。面白い魔法を使えるようになったんだな。教えろ!(デデンッ!)」

「ロッキーさん、勝手に入るのは規律違反で――――」

「――――うるせぇ! そんなのは関係ねぇんだよ」


 ロッキー・バーナッシュで、特にチャロを敵対視しているようだ。

 後に聞いた話では宮廷魔法師見習いの中で1番の実力者ということ。


「えっと、あれは私が使ったんじゃなく」

「は? お前、あれだろ。毎回負けてたけど、あれはわざとで俺たちの事を馬鹿にしてたんだろ?」

「そんな事はありません! 私は全力でした」

「そうか、全力か。全力で負けてくれたのか。どこまでコケにする気だ?」


 星羅は内心というか、


「ここにいたくない」

「ま、待ってください、セイラ殿。行かないでください! 私を1人にしないでください!」

「わかったから。もう1度使えばいいだろ? 宮廷魔法師見習いなんだから1度見たら覚えられるでしょ」


 星羅はチャロにウィンクして、ロッキーを煽る。

 チャロはと言うと、


「急に格好つけてどうしたんですか?」


 星羅のウィンクは「俺が魔術を使うから」という意味で放ったのだが、「かっこいいだろ?」という風に捉えてしまった。


「おい、勝手にコソコソ話してるが、まだ馬鹿にし足りないのか?」

「私は決して馬鹿になんてしてません」

「本当か? いくつか理由があるから言ってるんだよ。お前は無能なのになんで宮廷魔法師見習いを解任されない? その答えは簡単だよな。お前が裏でちゃんと魔法を使う姿を見せればいいんだから」


 ロッキーはチャロに負けた事が悔しいのか、妬ましいのか有ること無いこと言い掛かりをつけて文句を言っている。


「ロッキーさん。わざわざ相手が強くなるために魔法を教えると思いますか?」

「部外者は黙れ!」


 そう言われ、星羅は黙り込む。


「えっ、セイラ殿。助けてくれないんですか?」

「だって面倒な事は避けたいじゃん?」

「いや、助けてくださいよ。私にしたように! 熱いものを体に押し付けたりしたじゃないですか!」

「おい、言い方には気を付けろ? 誤解を招く言い方じゃないか」

「そうですか?」


 星羅はチャロにおちょくられイライラが溜まっていく。

 が、それよりもイライラを溜めていたのは無視され続けるロッキーだ。


「だーかーらー、俺を無視するなー!」

「「うるさい!!」」

「ご、ごめんなさい」


 星羅は頭の回転を早める。

 この状況を切り抜ける最善の手は無いか。

 1番いいのは穏便に済ますことだ。

 が、相手が、ロッキーが激昂してる今……激昂してる?


「王様に言いつけてやる!」


 星羅は小学生並の方法を選んだ。

 が、


「王様がなんだと言うんだ? 魔法は使わないし、偉そうにしてふんぞり返ってるだけだろ」


 それを聞いて、星羅は笑いを我慢する。

 書庫で色々な情報を手に入れた星羅。

 王様は魔法国家ユリエーエにある最高峰の魔法学校を首席で卒業したという。

 そして、星羅の魔術索敵にかかる王様の姿。

 星羅たちのいる、宮廷魔法師見習いの訓練所に近づいている。


「し、知らないんですか? 国王は凄い魔法使いなんですよ!」

「は? いやいやいや。そんな訳ないじゃん。あんな老いぼれのどこが凄いと言うんだよ」


 チャロも知っていたのかロッキーに言うが笑うだけ。

 そして、ガチャッと訓練所の扉が開く。


「何やら楽しそうな話をしているようだな」

「こ、国王。どうしてここに?」

「なに、セイラ殿とチャロの様子を見に来ただけだよ」

「そ、そうですか。俺、わ、私はこれで……」


 そう言って出ようとするが、星羅によって閉められた扉は凍りついたかのように動かなくなった。


「あ、開かない! なぜだ!」

「まぁ、落ち着きましょうよ、ロッキーさん」

「落ち着いていられるか! 閉じ込められたんだぞ」

「そうですね。まぁ、それは俺がやりましたから」

「なに? どんな魔法だ? 風か? 火か? 水か? いや、土か?」

「どれも違いますけど? まさかわからないとは……それでも宮廷魔法師見習いですか?」

「「グッ」」


 ロッキーと何故かチャロの声が重なる。

 チャロはわからなかった自分を恥じているのだろうか。


「いいですか? ロッキーさん。俺の事は口外しないと約束してください」

「なぜお前の言うことを聞かなきゃいけない!」

「は? 聞く聞かない関係なしに命令であり、誓約だから。

 “‘契約焼印 《alhena》’”」


 8つの噐晶石。

 星羅の式句。

 それらが合わさり、ロッキーを中心にして紅く燃えそうな魔法陣が形成される。

 そして、


「グガァァァア」


 胸を押さえて苦しみだす。


「契約内容は簡単だ。俺が魔術を使える事を如何なる手段でも他人に伝えてはいけない」

「な、何をした。そんな火魔法など知らないぞ」

「はぁー。これは俺の“‘星座喰い 《constellations eater》’”という固有魔術の1つに過ぎない」


 ロッキーは驚きのあまり口をパクパクとしたまま動かない。

 これで星羅の事を誰かに言われる、伝えられる心配は無くなった。


「チャロ。国王にロッキーの事を言ったら?」

「そうだった! 国王、聞いてください。宮廷魔法師見習いであるロッキー・バーナッシュは私の許可なく訓練所に入ってきたんです!」


 チャロは、まるで小学生が先生に言いつけるかのように国王に言う。


「ロッキー、それは本当なのか?」

「は、はい。本当です……」

「そうか。で、チャロよ。処罰はどうすんるんだ?」


 そう聞かれてチャロは考え込む。

 代わりに星羅が、


「ならこうしましょう。宮廷魔法師を決めるお祭り事があります。そこで、ロッキーさんは優勝すれば無罪放免。負ければその時点で、そうだな……俺が直々にルノーアさんと同じ目に遇わせます」

「な、なんでお前が出てくるんだ」

「なんで、って言ってなかったっけ? 俺はチャロと師弟関係にあるから」

「そんな事は知ってる! だから、師匠の事になぜ口出しするんだと聞いてる!」

「はぁー。あのさ、いつ俺が弟子でチャロが師匠だと言った?」


 星羅はチラッとチャロを見ると、「私が師匠なんて烏滸をこがましいです」と言わんばかりに首を横にブンブンと振る。


「覚悟しろよ、ロッキーさん。俺はチャロに異世界の魔術を叩き込む。逃げられる道はないと思え?」

「い、嫌だ。ルノーアと同じになるなんて嫌だ。何かわからないモノに脅えるなんて絶対に嫌だぞ」


 そう言いながら、ロッキーは訓練所を後にした。

 そして、


「国王、丁度いいところに来てくれましたね?」

「元々チャロの様子を見に来る予定だったんだ」

「なぜ、です?」

「それはもちろんセイラ殿が魔法を使っているかを確認しに。そしてそれを見て少しでも盗める物があれば……と思ってきたんだが、実際、目にしてみると桁が違ったようだ」

「そうですか?」


 星羅にとっては難しい事ではない……いや、チャロも星羅も天才と呼べるほどの才能を持っている。

 それに比べて、星羅は知らないが国王は努力の天才である。

 だから理解こそ出来なかったが、懇切丁寧に教えればいつの日か……。


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