第5話 宮廷魔法師は悪い人でした



 宮廷魔法師であるクジュラは口をパクパクと開閉させながら固まっている。


「こ、国王。何かの間違えです。このセイラとか言う者は私を失脚させてこの国を乗っ取るつもりです」

「そこまで言うなら仕方がない」


 星羅はポケットからスマホを取り出してボタンをポチッ。


『おや? 今日の練習に参加してませんでしたがどうかしましたか?』

『これはどうも、クジュラさん』

『なぜ来ないんですか? セイラは魔族から助けるという自覚はないんですか?』

『その為に俺は書庫で本を読んでました』

『えぇ、知ってますとも。国王は勉強熱心で偉いなんて言ってたがあれは皮肉ですからね? わかってますか?』

『“‘炎よ、炎の力は万物をも燃やす力なり’”』

『それだけですか? やっぱり、落ちこぼれのチャロなんかに教えてもらうから。他の皆さんは中級魔法の全種類を使えるようになりました。が、あなたはどうやら1つの、それも1番簡単な火魔法だけしか使えない様ですね』


 録音された音声を流した。

 ここから先は星羅の都合上、魔術に関するから意図的に止めている。


「そ、それは……そうだ、魔法だ、魔法。セイラは魔法が使えるんだ」

「クジュラさん。それは俺たちの世界では普通の物で録音というやつです」


 真昼は不意で確実な一撃をクジュラに与える。


「クジュラくん、私はセイラ殿に対して皮肉を言ってはいないぞ?」


 更に、国王からの正確な一撃がクジュラを襲う。

 チャロはと言うと、


「わ、私は落ちこぼれ……」


 目に見えて落ち込んでいる。

 後一撃で撃退出来そうだけど足りない。


「セイラ殿、そのメイドは覚えているか?」

「はい、覚えています」


 星羅は覚えていない。

 然りとて興味もなかった為、気にも止めてなかった事が仇となり記憶から消えている。


「ご、ごめんなさい。私が昨日セイラさまに言いました。きゅ、宮廷魔法師のクジュラさまに“王様はセイラと会いたくないらしい。食事は部屋に持っていくとでも言っておけ”と言われました」

「う、裏切る気か!

 “‘深淵の炎よ、我の声に答えよ。炎のは万物を燃やし火の海へと還せ’”」


 クジュラが手を上に掲げるとそこに炎がメラメラと大きな塊となって集まっていく。

 ここで撃てばこの部屋にいる人は無事では済まないだろう。


「クジュラ、止めるんだ」

「黙れ! 黙っていればよかったんだよ。そして無能は早く解雇出来れば」


 どの言葉に反応したのか、


「私を解雇させたい? 嫌です。私はこの国で宮廷魔法師になりたいんです。だから、魔法を使えるセ……グガァァァア」

「馬鹿が」


 チャロに言っちゃいけないと魔術まで使って約束させたにも関わらず、興奮して忘れてしまってたのか途中まで言いかけた。

 星羅は渋々、


「“‘双魚の口 《fumalsamkah》’”」


 21の噐晶石きしょうせきが決まった形に並んで星羅の式句に反応する。

 2匹の水で出来た魚が口から水を吹き出す。

 その水は炎の塊を意図も容易く包み込み鎮火してしまう。


「チャロ、さん?」


 真昼がチャロに驚きの表情を向ける。

 それもそのはずで、2匹の魚はチャロの目の前に出てきて、どこからどう見てもチャロが魔法を使ったようにしか見えない。


「な、な、なんだ、今の魔法は!」

「えっ、えっ、えっ! わ、私にこんな力があったなんて」


 クジュラは兵士たちに捕らえられ、星羅に虚偽の報告をしたメイドも同じく連行された。

 チャロは驚きが冷めないまま、王様にとても感謝されててんやわんやしている。


「ロッキー・バーナッシュさんとかがチャロさんを無能とか言ってたけどそんな事は無かったね」

「私、チャロさんに魔法を教わりたい」

「俺も」


 そんな感じで盛り上がり初めてしまい、星羅は入るに入れなかった。


「セイラよ、後で話がある」

「わ、わかりました」


 王様からの指名で星羅は憂鬱な気分になりつつある。

 が、今は食事の場だ。

 星羅は顔に出すことなく気になった事を質問する。


「国王、質問なんですけど、チャロが宮廷魔法師見習いを止めたら代わりが入るんですか?」

「あぁ、そうなってるはずだぞ? なぜだ?」

「えっと、さっきクジュラさんが無能チャロを解雇出来ればと悔しそうにしていましたから」

「なるほど。確か、1人補欠が出来て入ってくるのは……誰だ?」


 王様は近くの側近に聞いている。

 そして、


「クジュルル・リーデンスというクジュラの子供だ」

「クジュラさんは自分の息子を宮廷魔法師見習い、くは宮廷魔法師にさせたかったって事か?」


 星羅は1人納得して、食事を進めた。



 ※



 ――――トントン


「入れ」

「失礼します」

「まぁまぁ、座れ」


 星羅は王様に呼び出された部屋にやって来た。

 話の内容は大方というか、


「今日の魔術についてですか?」

「おぉ、あれはやっぱりセイラ殿だったか。で、ルノーアは知っているか?」

「はて? 最近どこかで聞いたような……」

「宮廷魔法師見習いだ」

「あっ、思い出しました。夜這いしてきた野郎ですね」

「夜這いではないだろうが、そうか。そっちもセイラ殿か」

「そういえばまだ寝てるんでしたね」

「悪夢を見ているのか魘されているがな」

「わかりました」


 ――――パチンッ


 指を弾いて魔術を解く。


「これで大丈夫なはずです」

「そんな簡単なのか?」

「解くだけなので。逆はそれなりですけど」


 星羅は持っている21の噐晶石を宙に浮かべて見せてみる。


「スゴいな! セイラ殿、よければこの国で宮廷魔法師に――――」

「――――嫌です。絶対に嫌です」

「そうだろうな。まぁ、わかっていた事だ。クジュラは宮廷魔法師を解任、並びに処刑が決まっている」

「なるほど。王様の命まで危険に晒した事と、勇者にも危険な目に合わせたからですか?」

「そうだ。何か不満か?」

「いや、なんの不満もな――――」


 ――――トントン


「失礼します。宮廷魔法師見習いのルノーアさまが目を覚まされました。ですが、何やら怖い夢でも見たようでずっと脅えています」


 王様はチラッと星羅を一瞥してから、


「わかった。下がれ……さて、セイラ殿」

「嫌ですよ?」

「? 何か勘違いしているようだが、ルノーアの事ではない。宮廷魔法師がいなくなり、急ぎ宮廷魔法師を任命しなくてはいけない」

「そうですよね。今、魔族に攻められたら対抗出来ないもんね」

「そう。だから大々的にお祭り騒ぎにしてしまおうと考えていてな」

「お祭り、ですか」


 星羅は厄介事を押し付けられそうな気もしながら先を促した。


「セイラ殿には、信頼出来る者に魔法を教えて宮廷魔法師にさせてくれないか?」


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