第4話 変態が部屋に入ってきた



 「食事は自室に運びます」とメイドに言われ、星羅は1人、お城の廊下を歩く。


「おや? 今日の練習に参加してませんでしたがどうかしましたか?」

「これはどうも、クジュラさん」

「なぜ来ないんですか? セイラは魔族から助けるという自覚はないんですか?」


 星羅は親しくもないのに名前を呼び捨てされた事にイラッとした。

 が、それを顔に出さずに答える。


「その為に俺は書庫で本を読んでました」

「えぇ、知ってますよ。国王は勉強熱心で偉いなんて言ってたがあれは皮肉ですからね? わかってますか?」


 クジュラは更に星羅の気持ちを逆撫でしていく。


「“‘炎よ、炎の力は万物をも燃やす力なり’”」


 星羅はどうにか気持ちを落ち着かせて一応は魔法の練習をしていたという形をとる。

 が、逆撫でしないと済まない病気なのか、


「それだけですか? やっぱり、落ちこぼれのチャロなんかに教えてもらうから。他の皆さんは中級魔法の全種類を使えるようになりました。が、あなたはどうやら1つの、それも1番簡単な火魔法だけしか使えない様ですね」


 星羅は色々と思うところがある。

 それを抑え、抑え……抑えないで、小さな声で、


「“‘’小さな雷 《red saghir》’”」


 バチッチッと音をたてて星羅の人差し指から紫色のかみなりがクジュラの髪の毛を焦がす。


「書庫は凄いですよね、こんな技もある・・んだから。あっ、もちろん宮廷魔法師・・・・・であるクジュラさんは当たり前・・・・のように使えますよね?」

「そ、それはもち――――」

「――――それにファイナ国王は嫌味では無く本気で言っていると思いますよ? で、使えるんですよね・・・・・・・・?」

「もちろんだ」


 大事な所は煽るように緩急をつける。

 星羅の顔には厭らしい笑みを浮かべて、


「そうですか、そうですか。チャロ嬢は出来ない事を認めて教えてほしいと素直に頼んだんです。いやー、落ちこぼれでも努力をすればどうなるかわかったもんじゃないですね」


 星羅はそう言い終わるとクジュラの脇を抜けて自室に戻った。


 が、一行に食事が運ばれてこない。

 夜も更けて人を襲うにはいい感じの時間帯だ。


 ――――ガチャ キーーッ


 星羅の部屋の扉が独りでに開き、1つの影が中に入る。

 そして、


 ――――ガチャンッ


 扉が閉まり明かりがつく。


「こんな夜遅くになんの用だ?」

「ほう、起きているとは。子供は早く寝るべきではないか?」

「待て……多分だけど同い年くらいだぞ?」


 星羅から「16」と自分の年齢を言う。

 返ってきたのは「……16」という声。


「俺が寝るならお前も寝ないとだな」

「……フンッ。それで勝った気になってるらしいが、そうはいかないぞ。

 “‘その岩は岩にして岩に非ず。穿たんとする礎となれ’”」

「“‘雷龍 《tunin alraed》’”」


 星羅は相手が式句を言い終わるまで待ってから魔術を放つ。

 相手の手から岩の塊が、星羅の手からは紫色のバチッバチッと音をたてている龍が放たれ、雷はそのまま岩をも穿ち相手を喰らう。


「縛る物は……」


 部屋を見渡すが良さそうなのが無い。

 星羅は渋々、相手の身ぐるみを剥いでいく。

 すると、面白いものを見つけた。


「宮廷魔法師見習いのルノーア・ガジルゼン、か」


 どこをどう考えてもクジュラからのちょっかいだろう。

 星羅は大事な髪の毛を焦がしてしまった事を申し訳なく思わない。


「さて、どうしてやろうか。売られた喧嘩は買う主義だけど、このままだと俺が魔術を使えるのがバレちゃう……そうだ!」


 星羅は外の状況を確認して、誰もいない事を確かめるとルノーアを引きずって部屋を出る。

 そして、隣の部屋の鍵を魔術で開けてルノーアをベッドの上に投げる。


「仕上げに、

“‘熒惑の炎 《antares》’”」


 15の噐晶石が決まった形に、星座の蠍の形に並んで怪しい光を放つ。

 幻惑を、悪夢を見させてあげる。


「俺ってなんて優しいんだろう」


 そう言いながら自室に戻る。

 そして、昨日と同じく守りの魔術を張って眠りにつく。

 この物語の主人公は吸血鬼とかじゃないから眠気はきます。



 ※



 朝になり目が覚める。

 外が少し騒がしいから、何かあったのだろう。


「さて、食事は」


 流石の星羅も昨日の夜を抜いたからお腹は空いている。

 部屋を出ると、慌ただしくメイドたちが動いていた。

 近くを通りかかったメイドを捕まえて、


「何かあったの?」

「はい。宮廷魔法師見習いのルノーア・ガジルゼン様がうなされたまま目を覚まさないんです」

「それは大変ですね。呼び止めてごめんなさい」

「いえ、失礼します」


 星羅は昨日に食事をした大広間に向かう。


「チッ」

「?」


 クジュラがすれ違いざまに舌打ちをしてきた。

 クジュラからしてみれば、星羅が犯人だとわかっているが、それを証明するには「襲わせた」という事実がついて回る。

 それを理解していて舌打ちしか出来ないなんて、


「滑稽だな」

「何が滑稽なの?」

「おはよ、灯」

「おはよう、星羅。昨日はどうしたの? 練習には来ないし、体調が悪いって夜ご飯は食べないし」

「へぇー」

「へぇーって星羅の事じゃん」

「いや、ちょっとね。で、誰が俺の体調が悪いって?」


 大方というか、星羅にとって犯人はわかりきっている。

 が、一応の確認だ。

 もしも、もしも万が一に無罪だとしたらその人は敵という事だから。


「誰って宮廷魔法師のクジュラさんだよ? 星羅が伝言をお願いしたんでしょ? そんなに体調が悪かったの?」

「一気に質問しすぎ。まぁ、後でわかるから」


 星羅は灯と一緒に大広間に入る。

 今回は早かったのか、まだ皆と同じ食事だ。


天城あまき、体調は大丈夫なのか?」

「心配かけてごめん。大丈夫だから、東雲しののめさん」

「そんな“さん”付けなんて他人行儀だから名前で呼んでいいよ」

「わかった、真昼まひる。なら俺も名前で構わない」


 すると、何かを終えたのかクジュラが帰ってきた。

 そのタイミングで、


「私も気になっていたんだ、セイラ殿。体調は大丈夫なのかな?」

「えぇ、大丈夫か大丈夫じゃないかで言われたら大丈夫じゃないですね。俺は昨日、書庫にいたんですがその帰りにメイドから食事は部屋に持っていく、と言われたんです」

「ほう、それは本当か?」


 星羅は無言で頷く。

 が、


「何を言っている! 昨日は体調が優れないと私に言ったではないか!」


 半ば懇願するような瞳で星羅の事を見つめる。

 が、星羅も星羅とて、男の、しかもおじさんに見つめられて嬉しいはずもなく、


「チャロ嬢に聞けばわかると思います。チャロ嬢もその場にいたので」


 星羅がそう言うと、ニヤリとクジュラの口元が歪む。

 そして、


「チャロは体調が優れ――――」

「――――私の話ですか、クジュラ宮廷魔法師殿」

「な、何でここに!」


 その言葉を星羅では無く、


「ここに来るはずの無い、そんな言い方だね?」


 王様が拾った。


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