第4話 行間
────情けない。
泣き声とも呻き声ともつかない言葉を発しながら項垂れ、そのままピクリとも動かない姿に、心からそう思う。
“こんなのが”かつて世界を救った人の1人だとは、到底思えない。やさぐれた飲兵衛の姿には多少なり擦れた過去を感じさせはするが、これなら威張り散らす愚王の方が権威を持って見える。
張れるだけの威すらない様に、人々を守り悪を打ち払った勇姿は欠片も残っていない。
あ"ーとか、う"ーとか、聞こえる言葉には、かつての勇姿どころか人として最低側の尊厳さえ残っているのか疑わしい。
既に意識も混濁しているだろうに、テーブルの上に手を這わせ酒瓶を探っている。顔を上げる気力もなしに、まだ酒を飲もうとする。
ため息を一つ溢し、彼の腕を掴む。
すると、何を観念したのかスルリと力が抜け呻き声が止んだ。這いずる魔物のような姿が嘘のように穏やかな寝顔を晒している。
一体誰と勘違いしているのか、考えると鬱屈とした気持ちになりそうだったので、頭を切り替えるついでに先ほどより長いため息を吐いて掃除を始めた。
空いた酒瓶を片付け、床を拭き、転がってくる彼を退かしながら散乱したガラス片を掃く。
苛立ちに舌を打っても、彼は腹が立つほど穏やかな寝顔を晒している。
再三、「こんなのが」と蔑む。
いつか憧れた都会の汚れを目にしたような、自分勝手だと分かっているからこそ尚更腹立たしい期待への裏切りに、掃いても掃いてもスッキリしない積もった埃のようなどうしようもなさを自覚する。
どうにもスッキリしない心から目を逸らして、綺麗になった部屋を眺める。染み付い酒の匂いはまだ取れていないけれど、咽せるほどの刺激臭は無くなった。勇者一党と世間から持て囃されてはいても、男所帯はこれだから困る。魔王討伐の旅ではどうやって生活していたのだろう……
一息ついて疲れを解していると空腹感がやってくる。日も高く、休憩がてらお昼を済ませる。
彼を呼んだが起きなかったので、2人前のサンドイッチを1人で食べた。
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