全ての始まりc.2

 セリュー・ドノートは商家の娘である。


 セリューの父、バルナートは大手商会の顧問監督として雇われ、そこで培った伝手と経験を基に独立、食品流通と日用雑貨、個々人の生活に根付く経営スタイルで堅実に規模を広げていった。

 母は貴族の末娘であり、お上りの父が業界で力を持つための細いパイプだ。


 半ば政略的な婚姻ではあったが、街の有力者とコネクションを築いたバルナートは、ドナートの家名を継ぐことに成功し、順風満帆の日々の中優しい父親として家族を愛した。


 セリューが16の時、ドナート家に縁談が申し込まれた。

 セリューの姉にあたる長女リーシャが嫁いでから僅か数ヶ月後の事だ。引っ掛かりはあったが、断る理由もなく話だけでもと準備は進められた。


 不幸と言う他ない。

 断るべき実態が詳らかになったのは、断れない状況になってからだった。


 混沌の手先がドノート商会の商隊を襲撃した。

 損害は少なくなかったが、一例であれば持ち堪えられた。一例ではなかったから大きな損害を被ることになった。

 アルバートが占有していた独自の流通経路が押さえられ、損害と共に収入の多くを絶たれた。


 息つく間もないほど急激に切羽詰まっていく事態に、アルバートは日を追うごとやつれていった。

 尋常でないその失墜様に、セリューの母アンジェリーナは娘の身を案じ、縁談を申し込んできたウェールズの農夫の元へ彼女1人を先に旅立たせる事にした。


 護衛の2人に銀50をそれぞれ握らせ、セリューにもお守りを渡し、旅の安全を祈った。



 彼女を乗せた馬車が街を出て十日後、ウェールズが混沌の軍勢に滅ぼされたと火急の報せが届いた。

 城塞都市ウェールズの陥落は、人々の不安を増大させ、涙に暮れるアンジェリーナに追い討ちをかける様に混沌に手引きした者の存在が手配された。







 顔と名前は縁談先の農夫と同じ者であった。

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