第9話 ナターシャの告白
<ナターシャの告白>
昔、この城がまだ光輝いていたとき。
王様と王妃様の間にそれは可愛くて綺麗な子が生まれた。
ハレーネ、とその子は名付けられた。
女神の加護を受けている、そう王室付きの占い師が言ったりした。
両親である王様と王妃様、そして召使いたちは皆、この小さな王女様を可愛がった。
そして皆、この王女様には盲目だった。
一生、美しくいたい。生き長らえたい。
王女様がそう思うのも無理がない。
皆に甘い言葉をもらって、いつも大切にしてもらえたのだもの。
そして王女様は誰かとの婚礼も拒んだ。
これは、王室にとっては由々しい事態だった。
国の存続がかかっているのですもの。
今度こそ、王様も王女様に厳しくあたらねばいけなかった。
今まで、一度も厳しく忠告されたことのなかった王女様は大きなショックだった。
傷ついた心に悪魔が目をつけた。
そして、ハレーネ、王女様は悪魔に魂を売り渡してしまう。
千年の命、美しさと引き換えに、この王宮の人々を売ったの。
そして、悪魔はさらにハレーネに毒を与えた。
生きるためには、私を取り込めと。
悪魔を取り込んだハレーネは、人を喰う化け物になってしまったのよ。
ハレーネも最初は上手くいっていた。
人を上手に狩って食べることにスリルも感じていたみたい。
王室はとっくに崩壊していたけどね。
でも、この世界は変わりつつあったの。
ハレーネを当然、良く思わない人々の願い。
それは、男が生まれないことよ。
ハレーネは男ばかりを捕食する悪魔だったから。
この願いは聞き入れられたわ。
赤ん坊は、この世界では鳥が運んでくるものになった。
もちろん、すべて女の子よ。
そこで、ハレーネに巣食う悪魔は考えた。
いずれこの世界の男は尽きる。
餌を持ってくるやつが必要だと。
そして、私が生み出された。
ナターシャ。人をさらう捕縛者。
ハレーネのために生み出された名もない人間。
妹としておくには、人をさらってくる口実として都合がいいから。
だから、私は本当の妹なんかじゃない。
だけど、ハレーネは起きている間、私を本当の妹と思うようになったわ。
千年も生きているのですもの。500年を過ぎるころには、眠ることが好きなハレーネは夢と現実を混同しだしたわ。
でも深いところで、ハレーネは知っていたのよ。
自分には妹がいないと。
妹なんかいらない、と。
私は妹を演じた。ハレーネの力があるうちは消される可能性がある。
うるさくて、憎めない可愛い妹……。
でも、私はこの世界で役割を果たさなければいけない。
姉のために食べ物を捕ってこなくてはならない。
別の世界に飛べる能力を私は悪魔から授かっていた。
私はそれを利用して、色んな世界に転生した。
捕縛するため。
姉のハレーネの餌を用意するため。
でも、こんなこと終わらせなきゃいけないって思っていたの。
信じてもらえないかもしれないけど。
だから、私は1000年待ったわ。
ハレーネと悪魔の生命が弱まるとき。
その時を狙って、誰かにハレーネのとどめを刺してもらえれば、
私の役目も終わるんじゃないかって。
そして、私が最後に転生したのが、コウくんの世界。
もう一人だけ男を捕縛すれば、私の仕事は終わる。
ごめんね。こんなところに連れてきちゃったよ。
寝台の間の方でハレーネの絶叫がきこえる。
ロベルタとココが致命傷を与えたのだろうか。
「アリサ、これで元の世界に帰れるな!」
熱っぽく言う俺に対して彼女は力なく首を振る。
「コウくん、さよならだよ」
そういうナターシャ、アリサの身体は端からボロボロ崩れ始めた。
「ハレーネの悪魔に作られた私は、
ハレーネの消滅と共に消える……」
「そんな、嘘だろ!これは夢なんじゃないか!?」
そう。悪い夢。
「そうだったら、よかったのにね」
崩れ消えてゆく、アリサの口元が動いた。
「ばいばい」、と。
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