第6話 異世界へようこそ3

ハーレムってやつじゃないか?

どこかでささやく声がする。


女たちの饗宴。

そう呼ぶのにふさわしい宴だった。


村の女たち、ざっと30人以上。

車座になって、食べたり踊ったりと

一人ひとりが楽しんでいる。

しかし、視線の先は俺に注視されている気がする。


年を取っていても40代前半くらいまで。

下はココのような、10代くらいの少女もいるが

皆、可愛かったり、美しかったり。


およそ食べきれない量の食物

(焼いて香辛料だけを振りかけた肉や、骨だしの効いたスープなど)

が、俺の前に積み上げられる。


積極的に話しかけてくる女性は20代後半くらいだと思われる、

胸の大きな美女だった。

緑の光沢をもつ黒い髪がとりわけ美しいこの女性はミリアンという。

お客さま歓待の役目があるの、と言う。

それをどう受け取っていいかわからないが、ミリアンとの会話は弾んだ。


「この世界は女ばかりで不思議に思わなかった?

 赤ちゃんは本当に鳥が運んできてくれるの。

 もちろん女の子ばかりよ。

 男は異世界からしかこないわ。

 もっともあの姉妹が食べてしまうけどね」


「あの姉妹?」


俺が最も知りたいことだ。多分、ナターシャに関わる情報。


「妹はナターシャ、捕縛者。

 姉はハレーネ、捕食者」


ぞっとする話を聞いている気がする。

この世界は俺の住んでいた世界とは違う。

正真正銘の異世界なのだ。


「男のあなたには恐ろしいことでしょうが、

 私たちはこの世界で充分に幸せだわ。

 ナターシャは悪者だけど、男をこの世界に召喚してくれる。

 姉のハレーネに食べられちゃう前に、

 私たちはこうして、ね」


ミリアンが身体を密着させてくる。

俺はミリアンの肩を持って離した。


「……どうして?こうして、運よく

 捕まる前に出逢えて子を成せば、

 ココやロベルタのような強い女が生まれるのに」


俺は「ごめん」と一言、謝った。


ココはちょっとした魔法が使える。

ロベルタは男顔負けの戦闘力がある。

なので、村の外へ出ても多少の危険が防げるというわけだ。

それは、ミリアンによると、鳥が運んできたからではなく

捕食される前の男と子を成したから、というわけらしい。


だから、俺みたいなブ男でも、この村の女たちは

熱い視線を送ってくる、というわけか。


俺は、気まずくなったミリアンと離れてロベルタの元へ行った。

ロベルタは肉の燻製を酒のアテにして豪快に飲んでいる。


「おお、コウ!なんだ、その暗い顔は!」

「ロベルタ、教えてほしい」


俺がいくぶんか、真面目に切り出したので、

ロベルタはスッと素面の顔になった。


「俺が勇者だとしたら、ナターシャを救うにはどうしたらいい?」

「ハハ!悪者のナターシャを救うだって!?

 倒す、の間違いじゃないかい?」


「いや、救う」俺が即答すると、ロベルタは酒の隣に置かれたコップの中の水を飲みほした。


「だったら、乗り込むしかないねぇ。

 救うにしろ、倒すにしろ」

「わかった」


俺は、ポケットから、財布を取り出した。

ロベルタに財布の中身を差し出す。

お金ではない。そんな物がこの世界に役立つとは思えない。

それは、金の馬蹄のお守りだった。


「おお!すごい意匠だねぇ、見たこともないよ」


この世界ではそうだろう。

俺が初詣の神社で金運アップに買った500円もしないお守りだ。


「これで、姉妹との戦いに協力して欲しい」


ロベルタは金の馬蹄を焚火で上へ下へと照らしながら、

「いいよ!面白いじゃないかい!」

と答えた。


一方、ココにはアリサとのデート前に仕上げた髪を

切ってもらった美容室のショップカードを渡してある。

ロベルタと同様、紙や印刷の出来の素晴らしさに

ココも感激して、参戦してくれることになった。


そう、明朝から俺は旅立つ。

アリサのウサギのリュックを革袋につめて。

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