第5話 異世界へようこそ2

「アリサ!アリサだろう!!」

俺は夢中になって叫んだ。


アリサ?と思われる人物は俺を見て顔を歪ませた。

化粧は濃いが、幼なじみの俺ならわかる。


「なぁんだ、今回は下等なブ男だわ」

「俺だよ!コウだよ!ほら、これ見覚えがあるだろ!」


俺はウサギのリュックを差し出した。

ただし、肩にかけるベルトを隠して。


「あらぁ?そんな薄汚いリュック知らない!」


嘘だ。俺は見抜いた。


「どうしてこれがリュックだってわかるんだ!?

 後ろを見るまでぬいぐるみとしか思えないだろう!」


そう言うと、彼女は少し眉間に皺を寄せた。

顔はアリサなのに、こんな邪悪な表情は見たことがない。

本当にアリサなのか?少し俺も自信が無くなってきた。


「おい、コウ、だっけか?それ以上はやめとけ。

 ナターシャに八つ裂きにされるぞ」


ロベルタが前進しようとする俺の肩に手を置いた。

ココも心配そうに見上げている。


「あれは、ナターシャなんかじゃない!

 アリサだ!俺はアリサに会って、このリュックを返すんだ!」


アリサ……今はナターシャか。

どういうわけかわからないが、彼女はこの世界では、

恐ろしい存在らしい。


「コウ……、ナターシャは人さらいだよ」


ココがそう言うとナターシャは笑い声をあげた。


「そうよ!私が姉さんのためにこの世界の男たちは皆さらったわ!

 あなたは醜いけれど、それでも腹の足しにはなるでしょう!

 大人しく私に捕まりなさい!」


どうかしている。アリサはナターシャという化け物になってしまったのか。

いや、俺の彼女は悪魔なんかじゃない!


「ナターシャ、俺は君を助ける!」

「は?」


ナターシャは、近くの木の枝にふわりと飛び移った。

それは後退しているように見える。


「気持ち悪いわね、アンタ。

 ホント、気分が悪い!」

 

そう言い放つと、ナターシャはシュルンと一筋の風を起こしていなくなった。

暗かった空が晴れ、元の広場に戻った。


「さらわれずに良かったね、コウ?」

「一度でさらわれなかったのはアンタが初めてだよ、コウ」


ココもロベルタもいつの間にか俺の名前を呼んでくれる。

正式な自己紹介もしなかったのに、今の騒動が去ったことで、

少し、親密になれたようだ。


「コウは本当の勇者かも!」

ココは嬉しそうだ。なんだか、妹みたいだな。

剣を鞘におさめたロベルタは頼れる姉御、といった感じだ。


「私たちの村へおいでよ!」

ココが俺の手を握って、先導する。

アリサとも手をつないだことないのに!

俺は少し赤面する。ココに恋愛感情はないが、

可愛い女の子には違いない。


ロベルタは馬をひいて、俺たちの後に続く。


俺は、あの遊園地のアトラクション、

「おとぎのラビリンス」の穴に落ちて、死んだのか?


そして、この世界に転生してしまったのだろうか。

どうにかして、生き返りたい。

あの、泣き虫で可愛いアリサの元に。


だが、ナターシャがアリサに似ているのは心に引っかかる。

アリサがナターシャのような悪魔では、決してないと思う。

俺は、この世界でそれを確かめなければならない。

そんな気がしている。


暑い砂利道を10分ほど歩くと、村が見えてきた。

藁と土とで出来た家々が見える。


そこには、現代のような技術は垣間みえない。


アフリカの民族ならまだ、こういう家々に住んでいるだろうか。

だけど、彼らも今はスマホを持つしなぁ……。


「何、ぼんやりしているのさ。女ばかりだからって

 舐めるんじゃないよ」


ロベルタが俺を小突く。


ふくよかな女の人が村の入り口で俺を出迎えてくれた。

「まぁ、男の人が来るなんて、何年ぶりかしら」


「まぁ、まぁ、まぁ!」と言ってその人は

俺の頭を両手で撫でた。

頭に血が上るのを感じる。

かつて、こんなに歓待されたことがあっただろうか。


「今晩は腕をふるわないと!」


そう言って女の人は村の方へ忙しそうに駆けていった。

住居から俺をうかがう視線を沢山感じる……。

表へ出ている人も一斉に俺を見る。


その誰もが女の人ばかりだ。

俺が赤面しているのをココもロベルタも面白そうに笑っている。


「お前、大丈夫か?サーシャのもてなしは、

 物凄いぞ?ナターシャと違った意味で殺されるかもな」


ロベルタが俺をからかう。

ナターシャの名前が出たことにドキッとしながらも

俺は照れたように頬をかいた。

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