第2話 初めてのデート

初めてのデート。


俺の心は有頂天だった。

人生最良の日。


俺は、ついに幼なじみのアリサとデートする!


告白されたのは都合がよくも、金曜日の夕方だった。

土曜日、アリサは用事があるというので、遊園地デートは日曜日に予定された。


隣同士の家なので、待ち合わせ場所はどうするか、それなりに考えた。

コソコソするわけではないが、親や近所に早いうちにバレるのは気が重い。

さらに噂が広まると俺はこれまで、アリサに恋心を抱いていたやつに殺されるだろう。


計画は、俺が待ち合わせより30分早く店を出て、駅前の喫茶店に入り、

待ち合わせ時間とおりに駅に来たアリサに合流する手だ。


毎回、こんな面倒くさいことをしなければいけないのか?

と思いつつ、駅に姿を見せたアリサに俺はテンションMAXになった。


いつもふわっとしかしていなかった栗色の髪をくるくるに巻いて、

白いブラウスの首元には黒いリボン。チェックのチャコールのミニスカートは、

アリサにぴったりの洋服だった。


喫茶店を出る俺を見つけ笑顔になるアリサ。

よく見ると、背中にウサギの形を模したリュックを背負っている。


「コウくん、おはよう。このリュック覚えてる?」

「覚えてるよ」


それはアリサが幼いときから愛用しているキッズ用のリュックだった。


「子どもっぽいかなぁって思ったんだけど、

 コウくんとの思い出があるし……」


そういえば、アリサが小さい頃はそのリュックばっかり背負っていたっけ。

いじめっ子から取り返したこともあるウサギのリュック。


二人で微笑みあって改札に向かう。

まだ、手なんか繋げないけど。


今日は、本当に最高の一日になるはずだ。


そう、最高の……。




一日が、来るはずだった……。




日曜日の遊園地はさすがに人が多い。

誰か見知った顔がいないか、内心びくびくしていたが、

何よりアリサと出かけられる今が幸せでしょうがない。


ジェットコースターとか絶叫系マシンが苦手なのは、

知っているから、アリサの乗りたいものに乗ろうと言った。


アリサが恥ずかしそうに指差したのは、

「おとぎのラビリンス」

という、いかにも少女趣味が入ったようなアトラクションだった。


まぁ、鏡が張り巡らされたよくある迷宮系アトラクションだと思って、

館内に入る。


ひんやりとした空間にキノコのオブジェや動物の形の遊具がある。

迷路系のアトラクションか。

アリサと進んでいくと、急にエリアは薄暗くなった。


『ここからは一人ずつでお進みください』


そんな立て看板が、二つの道の中央に掲げられている。

「別々に進めってことかな?」


離れたくない、というようにアリサが俺のTシャツの端をぎゅっと握る。

アリサも手を握るのは、まだ恥ずかしいのかな。


「大丈夫」

俺は頷いてみせる。

アリサはおもむろに背中のリュックを外し俺の胸に押しつけた。


「出口で返して。約束のしるし」


「……わかった」


俺は笑顔でうなずくと、より暗い影を落としている道を歩き始めた。


アリサは動き出さない。不安そうな目でずっとこちらを見ている。

俺はそんなアリサの姿が見えなくなるまで、ひらひらと手をふった。


一人で歩き始めてから、別に子供だましのようなアトラクションの看板など無視すれば良かったのではないかと思い始める。


だけど、「約束」っていいよなぁ……。

恋人同士っぽい。


俺はウキウキと次の一歩を踏み出そうとした。

が、その一歩は中に浮いた。

そのまま体勢が崩れて、前に倒れていく。


穴だ。穴に落ちていく。


アリサに預けられたウサギのリュックを抱えて。


ダウン。

ダウン。

ダウン。


アミューズメントにしては、穴が深すぎないか?

これではどこまでも落ちていくみたいだ。




「フフフ、そうよ、堕ちてきなさい」




楽しそうに誰かが笑っている声がこだまする。

おかしいのはわかるおかしい。

穴が深すぎて、これでは高層階から落とされるようだ。



そしてそれは突然訪れた。

ダンッといった衝撃音と全身が打ちつけられる感覚。


痛みより何より浮かんだ言葉。


即死。




だけど死んでるならどうしてこう思考できるのだろう?






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