俺の彼女が悪魔なわけがない!

kirinboshi

第1話 アリサの告白1

「これ、渡してくれ!」


そう言われて、同級生からラブレターを預かったのは、もう、何度目だろう。

幼なじみのアリサはいつの間にか、学園のアイドルになっていた。


ふわりとした長い髪に大きな瞳。髪も瞳も栗色がかって、日本人離れした雰囲気がる。

そして透明感のある白い肌。人形のような白さではなく、ほんのり血色のよい、健康的な白さが内側から光っているようだ。


高校二年生になってますます、女らしくなったと俺も思う。

小さい頃は、ただの泣き虫のいじめられっ子だったのに。

俺がかばってやらなかったら、すぐにどこかで泣いていたのに。


アリサは学業優秀、運動も出来る(ちなみにバトミントン部)。

ちなみに入学当初は、チアリーディング部からも誘いがあったようだ。


「でも、目立つのは苦手だから……」


照れながら話すアリサだが、いやいや充分目立ってるっての!

その理由で芸能事務所の誘いも断ったのだから、自分にもっと自信を持っていいはずなのに、顔を赤らめるばかりだ。オーディションを受けに行ったのではない。下町の高校生にそんな声がかかるのは綺麗という評判が高いからだ。


俺は幼なじみで家が隣だという理由だけでアリサと仲が良い。

平凡な容姿(いや、それよりだいぶ不細工なのは自覚している)の俺は、誰からもアリサの恋愛対象だとは思われてないらしい。悲しいけど、認めざるをえない。


清楚で控えめな性格のアリサに憧れる男子は多く、

俺は、もっぱらラブレターの配達人だ。

直接、自分で渡せばいいのに、アリサのような清純派(古い言い方だが)に本気で好きになるやつはオクテな奴が多い。


そして、今日も託されたラブレターをアリサに渡した。

いつも一緒に帰っている帰宅途中の道だった。


この行為だけでも、何人の男子生徒に嫉妬されることか。

俺も同じバトミントン部での帰りだから、何も不自然なことではない。

家は隣同士で方角も一緒なのだ。

帰り道は危ないから送っているだけだ、と何度、説明させられたことか。


渡されたラブレターを赤面して受け取るアリサ。

確かに、可愛い。


俺も、その柔らかい髪や頬に触れたいと思う。

だけど、こんなブサ面じゃ釣り合わないよな……。

フラれた時が怖すぎて、俺は告白なんて出来ない。


「コウくん……」


俺の名前を呼んで、アリサが潤んだ瞳で見上げてくる。


「ん?どうした」


たまらなく可愛い、と思いつつ平静を装ってたずねる。


「コウくんは……なんとも思わないの?」

「え?」


アリサの大きな瞳から涙がボロボロっとこぼれる。

もしかして、今まで、ラブレターを渡されるのが迷惑だったのか?

そしたら、「やめて」と一言いってくれればいいのに。


混乱する俺に、真っ赤な顔のアリサが真剣に見つめてくる。

泣いていても可愛いなぁ、とのん気に考えてしまう俺。


「私、コウくんが好きなのに!」


アリサは、重大な告白をして、恥ずかしさのあまりか、

その場をダーッと走り去ってしまった。


後に、残された俺は、自分の頬をつねってみる。

嘘か?夢か?

つねった頬はマジで痛い。


現実か。


アリサが俺のことを?

信じられない気持ちと舞い上がっている自分を自覚する。

それは、午後六時の公園の鐘が鳴り響く、夕暮れの中だった。


トボトボと一人で歩いて帰り、家につく。

隣であるアリサの家を見た。

二階のアリサの部屋の電気は消えている。


先に家に帰りついたはずだろうが、大丈夫だろうか。


自室のベッドの上で、スマホからアリサに連絡を入れた。


1コール……

2コール……

3コール……


コール数を数えるごとに心拍数が上がっていく。


5コール目で彼女は出た。


「コウくん……?」


おずおずとした声。


「アリサ、俺も好きだよ」


そう告げると、電話口は黙ったままだ。


「あの……ね、コウくんと行きたいところあるんだ。

 遊園地」


アリサの言葉に俺は頷いた。

「うん、行こう。アリサとなら、どこだって行きたいよ」


ふふっとアリサが電話口で笑う声がした。

俺はこの日を忘れることはないだろう。

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