第12話 遊び星

 今日の星追い課の部屋には、星野と、膝に空を乗せたツキしかいない。


「ツキ、なんで俺を膝に乗せるの?」


「おや? 空くん、不満ですか?」


「ち、違う、けど.......」


「なら問題ないですねぇ.......星野ちゃんも来る?」


「ん!」


 星野がトコトコとやって来て、ツキの膝に乗る。


「いやぁ、仲良しって素晴らしいね!」


「空、仲良し」


「.......俺も、なかよし.......」


「ツキーーー!!」


 バタンと部屋の扉が開いて、課長が入ってくる。


「課長、お静かに! 今押収物のDVDを再生してるんですから!」


「押収物ーー!! あと子供に何てもの見せてるんだーー!!」


「なんでもこのアニメーション、エンディングが他とは違うらしいですよ? 画面から出てきて腕を掴まれるとか」


「ひっ」


 空がツキのシャツにしがみつく。


「怖がってるじゃないかああああ!!」


 パソコンから無理やりDVDを抜いた課長が走って戻ってきた時には、3人は課長の机で人生ゲームを始めていた。


「今! 勤務中! それ! 課長の机!」


「課長、お静かに! 今空くんの職業が決まるんですから!」


「空、ルーレット」


「.......うん」


 空がカラカラとルーレットを回して、駒を進める。


「おやぁ? 警察官とは、お揃いですねぇ!」


「空、一緒」


「.......一緒か」


 少しだけ笑ったた空の頭を長い指で撫でて、ツキが胡散臭く笑う。


「課長、ご要件は?」


「.......屋上に行け。星が落ちる」


「おやぁ? 星降りですか?」


「いや、1個だけだ。この間返したのがまだ早かった。網持って行ってこい」


「仕方がないですねぇ、行きますか。空くんも来てくださいね」


「お、俺も?」


「もちろんですよ」


 ロッカーから網を取り出して、ツキが空を片手で抱き抱える。


「わ、ツキ!」


「.......私も」


「おやおや! さすがに片腕で2人は難しいですねぇ」


「お、俺降りる!」


「残念ですが! 肩車で我慢してくださいね!」


 ツキは空を肩に乗せて、星野を抱えて屋上へ登る。

 階段を登っている間、固くなっていた空の力がだいぶ抜かた頃。


「おお、今日は雲がないから星が良く見えそうですねぇ」


「.......綺麗」


「ツ、ツキ。俺、降りた方が」


「大丈夫ですよ。僕は流れ星を捕まえるのが得意なんです」


 空が濃い紫から紺色に変わった時。

 りーーんっという音と一緒に、光が落ちる。


「ツキ、来た!」


「はいはい!」


 ツキが虫取り網をふって、星を捕まえる。

 星野が優しく瓶に入れて、そっと胸に抱く。


「な、なあ。ツキ、今のって、」


「ああ、ホタルですよ!」


「.......ホタル?」


「流れ星みたいでしょう? 空くん、網持ちます? 虫取りしましょうか」


 空と星野を下ろして、ツキが胡散臭く笑った。


「やっぱり鬼ごっこしましょう! 僕が鬼ですよ、さあ、逃げて!」


 星野がトコトコと走り出す。

 空が戸惑ってその場に立ちすくむ。


「はい、空くん鬼ー」


 ツキに肩を叩かれた空は、ビクリと震えた。


「あ、あ、」


「うーん。空くん」


「ご、ごめ」


「一緒に鬼ですよ。手を繋ぎましょうか、星野ちゃんは意外に足が速いですからねぇ」


 空の小さな手を取って、ツキがスタスタと歩き出す。

 しっかりと手を握って、星野を追いかける。

 それからずっと手を握って屋上で遊んで、すっかり星空が見えるようになった頃。


「空くん、星野ちゃん。帰ろうか、眠いね」


「うん」


「ツ、ツキ。俺.......」


「空くん、僕も星野ちゃんも、仲良しですよ」


「.......うん」


 ぎゅっとツキのシャツを握った空を、ツキが抱き抱える。


「今日は仮眠室に青木くんがいますよ? 楽しい夜になりそうです」


「空、一緒に寝よ」


「星野ちゃん、残念だけど今日は僕が空くんと寝るよ。ぎゅっとね!」


「お、俺と!?」


「もちろんです、なんなら青木くんも誘いますか?」


「.......いい。ツキと寝る」


 その後、仮眠室にいた青木が叫びながら外に出ていったのを見送って、ツキと空は一緒に寝た。

 ツキのシャツを握りしめて、涙を流して眠る空の顔を、ツキはじっと見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る