第13話 東京塔

 ある日の星追い課。


「星野ちゃん、空くん。ババ抜きの時は表情を変えちゃ負けちゃうよ」


「.......変えてない」


「俺だって」


「これは困った! やっぱりジェンガにしようか!」


 押収物のジェンガを課長の机に立てたツキの周りに、星野と空が集まる。


「ツキーー! 押収物ー! あと課長の机ー!」


「課長、お静かに! ジェンガは極度の集中を要しますからねぇ!」


「.......抜けた」


「俺も! おっちゃんもやる?」


「お、おっちゃん.......」


 ショックを受けた課長を尻目に、ツキがジェンガを引き抜いていく。


「ところで課長、課のみんなはどこへ?」


「星を返しに行ってる」


「そうですか」


 ツキは長い指でするりとジェンガを抜いて、タワーを睨む2人の頭を撫でた。


「課長、明日はですね」


「.......そうだな」


「僕達の明日の予定は?」


 課長は1度大きく息をすった。


「東京タワーだ」


「子連れデート、どうもありがとうございます」


 胡散臭い笑顔のツキは、長い指を顎に当てて唇を引き上げた。


「.......ツキ、デート?」


「俺も? 東京タワー?」


「そうだよ、やったね2人とも! きっと星が綺麗に見えるよ」


 ニヤニヤしだした2人を見ながら、ツキはジェンガを抜いた。


 次の日。相変わらずスーツのツキと、同じTシャツを来てきた星野と空。


「2人とも、似合ってるよ」


「.......可愛い」


「恥づかしいな.......」


 上機嫌の星野と、もじもじしている空。

 ツキは2人と一緒に、夕方の東京タワーに登る。


「.......綺麗」


「そうだねえ、空くんはどう? 楽しい?」


「うん」


 ぎゅっとツキのシャツを握った空は、じっと外を見ていた。


 1番上の展望台に着いて、ツキは係員に手帳を見せる。


「上へ行かせてくださいますか?」


「どうぞ」


 星野と空を連れて、かつんかつんと階段を上がっていく。外にでて、日が沈みかけて不思議な色合いになった空を見て。


「星野ちゃん、空くん」


 ツキは胡散臭く笑った。


「今夜はだね」


「.......ツキ?」


「さあ、鬼ごっこだ!」


 急に2人を抱えて走り出したツキは、長い足で階段を駆け上がる。上へ上へ、終わりのあるてっぺんへ。


 がぢん、がぢん。っと鉄が音を鳴らす。


 ツキが少し前に踏んだ場所を、黒い光が撃ち抜いていく。


「ツキ! 私がやる!」


「ごめんね星野ちゃん! 今はダメだよ!」


「ツキ! どうしたんだよ!」


「空くん、口閉じておいてね! べろ噛んじゃうから!」


 一気に階段を登り詰めて、そのまままた違う階段を登る。


「月、月、月を見つけた!!」


 下から男の声がする。明らかに正気では無い高笑いと共に、黒い光が打ち上がる。


「.......あと2階」


 小さく呟いたツキの顔は、真剣だった。


 次の階段を登り詰めた時、ツキの踵に黒い光がかする。


「.......あと1階」


 靴の踵が無くなっても、スピードを落とさず階段を登る。

 ふくらはぎに光が当たって、血が吹き出しても。

 2人を抱えて登りつめる。


「ツキ! 怪我!」


 星野が泣きそうな顔で叫ぶ。

 空は顔を青くして固まっている。


「.......あと半分」


 ぐっと踏み込んで階段を数段飛ばしてかけ登る。

 もう一度ふくらはぎの同じ場所に黒い光が当たって、ぐらりと揺らぐ。


「.......あと3歩」


 手すりで身体を支えて無理やり登りきる。

 そして、そのまま開けた場所を進んでいく。

 太い鉄骨の前まできて、2人を下ろす。


「.......3」


「ツキ! ツキ、どうしよう!」


「ツキ、血が.......」


 2人がぎゅっとツキのシャツを握る。


「.......2」


「あははははっ!! 月月月!!」


 男が階段の前に現れる。

 狂ったように笑う男と向かい合って、ツキは軽く拳を握る。


「.......1」


 黒い光が、放たれる。


 ぱんっ。


 ぱ、ぱんっ。


 星野が腕を降って黒い光を消し飛ばし、男が吹き飛んだ。

 赤い、飛沫を引きながら。


「ナイスだよ、青木くん、赤田ちゃん」


 静かに呟いたツキは、すっと拳を解いて。


 一気に振り向いた。

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