第4話異変

 「よくもさっきはバラそうとしてくれたな?」


「うぐぅ!」


立ち上がる事が出来ない俺に向かって腹を殴ってきた。

俺はあまりの威力に椅子ごと倒れて地面で蹲ってしまった。

…どういう事だ?校長は教師に向かって注意をしたはずじゃないのか?

俺は地面で蹲っている中その事を考えていた。


「何、よそ見してるんだよ!」


俺の頭を踏みつぶしてぐりぐりと足を動かし始めた。


「た、助けて…」


俺は小さい声ながらこの教室には届く声で助けを求めた。

しかし、誰1人と俺を助ける事をせずに自分の事をしていたり、友人と話したりしていた。


「何が、助けてだよ!お前なんかに助けが来るか!」


そいつは俺の頭を踏みつけるのをやめない。

それどころか俺の見えるところで鞄がズタズタに引きちぎっている。

俺はそれをやめさせるために立ち上がろうとするが椅子にずっとくっついてしまっていて身動きが取れなかった。


「もうすぐで、1限目が始まるか」


そう言うと、頭を踏みつけるのをやめて俺を椅子ごと立たせて何事も無かったかのように俺を直した。

俺は立たされた後すぐさま鞄を確認したがもうすでに直すのは無理な状態だった。


「お、おじいちゃんの鞄が…」


俺がそう言うとそいつはニヤリと笑いながら、


「そうか、おじいちゃんの鞄を破っちゃったのか。それは済まない事をしたな」


と全然反省していない口調で謝ってきた。

まるで、これからもいじめていく事を悟らせるように。


「おーい?もう授業が始まるから席つけよ?」


1限目の歴史の担任がやってきて、全員が席に座り始めた。


「じゃあな。また、楽しみにしとけよ」


そう言うとそいつも自分の席に座り始めた。

そして、この教室の生徒全員は何事も無かったかのように授業を受け始めた。


 「くそ!取れない」


俺は椅子から離れようと昨日と同じようにしてみるが離れる様子が全くなかった。

そして、昨日のように注意を受ける始末。

…こんなのおかしいだろ!昨日校長は何をしていたんだ!

その考えが歴史の授業中離れる事はなかった。


歴史の授業が終わった後、俺はトイレに行きたくなり、トイレに向かった。

未だに椅子が離れる事はなく、とても、歩きづらく

俺がトイレに入ると他の生徒におかしな目で見られて、笑い声も聞こえてきた。


俺がトイレを済ませて自分の席に着くと机には落書きがされており、使える状態になってはいなかった。


「何で、俺がこんな目に…」


俺は涙目になりながら机にあった落書きを拭き取った。

でも、美咲の事を考えればこんな事なんでもないように感じてくる。


「美咲はもっと酷いことをされているんだ!」


俺はそう呟き自分を取り戻した。

そして、今なら椅子を離せると思い、昨日と同じように椅子を蹴り飛ばして、接着剤を剥がした。

すると、見事にズボンの所が接着剤塗れとなって、

取り返しがつかないようになってしまった。

蹴り飛ばした音が大きかったのか俺の方にクラスが注目してくるが、今の俺にはなんとも思わなかった。


無視しかしない奴らなんかにいちいち構っていられるか!


このような気持ちしかなかったからだ。


 「……またやられてる」


俺はそのまま3限が終わり用があったので教室を離れたらまた机に落書きがされていた。


「…クスクス」


俺が机を拭こうとしたら笑い声が聞こえてきた。

それも、教室の中から。


「だ、誰が笑っているんだ?」


俺は周りを見渡し確かめると、何も接触した事のない女子生徒に笑われていた。


「まぁ、おかしいけど、そんな奴らだからな。このクラスは」


そうと思い、机を拭こうとする。

すると、机を拭こうとしたら教科書が少し出ている事に気づき、終おうとした。


「!?、なんだこれ?」


そこには、教科書が水で濡れていて少しでも開こうとするなら破けそうな状態であった。

俺は焦り、教科書全てを確認するが案の定全て濡らされていた。


「おい!ここまでされているのを分かっていてお前らは全員声をかけなかったのか!」


俺はここにいる奴らにうるさいと思わせるぐらいの声で叫んだ。


「何言ってるの?ガチすぎて笑えてくるんだけど」


「は?」


俺が信じられない態度に唖然していると、


「なら、俺達がもっと笑わしてやるよ!」


と俺をいじめてくる主犯グループが水の入ったバケツを思いっきり俺にぶち撒けた。


「ギャハハハハハハハ!」


俺が水浸しになっているのを見て、主犯グループと女子生徒は笑った。

そうすると、だんだんと笑う生徒が増えてきて、いつの間にか大爆笑になっていた。

その中には笑えていなくて焦っている奴もいたが、結局無視するだけだった。


「お前ら、いい加減にしろよ」


俺は俯きながらにそう言う。


「え?なんだって?」


主犯グループは耳を傾けながらふざけた押して面白おかしくして、俺をバカにしてきた。

俺はもうこいつらには何も言えないなと思い椅子に座り何事もなかったかのように振る舞った。


「おいおい?怖気付いたのかよ?結局口だけ野郎だったな」

「本当、だっさいわ!」


そいつらがそう言っても俺は何も言い返さなかった。

そして、数学の教師がやってきて4限の授業が始まった。


 「おい!さっさと購買行かないとパンが売り切れちまうぞ!」

「ちょっと待ってくれよ!早すぎるだろ!」


4限の数学の授業が終わり昼休みに突入した。

クラスの男子達は昼休みになった途端購買へ行くためにクラスを出て行った。

俺はと言っても昨日と同じように母が用意してくれた弁当を机の上に出すだけだった。


「悟君、また一緒に食べよ?」


「いいよ。分かった」


俺は昨日も同じように現れた美咲と一緒に弁当を食べるためにこの教室を出て行き、後ろをついて行った。

あいにく、奴らは今は興味がないのかこちらに注目をしていなかった。


教室を出て、美咲の後を追いかけて行ったら、学校の中庭へとは向かっておらず生徒棟とは真逆の管理棟へと向かって行った。

そして、どんどんと階を上がって行って、薄気味悪くなってくる。

ここ、管理棟4階は授業の準備のため教師が荷物を運んだり、片付けたりする場所であった。

…確かに昨日と同じ場所だとつまらないよな。

そう思いながら美咲を追いかけていく。

すると、1番奥に着いたら美咲がこちらを振り向いてくる。


「悟君。ここに連れてきたのはあるものを見て欲しいからなんだよ」


「あるもの?」


俺は首を傾げながら聞き直すと美咲は自分のスマホを取り出してある映像を見せた。


「なんだよ、これ?」


俺がそこで見たのは俺の尻に椅子がくっついてトイレに向かって行き、そして小を済ませていた映像であった。

俺が驚いていると美咲は落ち着いた声で話した。


「これは昼休みにあげられたものだと思う。私のクラスだともう話題になってた。」


「でも、これってそんな簡単に広まるのか?」


「うん。ネットだから。しかもこれが学校のホームページに貼り付けられていたの」


「ホームページ?!じゃ、じゃあ早く消さないと…」


「それが無理なの。これを上げた本人に消させないと。悟君は誰が上げたか分かる?」


「トイレに入ってた人は大体覚えているけど…」


俺はここでおかしい事に気づく。

椅子に接着剤をつけた奴らはトイレに入っておらずしかも、そいつらは俺の机に落書きをしていた。

こんな事を出来る時間がないのだ。


「もしかしたら、共犯者がいるかも知れない」


「え?」


突然の俺の発言により美咲は呆気を取られた顔をしていた。

そのため、俺は美咲に向かってあらかた今日午前中に起こった事を話した。


「ま、待って。そんな酷い事されてるの?」


「そうだよ。でも、美咲がされた事を考えればこんな事…」


「全然私より酷いよ。水を上からかぶせられるなんて…何で?校長先生の話は届いていないのかな?」


「そこなんだよ。だから、今日もう1回行ってくる。それで、この事を終わらせる」


俺は美咲の目を見ながらそう言った。


「分かった。私もこの映像を見せたりして何か役に立つよ」


「ありがとう」


俺達はそのような会話を済ませて昼食である弁当を食べるようにした。

俺の弁当はいつもと変わらないが美咲のは昨日とは変わっていた。

話を聞けば母親を亡くしてからずっと自分で作っているらしい。

なんとも出来てる人だと思った。


 昼休みのチャイムが鳴り俺達は管理棟を降りて行き、そこから生徒棟へと帰って行った。

美咲との別れを告げてそれぞれの教室へと入り席に着こうとする。


「これって…?」


俺の机の上には今度は生ゴミが大量に置いてあった。

俺は奴らを見てみるがこちらには注目しておらずあの時一緒になっていじめていた女子生徒がこちらを見て笑っている。


「今度はそっちかよ」


俺はため息をしてから生ゴミを窓の外に投げ捨てた。

投げ捨てて地面にぶつかった時に音が鳴ってクラスの全員がこちらを注目したが、俺は無視をし続けた。

辺りからこそこそ話が聞こえてくるがなんとも思うことはなかった。

…全員同罪だからな。

と思いながら授業が始まるまで待った。


 そして、その日の全ての授業が終わった。

俺は校長室に行くためにいち早くこの教室から出ようとするが、やはり奴らが邪魔をしてくる。


「おい?どこに行くの?」


「お前らには関係のない事だ」


「ちょっと待ってよ。俺達は今お金が無いんだよね。てことで今持ってるお金を全部頂戴?」


「ふざけんな!お前らには渡す金なんかねぇよ!」


俺はそう言いそいつを蹴飛ばし、倒そうとした。

だが、そいつは俺の足を掴み逆に俺を投げ倒した。

そして、ジリジリと近寄ってくる。


「俺達に歯向かうとかそれ分かってるの?………オラァ!」


「うぐっ!」


俺はそこから集団で殴られ続けて地面に頭をぶつけ続けた。

抵抗をするが人数が多すぎて何もすることが出来なかった。

俺が殴られ続けている中、ズタズタの鞄を奪い取り、その中の財布を持って行ってしまった。


「じゃあね。今日はありがとう」


俺は痣や顔から血を流して教室を出て行こうとした。

それでも、クラスの生徒はなんとも思わないようで、すたこらさっさと帰って行った。


「………」


俺は怒りと共に教室を出て、美咲と一緒に校長室へと向かって行った。


 「すいません。校長先生。話があるんですけど…」


「え〜と、確か君は佐野川さんだったね。どうかしましたか?」


「昨日先生達に注意をしていただけましたか?」


「あ!ごめん、ごめん。忘れていたよ」


「何が忘れていたですか…」


「え?どうしたんだい?え〜と、鳴上君」


「俺は貴方を信用して担任に助けを求めたのに貴方のその軽はずみな行動のせいで、さらに悪質ないじめを受けたんですよ」


「ふざけるのもいい加減にしてください!生徒の命よりも仕事の方が優先なんですか?校長でありながら!」


俺は怒りをここで全てぶちまけた。

すると俺の迫力に驚いたのか、すぐさま校長は頭を下げてきた。


「済まなかった。私の軽率な判断で」


「そんな謝罪はいらないんですよ!教員の指導をしっかりとしてくださいって事を言っているんです。そして、いじめた奴らにも。昨日言いましたよね?全ての情報を!」


校長の白々しい態度で俺の怒りは収まらなかった。

興奮する俺を引き止める美咲が隣で頑張っている。


「分かった。分かったから、落ち着いてくれ」


「悟君そうだよ。今は落ち着こう、ね?」


俺は2人の言葉で落ち着きを取り戻し、再び校長に駆け寄る。


「じゃあ、お願いしますね」


「あぁ、分かった。任せておいてくれ」


校長の返答が聞けたところで俺達は校長室を出て行った。

美咲はすぐ様帰ろうとする。

しかし、俺は歩く事をしない。

そして、校長室に耳をつけて中の校長の言葉を聞こうとしていた。


「何やってるの?」


俺は耳をつけながら、


「おかしいとは思わないか?昨日あんだけ言っておいたのに対策を何もしないなんて」


「確かにおかしいね。何か裏があるのかも」


「そうだよな…ちょっと待って」


俺は校長室の中の声が聞こえてきた事に気付いた。

静かに耳を澄ませると一言一言聞こえてくる。


『誰が対策なんてするかよ。いじめなんて自分らで解決しとけって。………。ふふっ、かわいそうに、信じているのに何も無いなんてな。さてと、この映像を見してお父様からお金を貰おうと』


「………」


「どう、何か聞こえた?」


「………」


「ねぇ、どうしたの?ていうか私を置いてかないで!」


俺は何も考える事が出来ず、ただひたすらに歩いていき、学校の外へ向かって行った。


 「ねぇ、本当にどうしたの?ずっと下を向いて歩いていくなんて」


「…腐ってる」


「え?」


「この学校は腐っているんだよ!あの野郎やっぱり対策も何もしていなかった」


「そ、そんな。てことは私達の意見は何も通っていなかったの?」


「あぁ、しかもおそらく俺達の映像を見して、金を貰おうとしてた。多分、自分の仕事ぶりを評価してもらえるのだろうな」


「そんな事って…」


美咲は声も出ていなかった。

よろよろと体がふらついて地面に倒れ込んでしまい、俯いていた。


「こ、これからどうしよう?」


「もう。俺は決めている。何をするか」


「え?どんな事をするの?」


「この学校の腐ってる生徒、教員、そして校長の人生を潰してやる。もう生きるのがつらいと思わせるほど」


…そんなに有名になってるなら今ここからなってやる。


ドS王子に


俺がそう言うと美咲は心配そうな顔で、


「そんな事をして大丈夫なの?その後悟君はどうなっちゃうの?」


と聞いてくる。


「分からない。その後どうなるかは。

けど、この学校は狂ってる。絶対に潰してやる!」


俺は沈みかけている夕日に向かってそう宣言した。










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