第3話放課後

 「やめろぉぉぉぉ!」


俺は教室に飛び込み美咲といじめていた女子生徒の間に入った。

俺の声に驚いたのか女子生徒は体をビクッと動かし、その場から離れた。

しかし、俺の存在に気付いたのか俺達を囲むように立っている。

美咲は倒れていて、俺は座り込みながら手を広げていたので女子生徒に見下されている状態であった。


「何?君?私達今、この子と遊んでたんだけど」


「何が遊んでいるだ!ただいじめてただけだろう!」


俺は大声を出して威嚇するように言う。

しかし、それを女子生徒は鼻で笑った。


「何?正義の味方?そんなの古臭いからやめた方が良いよ」


「そうだよ。て言うか君この子が好きなの?」


「お、俺はこの子と付き合っているんだ!彼氏としてこんな事見逃せるか!」


「へぇ。付き合ってるんだ」


女子生徒の1人がこの言葉を聞いた時ニヤリも口を緩ませた。

まるで俺も標的に入れてやると言わんばかりの顔で。


「まぁ、今日は見逃してやるよ。ほら、行くよ」


「え?」


その女子生徒の取り巻きが驚いた顔で声を出す。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


そう言うと取り巻き達は慌ててその女子生徒について行った。


 「大丈夫?」


俺がそう声をかけると美咲は顔を起き上がらせて、


「大丈夫。ありがとう」


と言った。


美咲の制服を見てみると、埃や教室のゴミなどがついており、足には切り傷がつけられていた。


「その足…」


俺がそう呟くと、美咲は慌てて足を隠した。

でも、俺は手を払い除け足を見る。


「これって今日つけられたの?」


俺は真剣な眼差しで言う。

そうすると美咲は顔を附しながら言った。


「きょ、今日のもあるけど殆どが毎日つけられて積み重なったものなの。足ならバレないだろうって」


「そんな事を毎日されているのか」


俺はそう言うと、美咲の鞄などを拾い上げ埃を払ってやって美咲に渡した。

美咲はそれを手に取ると立ち上がり俺のズボンを見た。


「なにこれ?」


「あぁ、椅子に接着剤がつけられてて無理やり剥がしたらこうなっちゃったんだよ」


「それにしてもこれはあまりにも酷すぎるよ!制服だって何万円として高いのに…」


「大丈夫だよ。それよりも足に傷をつける方が酷い。あいつらは普通に犯罪をしたんだ」


俺はそう言うと美咲の手を取り、歩いて行った。

美咲は突然の事で驚いて俺に聞いてくる。


「ど、どこに行くの?」


「決まってるだろ。職員室だよ!」


そう言い俺は職員室に向かった。

職員室でする事はこの事を教員に話し、いじめた奴らに謝罪をさせる事だった。


 俺達は職員室に静かに入り美咲の担任の教師の元へ向かった。

その教師はパソコンで仕事をしており、いかにも忙しそうであった。

それを物語っているかのようにカタカタと言うパソコンの音がずっと職員室の中で鳴っていた。


「先生。お忙しい時にすいませんが話を聞いてもらえないでしょうか?」


「どうしたんですか?」


そう言うとパソコンから手を離し、俺達の方へ体の向きを変えた。


「実は私達虐められているんです!」


美咲がそれを言うとその担任の教師は笑って、


「そんなバカな事はあるか!お前は仲良くやってたじゃないか!」


と言う。

その態度をおかしいと思った俺は美咲の後に続いて話す。


「いや、本当のことなんです!美咲は足にも傷をつけられていてそれが毎日起こっているんです!」


「そうです!悟君も椅子に接着剤をつけられててズボンが大変なことになっているんです!」


美咲がそう言い俺は教師に向けてズボンの尻の部分を見した。

すると、乾いた声で、


「いや、君の担任ではないからそれはどうしようもない。もし、相談がしたいなら君の担任か生徒指導の先生の元へ向かってくれ」


と俺に向けて話した。

そして、俺に話し終わったら今度は美咲に目線を変える。


「佐野川さんも普段からはそうは見えないぞ。自分でそう言っていつもつるんでいる子を陥れたいんだけじゃないのか?」


「ち、違います!もう、耐えられないんです!だんだんいじめがエスカレートしてきて…」


俺は美咲の反応に痛まれなくなった。


「いや、これを見てまだ本当だと思わないんですか!これだけやられているのに!」


俺は美咲の足を見せて本当のことだと証明をした。

しかし、それを無視して生徒指導の元へ向かってくれと言われ追い出されてしまった。


それを見ているはずの他の教師も無視しており、完全に関係のないムードを作っていた。


俺は苛立ちを覚えて美咲を連れて生徒指導の教師の元へ向かった。


 「すいません。話を聞いて欲しいんですが?」


いつも通りに美咲が生徒指導室に入り俺もそれについて行った。

生徒指導の教師も自分の仕事をしており、パソコンと向き合っていた。

そして、俺達が生徒指導の教師の目の前に向かうとようやくパソコンから手を離し、向かい合った。


「どうしたんですか?」


と言う質問があり、俺はすぐさま自分のズボンと美咲の足を見せて、


「俺達、いじめられているんです!」


と話した。

すると生徒指導の教師はため息を吐きめんどくさそうに手帳を取り出してメモを取り始めた。


「で?いついじめられたの?」


「それが毎日で…」


「なるほど毎日ね。そこの君はいつから?」


「今日いじめられたんです」


「今日ね」


その生徒指導の教師は適当に情報を書いており、俺はその態度があり得なく思い、


「生徒指導の先生がそんな適当でどうするんですか!いじめですよ!いじめ!普通もっと熱心に聞いたりするでしょう!」


と話すと、俺を睨みつけてきた。


「あのね、君。私だって忙しいの。登下校の叱りの電話に対応したり、素行の悪い生徒がやった事を謝りにいかないといけないの。こんな、いじめに付き合ってあげていることに感謝しなさい」


「貴方は何を言っているんですか?生徒の命が関わるかも知れないんですよ!ちゃんと対応してくださいよ!」


「あぁ、はいはい。そう言う熱苦しいのはいらないから」


と軽く話を蹴られて俺の意見は通らなかった。

そのままの調子で情報を書き込んでいき、書き終わったら生徒指導室から出て行かされて、俺達が出て行った後は心地の良い顔をして帰って行った。


「こんなのおかしいだろ!」


「ダメだよ。ここは職員室からも近いから怒られちゃうよ…」


美咲は俺を諭すように落ち着かせる。

しかし、俺の怒りは治らなかった。

そして、俺はこの場で思う存分叫んでやった。


「先生は生徒をどうでも良いと思っているのか!これだけの証拠があるってのに!」


「悟君。もう良いよ。今日は帰ろう?」


美咲は俺の制服を引っ張りながら顔を傾かせる。


「いや、まだだ。まだ行っていないところがある。そこに行っていじめと教師の態度を言ってやる!」


「ま、まだやるの?私はもう良いよ。気持ちだけで良いから」


そう言う美咲の手を引っ張りどんどんと奥へ進んでいった。

美咲は慌てながら聞く。


「何処に行くの?」


「決まっている。校長室だ!」


 校長室

字を読んでごとく、学校の長の部屋。

そこは職員室をつっきり右に曲がったところにある。

扉は黒く年が経っている事が分かるほどであった。

俺は今そこの前に美咲と一緒にいる。


「俺達の叫びを聞いてもらおう」


俺は美咲の手を離し、一緒に校長室の中に入っていく。


「失礼します」


「生徒が何のようだね?」


見ると校長はあまり歳は取ってなさそうだが40歳は超えているだろう。

壁には歴代の校長の写真が飾られており100年前の写真もあった。

校長はパソコンを使って作業をしており、いかにも忙しそうな様子であり、こちらを向いてはいない。


「俺達、いじめられているんです!」


俺がそう言うと校長の顔がピクッと動き、そしてパソコンを見ていた顔はこちらを向くようになった。


「いじめと言ったか」


こちらを睨んでいる目に怯えそうになるが俺も負けじと睨み返す。


「はい。いじめです。証拠もあります」


そう言った俺はズボンの尻の部分を見せて美咲は足を見せた。

校長は俺達に近寄ってきてズボンと足の部分を確認した。


「君達はこんな事をされているのか。担任や生徒指導の所には行かなかったのか?」


「行ったんです。でも、話を真面目に聞いてはくれず、話を蹴られました」


俺がそう言うと校長は頭を抱えて俯いてしまった。


「そうか。済まななかった。君達の声を真面目に聞かない教師で」


「はい。そこは今も苛立っていますが、校長が分かってくれれば全然良いです。それと、担任と生徒指導には厳重注意をお願いします」


「分かった。私からしっかりと言っておこう」


そう言った校長は自分の机に戻って行き、手帳を取り出した。


「では、ここからどうやっていじめにあったのか聞いて行こう。教えてくれないか?」


俺はしっかりと対応してくれる事に喜びを感じて、1から10事細かにいじめの事について話した。

美咲もその次に話して、いじめの情報を渡した。


「ありがとう。つらいと思うが丁寧に教えてくれて」


「いえ、ちゃんと対応してくれれば良い事ですから」


「分かった。いじめた本人や君達の担任、生徒指導には私から言っておこう」


「ありがとうございます」


そう言うと、俺達は校長室の外へと出て行った。


 そして、俺達は学校の外へと出て行き、美咲と話し合った。


「やったな。これからはいじめられなくて済むぞ!」


「うん。ありがとね。気の弱い私のためにこんなにしてくれて」


「いや、俺は正しい事をしたまでだよ。命は1番大切なものだからな。もし、美咲がいじめで死んでしまったらご両親も悲しむだろう?」


「う、うん。そうだね」


俺は普通に聞いたつもりだったが美咲は顔を俯かせてまるで顔を見せないようにしていた。


「ど、どうしたの?もしかして何か悪いことでもしちゃった?」


「いや、ちょっと昔にね」


「何かあったの?」


「うん…私両親がもういないの。お父さんは私が生まれる前に死んじゃってお母さんは私が中学生の時に過労の病気で死んじゃったの」


「それはごめん。俺、何も事情も知らないのに」


俺はそう謝るが美咲は屈託のない笑顔を見せてきた。


「大丈夫だよ。私はこの通り元気だし」


そう言うと美咲は両腕を肩の上で上下させていかにも元気と言うのをアピールしてきた。

俺はその光景があまりにもおかしくて笑ってしまった。


「ちょっと何笑ってるのよ!何か私がおかしい人みたいじゃない!」


「ごめん、ごめん。でも、本当におかしくて…」


俺がそのまま笑っていると美咲も俺に釣られて笑い始めた。

そして、互いが笑い終わった後家に帰って行った。


……これでいじめは終わる。そして、新たな高校生活が始まっていくんだ!


帰りながらそう思っていたがそれはただの願望に過ぎないだけでこれからは現実に叩きのめされていく事をまだこの時の俺は気付いていなかった。


 朝6時

今日の目覚めは昨日に比べて比較にならないほど良かった。

心の奥底にあったものが一気になくなり気分が晴れている。


…これからの高校生活を楽しもう!


そう思いながら学校へ行く準備をしていた。

そして、朝食を食べ終わり、制服を着て、玄関で靴を履いて勢いよく出る。

今日の天気はあいにく曇りだったが俺の心は晴れているので何とも思わなかった。


電車、徒歩で移動し学校へ着いた。

生徒玄関を通り抜けて教室へと向かっていく。


教室では陽キャ達が喋っていて、昨日と変わりようがなかった。

俺はそのままいつも通りに席に向かい椅子に腰を下ろす。


「ベチャ!」


俺は昨日と同じ音がして椅子を触って確かめてみた。

手には昨日と同じような感触が残っている。


「せ、接着剤?」


俺はそこから急いで立ち上がろうとするがもう手遅れだった。

昨日と同じように椅子をガタガタ揺らせて離そうとするが動かない。


「そんな事をしても剥がれないよ」


俺は見上げると昨日同じ事をした奴らがまた接着剤を持って笑っていた。


「ど、どうしてこんな事をするんだ!俺は何もやっていないだろう!」


「いや、今日木下さんが休みじゃん?もしかしたらお前が何かしたんじゃないのかなって思ったんだよね」


「俺はそんな事をしていない!何処に証拠があるんだ!」


「いや、念のためって言うじゃん?だからやったんだよ」


「それでも、これはや…」


俺がそのまま話そうとしたら胸ぐらを掴んでくる。


「うるさいんだよ。ぐちぐちと喋りやがって」


そう言うと胸ぐらを離して突き飛ばした。

あいにく倒れなかったがもうちょっとで倒れそうになった。


「これから、木下さんに何かあったと思ったらこうやってしていくからな」


そう言ってそいつらは先に座りに行った。

でも、俺は勝ち誇っていた。

なぜなら昨日で校長にこの事を伝えておいたから。

まだ、生徒に指導が行き回っていないだろうけど、教師はもう校長からの指導が来ているだろう。

その思いで担任が来るのを待った。


接着剤の椅子に座り続けて10分、担任がホームルームの為教室にやってきた。

俺はこのチャンスを逃してはいけないと思い、大きく声に出した。


「先生!僕今、いじめられています!」


その時クラス中が俺の方に注目した。

その中にはいじめた奴らまで向いており焦った顔をしていた。

しかし、担任は俺の予想とはまるで逆の言葉をかけてきた。


「そんなのは遊びだろう。仲良くやれよ」


「は?」


それが第一に思った感想であった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る