第2話初日
午前6時、俺は目が覚めた。
未だかつてこれほど睡眠の質が悪かった事があるのか?と思うほど寝つきが悪く、全然疲れも取れていないし、リフレッシュにもなっていなかった。
階段を降りる足が重くあからさまに学校に行くのを嫌がっていた。
「はぁ、行きたくない」
それを呟き学校へ行く準備をし始めた。
朝食を食べ終わり制服に着替えて靴を履いて玄関を開ける。
外を見るとどしゃ降りの雨でさらに気分が悪くなった。
「なんで俺は昔から不運が続くんだろうな?」
そう言い自分の運の無さを改めて再確認した。
学校までは電車1時間、徒歩30分をかけて向かっていく。
電車に乗る時は音楽を聴いて楽しく向かうはずなんだがちっとも楽しくない。気分も晴れない。歩いていたとしてもリフレッシュにもならない。
「今日は学校をサボろうかな」
そう思うが俺が親の反対を押し切り無理にでもいかせてもらっているのでサボるなんて事は出来なかった。
そのまま何も考える事なく学校に到着してしまった。
「学校では陰キャ。あだ名のせいで友達は1人、いやもういなくなった。昨日で」
これだともう夢に見た青春も出来ないな。
そう思い学校に入り、靴を変えて、教室に入った。
「ハッハハハハ!それでよ!」
「そうなのか?お前それはやばいだろ!」
「それよりもさ。今日さぼらない?」
「いいねぇ」
クラスに入った途端陽キャ達の話し声が聞こえてくる。いつもだったら全然気にならないのに今はとても気になってしまう。
いつも通りに席に座るといつも通りで何も起こらなかった。
「良かった。雄星はまだばらしていないんだな」
俺はそう呟き胸を撫で下ろす。
あんな事がバレたらいじられて、虐めに繋がるのがオチだ。
だから、いつも通りにいつも通りに生活をして行こう。こんなのは慣れてるからな。
そして、今日という1日がチャイムと同時に始まった。
1限目数学
数学は別に得意でも苦手でもない。
ただ、グループになって話し合いがあるから嫌なだけだ。
それ以外だったら全然いい。
「ここはこうなるんじゃないかな?」
「いや、でもそうなるとここがおかしくなっちゃうし…」
「うーん。分からないなぁ」
「そうだ!悟君はどう思う?」
「え?」
俺に話しかけて来たのは学級委員長の木下さんだった。よくみんなをまとめてくれてクラスからの評判がいい人だ。
そして、木下さんが好きな人がたくさんいるらしい。
確かにこんなに人当たりが良かったらそうなるわな。
「……るくん。悟君?どうしたの?悟君?」
木下さんは俺を覗き込むように聞き、心配してくれている。
「どうしたの?体調が悪いの?」
「あ、いや、なんでもないよ。これも僕はわからないなぁ」
考えている時にはなしかけないで欲しい。まぁ、最初に聞いたのは木下さんだけど。
そのまま俺は場を流し、その後は一言も喋る事なく数学が終わった。
「はぁ。どうしても気分が上がらない。せっかく女子と話したってのに」
数学が終わり、机の上でこう呟く。
次の時間は科学で科学実験室への移動があった。
移動するために科学の準備をして向かおうとして教室を出る時に雄星と目があった。
「雄星!」
俺は小さい声で睨みながら言う。
雄星は笑いながら、通り過ぎていく。
俺は雄星に何をしたのか分からなかった。何も恨まれることをしていないのに。
もし、俺をいじめて楽しむのなら……
「悟君?やっぱり体調悪いの?」
「え?」
俺の後ろには木下さんがいてまた俺の心配をしてくれた。
不覚にも今木下さんが可愛いと思ってしまった。
「だって朝からちょっとおかしいし、何かあったの?」
「いや、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
俺は木下さんから逃げるように教室を出て科学準備室へ向かった。
……また逃げた。
それしか考える事が出来なかった。
心配する声も嘘をついて誤魔化し、逃げるなんて最低だな。
これでまた俺の悪評が広まるな。
そして、科学実験室につき自分の席に座る。
それから間も無くして授業が始まった。
この実験室は後ろが見にくくなっているからスマホを触りまくっている女子生徒がおり、はっきり言って鬱陶しかった。
「見つかれば良いのに…」
そう口に出す。
だが、俺の口からそれを言うことでも無いので俺は授業に集中した。
俺は科学は得意な方で好きでもあった。
理屈が通って現象が起きる。今の社会に必要なのに全く無い物だ。
俺はここで昨日のことを思い出す。
「あんな事全然理屈が通っていないのに道楽で勝手なことをする。あり得ないな」
またもそう呟く。
それは心の不安定さを物語っていた。
そして、科学の授業も終わりクラスの全員が教室へ戻ろうとする。
「ねぇ?悟君?本当に大丈夫?」
俺の後ろから木下さんが心配そうな顔で話しかけてくる。
ここまでしてもらうと申し訳がないなと言う気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫ですよ。心配ありがとうございます」
「何か、悩んでいる事があったら私が相談に乗ろうか?」
「いや、そんな事良いよ。別に悩んでないし」
「そう。なら良いけど」
俺は今1人にして欲しかった。
またも木下さんから逃げるように教室へと歩いて行った。
「今日はどうですか?ドS王子?」
「………」
雄星が教室に帰る途中に話しかけて来たが無視をして通り過ぎた。
「楽しそうでいいね。悟」
「………」
こいつとは話をしたくない。
それしか考える事が出来ず、歩いていく。
雄星は振り返り、俺の方を見る。
「あ、そうそう。ちゃんと付き合っているんだから、無視しちゃダメだよ」
それを言った雄星は再度振り返り、歩いて行った。
……付き合っているか。確かにな。でも、あれは脅迫まがいの事だ。
ドM王女。可哀想なあだ名をつけられたな。
俺は教室へ戻り、その後の授業も受けた。
その後3、4限目の授業が終わり昼休みに入った。
昼休みは親が作ってくれた弁当を食べた。
4限目は体育があり、お腹が減っていたのですんなり入った。
俺は弁当を食べているとクラスが騒ぎ始めて教室の端を見始めた。
俺も何かと思い見ていると昨日俺に告白をしたドM王女こと佐野川美咲が現れた。
そして、食べている俺に近寄ってくる。
「あ、あのぉ。私と一緒にお弁当食べませんか?」
と突然の誘いがあった。
断る必要もないので俺は快く受け入れて佐野川美咲について行った。
ついて行っているとクラスからの話し声が聞こえた。
「うあぁ。ドS王子がドM王女と付き合ってるよ」
「本当だね。どうやって告白したんだろう。」
「でも、まぁ。ドS王子の告白を受け入れたドM王女もどうかと思うけど」
などなど嬉しく思っている話ではなかった。
まず、告ったのはドM王女と言うことをとても話したかった。
だが、話すのも隠キャで無理なので無視して教室を出て行った。
佐野川美咲について行くと外庭に着いた。
外庭には設置されている机と椅子があり俺達はそこに座った。
しかし、お互い話したことがないので気まずい雰囲気が流れる。
ここで、俺は気まずい雰囲気を変えようと話題を持ちかける。
「「あの?」」
すると、お互いの声が重なり合った。
美咲も同じ事を考えていたのだろう。
「あ!すいません。そちらからどうぞ」
美咲は手を差し出しながら言う。
「じゃ、じゃあ1つだけいいですか?」
「はい」
「そのドM王女って誰から付けられたんですか?どう考えても嬉しいあだ名ではないと思うんですけど」
「これは同じクラスの女子と松門さんに付けられたものです。私、いじめられても何も言い返せないのでそれが多分嬉しいのだと勘違いされたんだと思います」
「まさか雄星がここまでしているとは…」
俺は雄星がここまでしている事に少し気味悪く感じた。
昨日の事からも考えておそらく仕組んだ事だと思うけど。
「すいません。あと1つだけ聞いても良いですか?」
「はい。良いですよ」
「昨日自分の返事を聞いた時美咲さんは酷い顔だってんですけど、もしかして嫌だったんじゃないのかなって…」
「そ、そんな事は無いですよ。私としても突然だった事なので驚いちゃって」
「そうだったんですか。自分からは以上なので美咲さんが聞きたい事はありますか?」
「じゃあ、1つだけ。貴方もドS王子って言うあだ名が付けられていますけどどう言う由来なんですか?噂によれば貴方は喧嘩しかしてないとかなんとか言われてますけど」
「あぁ、それね。それは…」
『キーンコーンカーンコーン!キーンコーンカーンコーン!』
俺が話そうとした時に学校のベルが鳴り響いて昼休みが終わった。
「鳴っちゃいましたね。これはまたいつか教えてください」
そう言った美咲は学校の中へ入って行った。
俺も後を追うかのように学校へと入って行って教室へと向かった。
教室へと向かっている途中は他の生徒が叫んでいたりまだ昼休みが抜けていない感じだった。
けどその生徒は先生に注意をされて静かになる。
それを見ていてもやはり青春しているなとしか感じなかったが。
俺が教室に帰ると俺の方には全く見向きもせずに授業の準備をしたり、スマホを触ったりしていた。
さっきの空気を引きずるかと思ったがそうでもなかった。
そして、俺が椅子に座った途端おかしな音が聞こえた。
椅子から立ち上がろうとすると動けない。椅子の端を触ってみるとネチョネチョしており次第に乾燥していき指の皮膚を覆った。
俺はこの感触をよく覚えている。
昔工作でよく使った瞬間接着剤であった。
俺は力を踏ん張るが立ち上がれなくなり、そのまま授業をする事となった。
制服のズボンが椅子から離れ無い状態がどれだけ続いたのだろうか?
授業が始まってどうにかして離れようとするが離れることが出来ない。
逆にカタカタと音をたてて先生に注意をもらってしまった。
その時俺はクラスを見回した。
俺の席は後ろの端なので見回すのは簡単であった。
「あいつらか?」
俺が視線を送る先には接着剤を持った男子生徒がこちらに手を振ってくる。
それを見ている者も自分は関係が無いと言わんばかりに無視してくる。
「どうなっているんだ?」
それが第一に思った事だった。
他の人は無視して、接着剤を持った奴らは笑ってこっちを見てくる。
…どれだけ腐っているんだ
と思いながらも今は授業に集中する事にした。
その後授業は進んでいき最後の授業まで終わった。
俺は下校時間になった瞬間、思いっきり椅子蹴飛ばした。
俺は体が柔らかかったので足を曲げて本気で蹴ることが出来た。
椅子は後ろのロッカーに当たり大きな音をたてた。
その音にみんなびっくりしたのか一瞬で静かになった。
しかし、その静寂の中から声が聞こえてくる。
「あーあ。やっちゃったか。面白いと思ったんだけどなぁ」
「そうだな」
と話ながら俺の方に近づいてくる2人組が話す。
そして俺は見下されているようになっている。
「やっぱりお前らだったのか」
「当たり前じゃん。あれだけ分かりやすいようにしてあげたのに気づかなかったわけ?」
「気づいてはいた。でも、そんな事はするはずがないと思っていた」
「君は人を疑う事をしないんだね。本当にドS王子なの?」
ポケットに手を入れながら話してくる。
「そんなわけないじゃん。言われてただけじゃないの?」
もう1人が否定をしてくる。
俺は何も言えずに黙って下を向いていた。
「まぁ、そんなどころだと思うけど、なんで俺達がこんな事をしたと思う?」
「分からない」
「君が木下さんを無視し続けるからだよ。俺達がどれだけやっても振り向かないのに君にだけは振り向くでしょ?それがうざいし、腹が立ってくるんだよね」
「は?」
「まぁ、君がそう思うのも仕方が無いと思う。けどしょうがない事なんだよ。分かってくれ」
「………」
「あ、後。今後木下さんと話していたら俺達がもっと酷いことをしちゃうからね。それだけは覚えておいて。じゃあね」
その2人組は俺は手を振りながら帰って行った。
これでもクラスの人は自分は関係ないオーラを出している。
そして、どんどんとこの教室から出て行った。
すると、いつの間にか1人で地面に座っており時間の経過を短く感じさせた。
「とりあえず、部活へ行こう」
そう思った俺は接着剤塗れになった制服を払いながら立ち上がりフラフラと歩いていき教室を出た。
廊下を歩いていると隣のクラスから笑い声が聞こえる。
歩きながら教室の中を覗いてみるとそこには美咲が女子生徒に囲まれていじめられている姿があった。
意識がふわふわしている俺であってもその状況は見逃さずに叫んで止めに入って行った。
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