第22話 ディスラプターワールド
拓也の周りに新しい風景が広がった・・
「ここは……? 教室……?」
そこは拓也の高校のクラスだった。授業の間と思われる時間で先生も居ない。突然、周りから聴こえていたザワメキが止まった。
拓也が教室の入口を見ると遥が入って来る所だった。彼女は一瞥をして、教室の奥に歩き始める。そしてあの時と同じ様に拓也の机の前で止まった。
拓也が見上げると、遥が大きな目で彼を見ている。
「坂本拓也君。私は中澤遥」
「好きです。私と付き合ってください。お願いします」
遥が頭を下げる。
「今日、デートしましょう。駅前のカフェで放課後待ってるから、必ず来てね」
遥はそう言うと走って教室を出て行った。
(これはあの時のシーン……。これは……何が……?)
再び拓也の周りの風景が暗転し新たな風景が現れる。
ここは、ホテルか……? 目の前に遥が座っている。
遥は再び大きな目で拓也を見つめていた。
「私の中にThreeが居るの。あなたもTwoを持っているんでしょう……?」
「遥、君は……? Threeを持っている? 俺のTwoを知っている……? 君は何者?」
「私は中澤遥よ。でも私自身も自分が誰なのか少し分からなくなっているの。貴方と同じ様に……」
「俺はこの謎を解く鍵を知っている。ディスラプターチャレンジ、ゲームの中だ……」
再び暗転が始まる。ここはホテルの屋上か……? ヘリコプターが目の前だ。
「遥、左の席に座って!」
拓也が叫ぶのを聞いて、遥はヘリの前方を廻り、左のドアを開けて左席に座った。
ドアを閉めると、同時に拓也が右席に乗り込んだ。
「シートベルトをして」
遥がシートベルトをしていると、前方の西非常階段のドアから武装した2名の男が飛び出して来た。
「遥、捕まるんだ!!」
拓也は左手のコレクティブレバーを持ち上げヘリをホテルの屋上から離陸させた。ラダーペダルの左側を押して、サイクリックステックを左に傾けながら、前に押した。ヘリは、上昇しながら左に旋回し、銃を構えた男たちの頭上を超えて、高さ120メートルのホテルの屋上から横浜湾の上空に出た。
再び暗転が始まる。
次に拓也に見えたのは安曇電気のゲームR&D棟の中だ。
ディスラプターチャレンジの開発者中井が話している。
「ディスラプターチャレンジの6つのワールドの内、1つは一部がオープンソースで造られていると言う事だ。ただ、そこはシークレットエリアになっていて、そのエリアに入る方法も特別で、まだ、そのエリアに入ったゲーマーは誰も居ない。何か隠されているとしたらそのエリアかも知れない」
「そのオープンソースのエリアはどこのワールドに有るんですか?」
「オープンソースのシークレットエリアが組み込まれているのは……『ファンタジーワールド』だ」
再び暗転する。
拓也と遥がオスプレイから降りると、ビルが二人の軍人に挟まれて立っていた。
ビルが右手を伸ばした。
「拓也、そして遥。初めまして。僕はウィリアム・シュナイダー。ビルと呼んで欲しい。君達に逢えるのを楽しみにしてた」
拓也はビルと名乗ったその若い男と握手をした。その後ビルは遥とも握手をする。
「そして、僕はOne。ようこそグアムへ。Two、そしてThree」
再び暗転する。
次はディスラプタープレインの中だった。安曇忠明が説明している。
「ファンタジーワールドの『あるエリア』にOneから取り出したソースコードで構成した世界を織り込んだ。シークレットエリアとしてな。そして、ゲームの中のシークレットエリアには未だ誰も入れていない。私達もシークレットエリアに君達が入る事で、どんな事実が明らかになるのか想像も出来ない。また結果として私達の世界を壊すどんな事が起きるのかも不明だ」
「シークレットエリアに入る為には、究極のバーチャルリアリティ環境が必要で、それが実現できないと弾き出されてしまう。シークレットエリアの構成は宇宙だ。つまり宇宙空間での加速度の模擬が必要だ。ゼログラビティも含め……。つまり君達は高度400キロの軌道上、つまり宇宙で、シークレットエリアにチャレンジしてもらう」
再び暗転が始まる。
ファルコンヘビーの司令船の中だ……。
「全自動システム準備完了。ファルコンヘビー打上げシーケンスへ」
「T—13 エンジン始動シーケンス」
「10」
「全システム準備完了」
「8,7」
「メインエンジンスタート」
「5、4、3、2、1、0」
「リフトオフ」
物凄い加速度が拓也達を宇宙へ運ぶ。
再び暗転する。
コクーンⅢの格納ベイのモニターに安曇忠明が映っている。
「高速通信がリンクした様だな。君達、宇宙へようこそ。どうだね気分は?」
「素晴らしい経験です。初めての無重量もワクワクします」拓也が答えた。
「真っ青な地球も最高だったよね」遥が横から割り込んだ。
「さあ、君達。コクーンⅢに着席してゲームの準備に入ってくれ」
ビルがそう促すと拓也と遥は頷いた。そして拓也が二番目のコクーンⅢに、遥が三番目のコクーンⅢに入った。前を見るとビルが一番目のコクーンⅢに乗り込む所だった。
「それじゃ、ファンタジーワールドへ入るよ。準備をして」
ビルの声と共に、目の前に見えていたコクーンⅢの格納ベイが暗転した。
次に拓也の前に現れたのは……。
「あれ、またコクーンⅢの格納ベイだ……。これで元の世界に戻った……のか……?」
拓也はハッと思って横を見た。ここがシークレットエリアなら、遥が床に倒れている筈……。
しかし床には何も無い。拓也は胸を撫で下ろして、コクーンⅢから降りた。
そして前後のコクーンを覗く。しかし、ビルも遥もそこには居ない……。
「どう言う事だ……? ここは現実か? ゲームの中なのか?」
拓也が考えていると格納ベイのモニターの電源が突然ONとなった。そこに安曇忠明が映っていた。
「どうした拓也君? 突然、シークレットエリアを中止したのは何故だ?」
忠明がビックリした様な顔を覗かせている。
「安曇さん。申し訳ありません。途中で抜けてしまい……。ビルと遥が先にゲームオーバーになったので、一度、リスタートしようと思ってゲームを抜けたんです……」
忠明が首を傾げている。
「拓也君。君は最初から一人でシークレットエリアをチャレンジしていたぞ。誰だ、そのビル君と遥君とは?」
拓也は愕然とした。ここは現実では無いのか……?
「拓也君。シークレットエリアはクリア直前だ。早く戻ってシークレットエリアを完了させるんだ。そうすればこの世界を
拓也は忠明のその言葉に驚愕した。
「安曇さん。シークレットエリアをクリアすると何が起こるかは誰も分からないと仰っていましたよね? 世界を
忠明が画面の向こうで大きく首を振った。
「そうだな……。新たにプログラムがアップデートされたので、私はそれを知っている事になっている。この世界は君が第二の脳と一緒にトレーニングをする為に造られたバーチャルワールドだ。君はこのバーチャルワールドで更にゲームの世界に入って第二の脳の訓練をしていたのだ」
「えっ?」拓也は愕然としていた。
「君も既に知っている様に、現実の世界では人類絶滅の脅威が迫っている。それを解決する為に君が造られ、君をサポートする為に私達の世界が造られたんだ」
「えっ? それじゃ、シークレットエリアは……?」
「そうだ、今、君がチャレンジしているシークレットエリアこそ現実の世界だ」
拓也は呆然としていた。シークレットエリアが現実だとすると……、ビルと遥の死も現実って事なのか……?
忠明が更に続ける。
「シークレットエリアを完了させる事で、私達の世界は目的を終え破壊される。私も役目を終えやっと休めるという事だ……。拓也君、早く、シークレットエリアへ戻ってくれ」
拓也はコクーンⅢの格納ベイを見渡した。これは現実世界で無くて
混乱していた。もう何が現実で、何が
拓也はゲームのメニュー画面を開くジェスチャーを行ってみた。
驚いた事にメニュー画面が現れた。
「まさか・・?」
拓也は恐る恐る、ゲーム終了のボタンを選択してみた。
再び風景が暗転する。
そして拓也は、再びコクーンⅢの中に戻った自分に気付いた。
左側の床を見ると遥が倒れている……。
拓也は大きく首を振った。
「これが……現実だって!? 俺は認めない!」
拓也はコクーンⅢのシートから降りると、床に倒れた遥を見て、少し考えていた。そして思い立った様に頷くと、遥を抱え立ち上がった。
拓也は司令船から後部格納庫の出口に向った。そして廊下に出ると中央格納庫に向かう。
中央格納庫ではデルタ2とデルタ3がブラックホールの磁気拘束機を保持していた。
壁面の中央格納庫制御パネルに取り付くとタイマーでデルタ二機及び磁気拘束機の保持解除と格納庫の減圧、格納庫ハッチ開放の指示を行う。
そのまま、遥を抱えてデルタ3のコックピットに跳び上がった。そして遥を抱えたままデルタ3のコックピットに乗り込むと搭乗ハッチを閉じた。
拓也が各機の状況を確認すると、デルタ2の縮退炉は100パーセントで出力を出していたが、デルタ3の縮退炉は20パーセントの出力しか出していない。。
デルタの拘束が自動で解除され、中央格納庫の与圧が下がっていく。
そして減圧が終了し、格納庫のハッチが外向きに開放していく。
拓也はデルタ3を操縦して、デルタ2、ブラックホール磁気拘束機と共にペガサスの外に出た。
ペガサスの重力圏を離れると亜光速に向けて加速しているペガサスがあっという間に離れていった。
拓也は360度スクリーンの表示を見た。現在の地球との相対速度は光速の38パーセント、地球から一億二千万キロ離れた位置だった。
拓也はデルタ3の縮退炉の出力を全力運転に上げた。そして地球に向けたコース設定を行った。まずは減速を行う。
デルタ3の縮退炉の余剰出力を活かし4490Gで減速する。光速の38パーセントから43分を掛けて減速を終了した。そこは地球から2億7千万キロ離れた位置だった。
「それじゃ、遥。地球に帰ろう……。ゲームオーバーにして最初からもう一回やり直すんだ」拓也は抱えた遥に声を掛けた。
拓也はデルタ二機とブラックホールを封じ込めた磁気拘束機と一緒に地球に向けて再加速を開始した。
4490Gでの加速が開始された。地球への到達時間は58分と出ている。
拓也は引き続き加速を続けた。
地球まであと3分、速度が光速の50パーセントを超えて
突然、デルタ3の無線が鳴った。
「拓也! デルタ2と3は地球への衝突コースに乗っている。コースを修正するんだ!!」
その声はペガサスプロジェクトのダイレクター、スティーブだ。
「大丈夫です。ブラックホールも一緒ですから、地球を巻き込んで確実にゲームオーバーです」拓也は淡々と応えた。
「何だと!? 磁気拘束機を抱えて戻って来たのか!?」
「悪く思わないで下さい。ゲームオーバーの道連れです。大丈夫、次は失敗しませんから……」
管制室の混乱が伝わって来る。
『あと2分です』『デルタの二機の縮退炉とブラックホールが光速の55パーセントで衝突します』『磁気拘束は地殻との接触で破壊され、マイクロブラックホールの速度と重力で地球は完全に破壊されます』『デルタの制御を早くこちらに移すんだ!!』
拓也が360度スクリーンを見ると衝突まであと30秒だった。
デルタ3の制御が地球側に移った事が表示される。しかし、もう衝突を回避するには遅すぎた。
衝突の二秒前、月が後方に流れていくのが見えた。
そして拓也が真っ青の地球の姿を見た瞬間、デルタ3は光速の55パーセントで地球に衝突した。
地球はマイクロブラックホールが亜光速で核を突き抜けた事により完全に破壊された。
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