第18話 飛行要塞ドマーロ

 二人は風の塔から飛び出すと風の里の上空に浮かぶ、大きな星型の飛行要塞ドマーロを目指した。下から見ると星形だったその姿は、ドマーロの高度を超えて、更に上空から見下ろすと、星形のベースの上に城塞の様ないくつかの建物が見える。

「あの中に四つの厄獣の一つ、ド・クザが居るのね?」

 遥が拓也に尋ねる。

「そう。でも、ド・グザが居るのは要塞の深部、神殿の迷路を抜けて、トリックを解いていくつかの敵を倒してやっと到達出来るんだ。簡単には討伐出来ない……」

 遥は(そうでしょうね)と思いながらも、次に待っている試練にワクワクしていた。


 飛行要塞の後部の平地に二人は着地した。目の前に高さ十メートルはあるだろう両開きの黒いドアが聳え立っている。その前に高さ一メートルくらいの円柱操作パネルが置かれていた。

 拓也はその前に立つと風のおさから貰った魔法の鍵を鍵穴に差し込んだ。するとメニューが自動的に目の前に展開され、クレジットの支払が要求された。

「えっ? 魔法の鍵だけでなく、お金も支払うの?」

 遥がビックリした様に叫んだ。

「このゲームは何でもクレジットの支払いが必要だ。まあ、裏技で限界のクレジットを持っている俺達には関係ないけどね……。八百万クレジットの支払いを……」

 と拓也が言うとクレジット支払いボタンを押した。

 その瞬間、前方の大きな両開きのドアが内側に開いて行った。

「遥、それじゃ、行こうか!」

「ええ、頑張りましょう!!」

 遥は頷いて拓也に続いた。


 ドアを抜けると、前回ミドラル平原の上空で聞こえた電子音の音楽が鳴り始めた。

「拓也、この音は……確か……」

「ああ、レーザー砲台がこちらにロックオンした音だ。遥、俺の指示するタイミングで飛び上がるんだ、1、2、今だ!!」

 二人が上空に飛び上がると、足元で大きな爆発が起こった。

「このままじゃ前進出来ないから、砲台を破壊する」

 拓也はそう言うと左上の建物の上から彼等を狙っていた砲台を見つけると、物凄い勢いで砲台の前に飛び出した。そして弓を取り出すと、砲台のレーザー口に弓を撃ち込んだ。

 砲台が痺れた様に、一時的に動きを止める。

 拓也が背中に背負った両手剣を両手に持つと回転しながら、その砲台を高速で多段打撃した。砲台が煙を上げて沈黙し、そして爆発した。

 拓也のメニューが自動で開き、1050のクレジットが拓也の財布に加算される。

「拓也、凄い。一発で倒したね」拓也の横に並んだ遥が言った。

 拓也が頷きながら遥に説明してくれる。

「この世界の敵は全て、目、若しくは顔を弓で撃ち抜くと一時的に動きを止める。その間に攻撃して仕留めるのが基本的な戦術だ」

「そうか、色んなTipsがあるのね。勉強になるわ……」

「それと遥は、魔法族だから、様々な魔法を使える筈だよ。敵の動きを止めたり……、バリアを張ったり、ヒットポイントを回復させたり。要塞の中で、助けてもらう事が沢山あると思う」

「そうか、私、結構、凄いんだ……」


 二人が砲台の設置されていた下を進んでいくと、小さなドアが真正面と右と左に三つある。

「どのドアに入れば良いの?」

「うーん、どれでも良いけど、右のドアのルートが簡単かな……」

「分かった、それじゃ右のドアで……」

 そのドアを開けると下に降りる階段が続いている。二人はその階段をユックリ降りて行った。その階段は真っ直ぐ続くとても長い物だった。

 百段は降りただろう。やっと階段を降りきると、そこは奥行き幅とも五十メートルはある広い部屋だった。ただし見渡しても何も無い。出口も無いように見える。

 二人の後方で、今、降りてきた階段に続くドアが自動的に閉じた。

「そっちにはもう戻れない。前進するしかないんだ」

 ドアが閉まったのを呆然と見つめている遥を見て拓也が言った。

「でも前進って言ったって、どこにも出口は無さそうだけど……」

 遥が拓也に問いかけると

「まあ、直ぐにイベントが起きるから待って……」

 拓也がそう言った瞬間、突然、部屋に声が響いた。

『おぬしらは誰だ?』

 遥は周りを見渡したがやはり誰も居ない。

「拓也と遥だ。飛行要塞ドマーロに巣食う厄獣ド・クザを倒しに来た」

『ふん、おぬしらが……。まあ良い。まずはその実力を確認させて貰うぞ。話はその後じゃ』

 遥が拓也を見る。

「拓也、実力の確認って?」

「うん? ああ、まずは最初の敵が出てくる。そいつを倒すという事だね。俺達は二人だから相手も二体出て来る」


 次の瞬間、部屋の中央の床が左右に割れて開いていった。そして機械音と共に、そこに二体の敵が移動する床に乗って上昇して来た。その姿は?

「あれは、ケンタウロス? でも顔は人間じゃなくてライオンみたいだけど……」

 遥が呟いた様に、そこに現れたのは馬の様な四本足の身体で前脚の上に人間の上半身を載せて、頭はライオンの様なたてがみを持った化物ビーストだった。両腕に巨大な剣を持っている。

「遥。奴はル・ネイラ。非常にスピードが早い強敵だ。しかし奴を倒さないと次に進めない。あの両手剣に注意するんだ。一気にヒットポイントが減ってしまう」

 そう拓也が言った瞬間、前方に居た二体のル・ネイラが消えた。そして突然、遥と拓也の前に現れた。ル・ネイラが高速で剣を振り下ろした。遥はその剣の攻撃をモロに受けてしまった。

 そのまま、遥は後ろの壁まで弾き飛ばされ、物凄い勢いで壁に叩き付けられた。背中が痛い。遥のヒットポイントが一気に五つ減少した。遥が顔を上げると、拓也は空中に飛び上がり、もう一体の攻撃を避けた様だ。

 そして、遥を攻撃したル・ネイラが再び遥に襲い掛かる。再び、遥は強烈な打撃を受けた。壁とル・ネイラの間に挟まれ、打撃を多段で受ける。

 遥のヒットポイントがみるみる減っていく。

 その時、ル・ネイラが攻撃を止め、右上方を見ると左側方にジャンプした。そこに拓也が剣を持って斬り込んで来た。

「遥、メニューを開くんだ。君の魔法能力を確認して、それを最大限活かした戦いをするんだ」

 遥は頷いて立ち上がるとメニューを開き、魔法メニューを捲った。

「こんな魔法があるんだ……。『リカバー』『フリーズ』『プロテクト』……。他にもいくつかあるけど、まずは『リカバー』を……」

 遥が『リカバー』のメニューを選択すると、三つになっていたヒットポイントが一気にマックスの二十五まで回復した。

 拓也がもう一体と戦う為、遥の前を離れる。

 再び、ル・ネイラが遥へ高速で向かって来た。

 遥は『プロテクト』を選択する。ル・ネイラの打撃が再び遥を襲うが、遥の周りに発光するオレンジ色の球体が現れル・ネイラの攻撃を弾き飛ばした。

「凄い……」

 遥はそのまま『フリーズ』を選択した。

 目の前にターゲットスコープが現れる。ル・ネイラをターゲットの中心に入れ再び『フリーズ』を選択すると、ル・ネイラは時間が止まった様にその場で静止した。画面の右上にカウントダウンが出ている。

「そうか、『フリーズ』で敵を十秒間静止させる事が出来るのね。それじゃ……」

 遥はメニューから武装を開き両手剣を選択した。その剣を回転しながら静止しているル・ネイラの身体に八回程ヒットさせた。

 カウントダウンが終了し、ル・ネイラが動き出した。奴のヒットポイントは三割程度に下がっている。

「よし、もう一回フリーズさせれば……」

 遥はそう考えて魔法メニューをもう一度開いた。

「えっ? 『フリーズ』が選択できない」

 ル・ネイラが再び高速で遥に近付いて来る。

「それじゃ、『プロテクト』。えっ? これも??」

 ル・ネイラの攻撃を再びモロに受けた遥は二十メートル程跳ね飛ばされた。ヒットポイントが再び五つ減った。

「遥! 魔法メニューは1回に三つしか使えない。使い終わったら五分待つと次の魔法メニューが使える。今は、魔法無しで戦うんだ!!」

 右の方から拓也の声が聞こえた。

(そんな事言ったって知らないんだから、仕方無いでしょう!!)

 遥がそれを声に出す前に再びル・ネイラが遥に襲い掛かった。

(なんて速さなの!! でも!)

 遥はその場から飛び上がって、寸前でル・ネイラの攻撃をかわした。

 そして武装メニューから弓矢を開き、目の前に現れたターゲットスコープで照準をル・ネイラの後頭部に合わせ、弓を射った。

 弓が後頭部に当たったル・ネイラはその場で痺れた様に動かなくなった。

(そうよ、頭に弓を当てると動きを止められるって拓也が言ってた……)

 遥はもう一度、武装メニューを開き、魔法使いの槍を選択した。

 それを持って高い位置から一気にル・ネイラの首に槍を突き立てた。

 着地した瞬間、武装を剣に変更してル・ネイラの腹部を三回斬りつける。

 結果、ル・ネイラのヒットポイントがゼロとなり、大きな雄叫びを上げるとル・ネイラがその場に倒れ、そして消滅した。

 拓也の方も、もう一体を倒した様だ。


「遥、大丈夫だったかい?」

 拓也が遥の所に飛んで来て心配そうに言った。

「大丈夫じゃないわよ! もう少し必要な情報を事前に教えておいてよね!!」

「ごめんごめん、闘いが始まる前に説明する時間が取れなかったね……。申し訳ない」

 遥は「フン」と言って怒って見せたが、まあ勝ったのだから良いかと思い直していた。

 突然、先程と同じ声が聴こえた。

 『おおー おぬしらは見かけによらない実力の持ち主という事だな。分かった。それでは、厄獣の巣食う要塞の中心部への道を開こう……。期待しておるぞ……』

 その瞬間、二人が立っていた部屋の床全体が音を立てて下降し始めた。

「えっ?」遥が驚いて周りを見渡した。

「この部屋の下に要塞の中心に繋がる通路が有るんだ」拓也が呟いた。


 三十メートルは下がっただろうか、床の下降が突然止まった。

 周りは真っ暗で何も見えない。壁に光っている場所が二箇所、見えるだけだ。

「遥、あの光っている所に同時に矢を打ち込むんだ。俺が左、君が右を」

 遥は頷いて武装メニューから矢を選択した。

「良いかい、3、2、1……」拓也の合図に合わせ弓を光っている右の壁に打ち込んだ。

 その瞬間、部屋の照明が点灯し、やっと部屋の構造が分かる様になった。

 その部屋は先程ル・ネイラと闘った部屋よりは狭い部屋だった。目の前に閉じられた両開きの扉があり、左右の壁に隣の部屋に繋がる開放されたドアがある。

「厄獣は、あの両開きのドアの奥に居るけど、あのドアには鍵が掛っているから、鍵を探して来なければいけない。鍵の場所はランダムだから、遥は右のドアから、俺は左のドアからその先に進んで鍵が入った宝箱を見つけたら、ここに戻って来るんだ」

 拓也がそう説明してくれた。

「分かったけど、この先、どんな敵がいる?」

 遥は先程のル・ネイラとの戦いを思い出して、拓也にそう聞いた。

「色んな敵が居るけど、それよりいくつかの謎を解いて鍵の部屋まで到達しなければいけない。その謎を解くのが簡単じゃない。頑張って。それじゃ」

 そう言って拓也は左のドアに飛んで行ってしまった。

「もう、拓也! もう少し説明してよ!!」

 左のドアに向かった拓也に叫んだが、拓也はそれを無視して左のドアの中に消えてしまった。

「まったく、いつもこうなんだから……」

 そう呟きながら遥は右のドアに向かって行った。

 遥が入ったドアの奥には真っ直ぐな廊下が続いていた。それを二十メートル程進むと、右に曲がり更に少し進むと、突然幅百メートル、奥行き二百メートル程度はありそうな大きな部屋に出た。

 突然、レーザー砲台がロックオンした電子音の音楽が鳴り始めた。

 遥は左右を見渡したが、何処にもレーザー砲台が見えない。

 しかし一番奥からレーザーの赤い光がこちらに向かって来る。そのスピードは尋常出なく、遥はレーザーの爆発にモロに巻き込まれてしまった。

 身体が大きく飛ばされる。ヒットポイントが八も減った。

 そして奥から何かが近づいて来る。今までのレーザー砲台は固定式だったが、その砲台は四つの車輪を持っており自由に動けるものだった。

 更にレーザーの二射目が遥を襲う。寸前でそれを避けた。

 遥は飛び上がると、こちらに向かって来ていた移動砲台に近づいた。次のレーザー射撃の前に砲台の動きを止めるつもりだった。

 魔法メニューを開くと『フリーズ』を選んだ。目の前にターゲットスコープが現れる。レーザー砲台をターゲットの中心に入れ、もう一度『フリーズ』を選択した。

 が、その瞬間砲台が超高速で左方向へ移動してしまい、『フリーズ』のターゲットにレーザー砲台を入れる事が出来なかった。

「もう! チョコマカ動くな!!」

 その動きは早く、ターゲットを絞る事が出来ない。逆にレーザー砲台が次の射撃を行った。

「あっ! 『プロテクト』!!」

 そう言って遥は魔法メニューの『プロテクト』を選択した。すると遥の周りに発光するオレンジ色の球体が現れレーザーの攻撃を弾き飛ばした。

 そのままレーザー砲台に『フリーズ』の照準を当てる。今度は静止させる事が出来た。

 武装メニューから両手剣を取り出し、レーザー砲台に取り付くと、回転しながら数回両手剣で攻撃を加えた。そしてそのままレーザーの砲塔に弓を射った。

 レーザー砲台のヒットポイントがゼロになり。レーザー砲台は爆発して消滅した。

「でも、この部屋から、どうやって出れば良いの……?」

 遥は敵を倒したものの、部屋の出口を見つける事が出来ないでいた。

 その時、遥はレーザー砲台が消滅した後に、光る何かが落ちているのを見つけた。

 近づいてみるとそれは長さ十センチくらい、手に握れる径の銀色の六角柱だった。

 遥はそれを拾い上げると暫しその六角柱を見つめていた。そして何かを思いついた様に、部屋の片側の壁に向かって飛んだ。そのまま壁際に沿って飛んでいき、ある場所で何かを見つけ止まった。

 そこには合計で十個の六角形の穴が開いていた。

 穴の横にスクリーンが有り何かの文字が表示されている。

『ミドラル王国にある里の数は?』

「うん? これってなぞなぞ? でも簡単すぎだけど……。水の里、火山の里、砂漠の里、風の里の四つだよね。で、四番目の穴にこの六角柱を入れれば良いの……?」

 遥は首を傾げながら六角柱を四番目の穴に挿入してみた。

 直ぐにスクリーンに『正解、もう一問』と表示され、挿入した六角柱がユックリ表面に出て来た。それを遥がもう一度手に取ると、次の質問が表示された。

『ディスラプターチャレンジのワールドの数は?』

「えっ? これは覚えてないな……。最初に行ったのがスポーツ。テニスをしたよね。その次がサスペンス。長野の殺人事件を解いた。三つ目がレース。鈴鹿で優勝したよね。四つ目がウォー。日本軍と一緒に戦った。そして五つ目がファンタジー、ここでしょ……。そうかスペースを飛ばしたって言ってたから六つよね」

 遥は六角柱を六番目の穴に挿入した。

『正解』

 そう表示されると今まで完全に一体だと思っていた壁に上下に線が入ると左右にユックリ開き部屋の出口が現れた。

「拓也は多くの謎を解く必要があるって言ってたわよね……。つまり次の部屋にも謎があるって事ね……」

 遥はそう呟きながらその出口を出た。そこは再び長い廊下になっていて先の部屋は見通せない。廊下は右へ二回、左へ一回曲がって、次の部屋に続くドアに到着した。

 遥がそのドアを開けて中に入ると……。

「えっ?」


 その部屋の中には拓也が居て遥に手を振っている。

 遥は周りを見渡して、ここは拓也と別れた部屋だという事に気づいた。

「拓也、どう言う事? 私、まだ謎を一つしか解いて無いけど?」

 遥が首を傾げながら拓也に聞いた。拓也は手に持った大きな鍵を見せながら遥に言った。

「俺が左側の部屋の中で四つの謎を解いて、この鍵をゲットしたのさ。だから遥側の謎解きは強制終了されて元の部屋に戻ったんだ」

「なんだ、それだったら最初から拓也に任せれば良かったって事?」

 遥は口を尖らせて少し怒ってみせる。

「ごめん、そうだったかもしれないね。でも、次は厄獣ド・クザとの戦いだから、二人で力を合わせないと勝てない……」

「分かったわ。とにかく先に進むしか無いのよね……」

 拓也は頷くと遥を連れて、その部屋の中央にあるドアに向かったそのドアにある大きな鍵穴に拓也が入手した鍵を差し込むと、大きな音と共にドアが内側に開いて行った。

 ドアが開くと長い上りの階段が続いていた。拓也と遥はその階段を登っていった。そして階段を登り切った先は要塞の外に続いていた。外に出るとそこは広い競技場の様な場所だった。でも、一見、敵の姿は見えない……。


 突然、競技場の中央に旋風が発生し、徐々に巨大な竜巻になった。そしてその中から全高二十メートルはありそうな巨大なバケモノが現れた。

 三角の黄色い顔に赤い巨大な一つ目。右手には巨大な剣に、左手は巨大な弓矢になっている。身体は硬い青色の鎧で覆われ、足は無く空中に浮いている。

「あれが厄獣ド・クザさ。両手の武器は攻撃を受けたら一瞬でヒットポイントが半分は減ってしまう。そして更に厄介なのが……」

 そう拓也が言った時、ド・クザの背中から複数の何かが飛び出した。

「あれはファンネルさ。合計で五つある。あのファンネルにはレーザー砲が搭載されていて、威力はレーザー砲台と同じだ。あれが縦横無尽に飛び回って上空から攻撃してくる」

 遥は赤色のファンネルを見つめた。あれ一つ一つがレーザー砲台と同じ威力だとするとこれは相当厄介だ。

「俺はド・クザ本体と戦う。遥は飛び回っているファンネルを落としてくれ。ファンネルの攻撃力は凄いが防御力は高く無い。弓矢で撃ち落とす事が出来る。良いかい?」

 拓也がド・クザを見つめながらそう言った。遥が大きく頷く。


 その瞬間、ド・クザの攻撃が始まった。右手の弓から巨大な矢が二人のいる場所に撃ち込まれた。物凄いスピードだ。二人は辛うじてその弓矢の攻撃を躱した。

 拓也はそのままド・クザ本体に向った。遥は飛び上がりファンネルの一つに向かう。複数のファンネルが遙にレーザーを放つ。遥は急激に飛行経路を捻じ曲げてそのレーザーを避けた。一つ目のファンネルに弓矢で狙いをつける。弓矢を引き絞って放った。しかしファンネルは軽々と遥の攻撃を躱した。

「ダメ……。フリーズで止めて……。でもフリーズは一回しか使えないから五つのファンネルを全て止められない……。どうすれば……?」

 そう言っている間に五つのファンネルが遥を同時に狙った。レーザーが多軸で交わり遥に回避するエリアを失わせる。遥はその一つのレーザーを真面に浴びて地面に叩き付けられた。ヒットポイントがあっという間に残り三つになる。遥は『リカバー』を使いヒットポイントを回復させた。でももう『リカバー』は使えない。

 しかし遥は気付いた事があった。ファンネルは攻撃する瞬間、空中に一瞬停止するんだ。ここを狙えば弓矢を撃ち込む事が出来るかも……。

 もう一度遥は空中に飛び上がった。出来るだけ上下左右にマニューバーして複数のファンネルの攻撃を一度に受けない様に飛び回る。一機のファンネルに狙いを付けて、敢えてその前に飛び込む。ファンネルが停止しレーザー砲を撃とうとした。その瞬間、遥は弓矢でそのファンネルを撃ち落とす事に成功した。

「あと四つ」


 拓也も苦戦をしていた。両手の巨大な武器が絶え間なく拓也を狙っており、攻撃の隙間が全くなかった。再び右手の巨大な弓矢が放たれた。拓也がそれを間一髪躱すと、躱した場所に巨大な剣が振り下ろされる。それも寸前で躱した拓也はその一瞬をついて弓矢をド・クザの顔面に撃ち込んだ。ド・クザが一瞬たじろぎ固まった。攻撃メニューから両手剣を選び回転しながらド・クザに斬り込む。やっとド・クザのヒットポイントが三割程減った。


 遥は同じ要領で最後のファンネルを倒していた。下を見ると拓也がド・クザに襲われ苦戦している。遥はド・クザの頭部に後方から弓矢を撃ち込んだ。ド・クザが再び固まった。そこに二人で剣を斬り込んだ。

 ド・クザのヒットポイントが約半分になる。遥は拓也の横に着地すると拓也にウィンクした。

「ファンネルは全て倒したわ……。本体の方もヒットポイントあと半分ね……」

「でも、第二形態が始まるから簡単じゃない……」

 拓也がそう呟いたのを聞いて遥がド・クザを見ると、ド・クザは雄叫びを上げ両手を拡げた。突然ド・クザの周りに球状の赤い膜の様なものが現れた。

「あれが第二形態。バリアを張ったまま攻撃してくる。こちらの飛び道具がまったく効かなくなってしまうんだ」

「何ですって??」

「でも遥が居れば方法はある。遥の『プロテクト』で同様のバリアを張って、高速で奴のバリアにぶつかるんだ。それで一定時間奴のバリアを解除出来る。そしてそのまま『フリーズ』で奴を止めてくれ。俺がその隙を突いて攻撃をする」

 拓也の作戦を遥は理解して頷いた。

「それじゃ、『プロテクト』。行くわよ!!」

 遥はそう言うと自分の周辺に『プロテクト』のバリアを展開し、高速でド・クザに向かって行った。ド・クザが左手の大剣を振り下ろしたが間一髪でそれを躱し、そのまま奴のバリアに突っ込んだ。バリア同士が干渉して、バンと弾けた。ド・クザのバリアがその瞬間消失した。

 遥が振り返ると拓也が飛び込んで来ているの見える。そのまま遥はド・クザに『フリーズ』を掛けた。ド・クザの動きが静止する。

 拓也が両手剣を回転しながらド・クザに何度も斬りつけている。遥もありったけの弓矢を撃ち込んだ。みるみるド・クザのヒットポイントが減少していき、ド・クザが苦しそうな雄叫びを上げて、その巨大な身体が地面に倒れ込んだ。そして身体が爆発して消滅した。


 ド・クザが消滅した後には銀色の宝箱が現れた。拓也がその宝箱を開けると中から銀色に輝く鍵が出てきた。

「これで四体の厄獣の一体をやっと倒した。残りは金の鍵と銅の鍵とそしてプラチナの鍵。銅とプラチナはビルが水の里と火山の里で手に入れてくるから、俺達は砂漠の里を攻略して金の鍵を入手しなくちゃならない。四つの鍵が揃って初めてミドラル城の結界を破って大厄獣ダノンと対峙する事ができる」

「えっ? 風の里でやった様な事を今度は砂漠の里でやるの?」

 遥は風の里での厄獣ド・グザを倒す迄の道のりの長さを振り返りと天を仰いだ。

「勿論そうだ。簡単にはゲームクリアには行かないさ。それじゃ、クリアした事をビルに連絡しよう……」

 拓也はそう言うとメニューを開いて通信機能を立ち上げた。

「ビル聞こえるか? 拓也だ」

「拓也か……。ちょっと待ってくれ。今、砂漠の里の厄獣ド・ムドと戦っているから……。よし倒した」

「えっ? ビル。君は水の里と火山の里の担当の筈だよね? どうして砂漠の里を?」

「もう水の里と火山の里はクリアしてプラチナと銅の鍵は確保済みだ。君達が少し苦戦している様だから、こちらで砂漠の里の攻略もする事にしたんだ。よし、今、金の鍵も確保した。そちらも銀の鍵は確保したんだろう? それじゃ、ミドラル城で会おう」

 ビルとの通信を切ると、拓也と遥は顔を見合わせた。

 遥が言った。

「これで鍵は全て集まったって事? まあ良かったけど……。ビルって凄いのね……。三つの里を一人で攻略したんだ。恐れ入ったわ」

 拓也も大きく頷いた。

「まあ結果オーライだから、最終ステージに向かおう。ただし通常の大厄獣ダノン戦があるのか、そのままシークレットエリアが待っているのか分からないけど……」

 遥も頷く。そして二人は飛行要塞ドマーロを飛び立つと南東にあるミドラル城に向った。

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