第16話 ファンタジーワールド開始

 三人はファンタジーワールドの大地に順番に飛び降りて来た。

 遥は初めて訪れたファンタジーワールドに興味津々だった。そこは山の頂上の様で、遠くに大きなお城が見える。ただ、そのお城の周りは赤黒い雲で覆われていて、いかにも魔物が居ますという感じだった。遠くには火山や雪山も見え、城の周りには広大な平原が広がっている。

(これは中世の世界で魔物を倒すと言う事ね……)

 そう考えながら遥は自分の姿を眺めてみた。彼女は尖がり帽子を被り膝上の青色のローブを身に纏い、手に凝った装飾の杖を持っていた。

(これは魔法使いの服装か……フーン……)

 右の拓也の方を振り向くと、彼は緑色の上着に灰色のズボンを穿き、腰には長剣を背中には盾と弓矢を装備している。

(そうか、拓也は勇者の服装ね……。それでビルは……)

 遥は次に左のビルを振り向いた。彼は全身黒ずくめのライダースーツに両腰に拳銃をぶら下げている。

「うん? ビル、それってファンタジーワールドの装備で合ってるの?」

 ビルが拳銃を腰から抜きながら答えた。

「これは特別装備さ。裏技でね……。出来るだけ早くダンジョンをクリアしたいから、他にも色んな武器を持っているよ」

 ビルはそう言うと自分の画面を開いてマップの確認をしている。

 遥は「ふーん」と言い拓也の前に立った。

「拓也、私だけがここでは素人だから、少しこの世界を解説してよ」

 遥は少し口を尖らしてそう言った。

 拓也は頷くとこの世界の説明を始めた。

「ここはファンタジーワールド内にある五つのゲームの一つ、レジェンド・オブ・イルサの世界だ。この世界の設定はこうだ……」

「平和なミドラル王国が一年前に大厄獣だいやくじゅうダノンに襲われ、王様や国の英雄が全て倒されてしまった。このゲームの主人公は瀕死の重傷を負い蘇生の洞窟で一年間眠っていた。そして記憶を失って目覚めた所から物語が始まる。ここは始まりの山頂。後ろに洞窟が見えるだろう。そこに主人公は一年間眠っていた事になっている」

 遥が振り返ると確かに洞窟の入口が見える。

「そして最終目的は、ミドラル城に巣くっている大厄獣ダノンを倒し、囚われているイルサ姫を助け出す事だ。ただし、その為には、大厄獣ダノンの部下が支配している四つの里を開放し、ミドラル城に施された結界を突破する鍵を入手しなければならない」

「四つの里とは、水の里、火山の里、砂漠の里、風の里だ。各里のダンジョンを攻略し、そこの厄獣を倒す事で結界の鍵を手に入れられるって事だ」

「このゲームはヒットポイントと回復のコントロール、また如何に強力な武器を手に入れるかが攻略の鍵だ。ただビルの裏技で俺達のヒットポイントはマキシマムになっているし、装備は最高レベルまで高められているから有利に戦いを展開できる筈だ」

 拓也は自分の前のメニュー画面を開き装備表を見ながら言った。

「また各ダンジョンには様々なトラップや謎解きが仕掛けられているが、それらは全て俺が理解しているから、これも大きな問題にはならない」

 遥は頷いた。

「それじゃ、簡単に攻略できそうね。他に問題は?」

 拓也が少し考えて言った。

「俺は既にこの世界を数回攻略しているけど、一度もその先のシークレットエリアの入口を見たことが無い。今回三人で、且つ宇宙でプレイする事で、どんな形でその入口が姿を現すのかは分からない。そこが一番の懸念点だ」

 拓也は遠くに見えるミドラル城を見つめながら言った。

「気にしても仕方ないさ」

 ビルが唐突に割り込んできた。

「いずれにしろ、ミドラル城の解放が必要だ。シークレットエリアの事は、その後、考えよう。さて、どんな分担で攻略する?」

 拓也が遥をチラッと見てビルに言った。

「遥は素人だ。俺が遥と一緒に行動するよ。ビルが二つ、俺と遥が二つのダンジョンを攻略する事で良いかい?」

 ビルが頷いた。

「それじゃ遥の能力を活かせる、砂漠の里と風の里をそちらのチームで頼む。僕は水の里と火山の里を攻略してくる。状況は随時連絡しよう」

「ビル、了解だ。気をつけて」

 そう拓也が言うとビルが手を振った。

 そしてビルが呪文みたいな言葉を呟くと、ビルの前に何かが出現した。

 それは、オフロードバイクの様だった。とてもファンタジーの世界には合わない……。

「あれは……?」

 遥が拓也に聞いた。

「オプションダンジョンを解くと特別に与えられる装備さ。この世界は基本、馬での移動だけど、あれがあれば高速で移動が可能だ……」

「へー」と遥が言っている間にビルはバイクに跨り、山を駆け下りて行った。

「遥、それじゃ行こうか……?」

「ちょっと待って。さっきビルが言ってたじゃない、私の能力は砂漠と風に有利だって……。あれはどう言う意味?」

「それは直ぐに分かるよ。遥、翼を……」

「えっ? 翼?」

「そう、魔法族は背中の翼で自由に飛べるんだ。これはバイクより高速で世界を移動する事が出来る。そして空中では基本的に敵が出てこないから体力も殆ど消耗しない」

 また、遥は「へー」っと言ったが、(翼って言ったって、どうやって?)と思った。

「それは魔法族の標準装備だから、感じるだけで良い筈だよ」

 拓也の説明に、首を傾げた遥だったが、(翼を)っと考えた瞬間、背中から何かが飛び出した。

「えっー?」

 真っ白で大きな翼が背中から出てきて遥は驚いた。そして足がゆっくり地面を離れる。

「その翼はシンボルみたいなもんだから、羽ばたいて飛ぶわけじゃない。自分の周りの空間を魔法の力で持ち上げるんだ。はい俺の手を握って」

「えっ? 拓也も運ぶの……?」

「そうだよ、一緒にダンジョンの攻略をするんだから。持ち上げる空間を少し広げて俺の部分も包む様に……」

遥は(仕方無いわね……)と思いながら、拓也と自分を持ち上げるイメージをした。

 その瞬間で一気に百メートルくらい上空に飛び上がった。

「上手いぞ、次は前へ進んで」

 遥はもう一度前に進むイメージをした。すると高速で二人は空を前進始めた。

 今まで居た始まりの山頂からミドラル城前の広大な草原の上空に達する。

「凄い、綺麗……」

 上空から見るミドラルの国の風景はゲームの中に造られたとは思えないほど造りこまれていて、素晴らしい景色が広がっている。

「すっかり慣れたね。それじゃ、まずは風の里へ行こう。風の里はミドラル城の北西の地域にある」

 遥は拓也の声に頷き、針路を北西に向けた。

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