第14話 宇宙へ

 拓也と遥はウォーワールドを終えてビル+Oneの待つファンタジーワールドへの切符を手に入れた。当初の予定通り、ここで一旦ゲームを終える事になる。拓也はメニューを捲り、ゲームをセーブすると終了処理を行った。


 視界が自分の本来の視覚に戻って行く。ディスラプタープレインの機内の天井が見える。拓也はコクーンⅡから起き上がった。右を見ると遥も起き上がっている。拓也はコクーンⅡから離れると大きく伸びをした。左を見ると、ビルが拓也と遥を見て手を叩いている。

「拓也、遥。素晴らしいプレイだったね。ほぼ、RTAの最速タイムじゃないのかな。 狙い通りの時間で終了したね。あと30分で、ケネディスペースセンターに着陸だ」

 拓也と遥は15時間以上続けてゲームをプレイしていた事になる。それはそうだ。『スポーツ』、『ミステリー』、『レース』、『ウォー』の4ワールドを一気にクリアして来たのだから。

 コクーンⅡの部屋を出ると、ソファーの部屋で安曇忠明会長が待っていた。

「拓也君、遥君。やはり君達は凄いね。着陸して少し待つのかと思ったが、着陸前にファンタジーワールドに到達するとは……。素晴らしい。さあコーヒーでも飲んでくれ。直ぐに着陸だ」

 ディスラプタープレイン、安曇重工の社有機ボーイング747—400は、フロリダ半島の上空で高度を落とし、ケネディスペースセンターのスペースシャトル着陸用に造られた世界最大の滑走路に着陸した。グアムを離陸して16時間12分が経過していた。


 機体が停止すると安曇忠明が立ち上がった。

「さて、三人でこの機体の前方の更衣室に行って、スペーススーツに着替えてくれ。宇宙へ上がる準備だ」

 そう言って、三人を機体の最前方Aコンパートメントに有る更衣室に導いた。

 機体に取り付けられたタラップを登って、スペースXの女性の技術者が乗り込んで来る。彼女が三人のスペーススーツの装着をサポートしてくれた。

 このスペーススーツは最新のテクノロジーで開発されており、非常に薄く作られているが宇宙空間での気圧の保持、温度のコントロールを全て通常の宇宙服と同等の性能で実現させてくれる。

 スペーススーツを装着した三人はタラップを降りて、迎えの車に乗り込んだ。車の外から安曇忠明が声を掛ける。

「それでは、私はコントロールセンターで君達の打上げをサポートする。成功を祈っているよ」

 三人はその声に頷き、発射台に向かった。

 車は発射台39Aに到着した。そこには、スペースX社のファルコンヘビーが三人を待っていた。ファルコンヘビーは低軌道へ68トンを打ち上げる能力を持っている。

 この能力を使って、安曇重工の開発した究極のバーチャルリアリティ装置コクーンⅢを打ち上げるのだ。

 ファルコンヘビーに三人分が搭載されたコクーンⅢは、3次元に稼働する遠心力擬似重力装置により、宇宙空間でゼログラビティから10Gまでの加速度を模擬出来る。

 ファルコンヘビーの3段目には、先頭が打ち上げ時に三人が搭乗する司令船。その下にコクーンⅢの格納ベイ。その下がロケットエンジンや電力・酸素供給を担う機械船になっており、総重量は60トンもの大きさだ。

 三人は発射台の車を降りた。拓也はそこに据え付けられたファルコンヘビーを見上げた。全高70メートルにも及ぶこの巨大ロケットが、これから彼等三人を宇宙へ連れて行ってくれるのだ……。

 三人は発射台のエレベータで司令船のある65メートルの高さまで登った。そしてブリッジを渡り、司令船に乗り込んだ。

 そこは三人乗りの司令船で、お世辞にも広いと言えない。丁度アポロ宇宙船と同じくらいの船内空間だった。しかし機内の計器やスイッチはは大型の液晶タッチスクリーンに纏められ、非常にシンプルな印象だ。

 真ん中の席にビルが座り、右に拓也、左に遥が着席した。三人はスペーススーツのヘルメットを装着した。そして、シートベルトの装着を発射台の技術者がサポートしてくれた。

 そして全てが終わると司令船のハッチが閉じられる。

 ケネディスペースセンターのフライトコントロールルームで最終チェックが始まる。

「フライトダイレクターだ。最後の『搭載品』、三人の宇宙飛行士が搭乗した。それではフライトの最終チェックを行う。各担当リーダーは準備状況を報告してくれ」

「ブースター」、「Goです」

「メインエンジン」、「Go」

「緊急対応」、「Goです」

「フライト」、「Goです」

「ガイダンス」、「Goです」

「ドクター」、「パイロット問題なしです」

「EECOM」、「Goです」

「ナビゲーション」、「Goです」

「テレメトリー」、「Go」

「コントロール」、「Goです」

「通信」、「Goです」

「気象」、「Goです」

「回収」、「Goです」

「CAPCOM」、「Go」

「そして、パイロット」

 その無線を聞いていたビルが拓也と遥を見た。

「何か問題があるかい?」

 拓也と遥は首を振った。

「パイロット、Goです」ビルがそう答える。

「フライトダイレクターだ。オールシステムはGoだ。それではカウントダウンを再開する。T―120」

 カウントダウンが再開された。電子音声でカウントダウンが流れる。

「オートマチックカウントダウン シーケンス開始」

「T—60セカンド」

「ステージⅡ、準備完了」

「T—30セカンド」

 管制室に大きな歓声が上がる。

「全自動システム準備完了。ファルコンヘビー打上げシーケンスへ」

「T—13 エンジン始動シーケンス」

「10」

「全システム準備完了」

「8、7」

「メインエンジンスタート」

「5、4、3、2、1、0」

「リフトオフ」

 ビル、拓也、遥を乗せたファルコンヘビーはケネディスペースセンター39A発射台から打上げられた。物凄い加速度が彼らを宇宙へ誘う。

 そして、ディスラプターチャレンジのファンタジーワールド、その先のシークレットエリアへのチャレンジが、三人を待っている。

 その結果として、三人とOne/Two/Threeの秘密が解かれ、そしてこの世界にどの様なインパクトがあるのか……? それはシークレットエリアをクリアした時に明らかになるだろう。

 ディスラプターワールドは次のステージへ……。それは宇宙でのチャレンジだ。

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