第3話 遥の事件

【二〇二二年九月、横浜インターコンチネンタルホテルロイヤルスイート】


「遥、君は……? Threeを持っている? 俺のTwoを知っている……? 君は何者?」

 拓也は驚いた眼で遥を見つめた。

「私は中澤遥よ。でも、私自身も自分が誰なのか少し分からなくなっているの。あなたと同じ様に……」

「えっ?」

「TwoもThreeも、まだ一部の機能しか解放されていないわ。全ての機能を解放した時に、隠された謎が解けると聞いている。私達が誰なのかも……」

 遥はその大きな瞳で拓也を見つめている。

「私達が誰かって……俺と君の?」

 拓也は聞いた

「そう。そして、Oneを持っているもう一人の……」

 また、拓也は目を見開いた。(Oneも居るのか?)

「そうか、俺がTwoで君がThreeって事は、Oneが居るって事……? じゃあ、FourやFiveは?」

 遥は首を振った。

「そこまで知らない。Oneも存在すると知っているだけで、誰がOneなのかも知らない。私の知っている情報も断片的なの……。多分、あなたも同じでしょう?」

 拓也は頷きながら言った。

「そうだ。俺はTwoが俺の中に居るって事しか知らない。でも、この謎を解く鍵なら知っている。『ディスラプターチャレンジ』。あのゲームの中だ……」

 遥が拓也を見つめる。

「そうなんだ。それであなたはゲームに集中しているのね。他の人からゲームオタクって言われる程……」

 拓也は微笑んだ。

「良いさ。勉強はすぐに挽回出来る。今はこのゲームの中に何があるのか? それで父さん達が死んだ理由や、他のもやもやした謎が解けるんなら安いもんだ」

「それで、何か分かったの? ゲームの中で?」

 遥が大きな目を瞬きさせた。

「いくつかのキーワードは見つけたけど……。今はそれだけ。何か根本的な謎解きの進め方に問題があるって考えているんだ……」

「例えば、Threeを持っている私と一緒にプレイする必要があるとか……」

 遥が上目遣いに拓也を見つめる。

「えっ? そう言う事? でもそれは試してみる価値はあるか……」

 遥が微笑んだ。

「じゃあ、後でゲームの事教えて。まあゲームなんてやった事ないから足手纏いかもしれないけど……」

「大丈夫、ディスラプターチャレンジは、実際の運動能力や記憶力がゲームを進めるポイントだから、多分、遥なら直ぐに慣れるよ」

 遥がにっこり微笑む。

 拓也は頷くと、遥にもう一つの疑問を聞いた。

「それと遥。何故、Threeを知ったのか教えてくれないか? 僕がTwoを知ったのも、あの事件に遭ったからだ……。君はどうやってそれを知ったの?」

 遥が頷いた。

「Threeの事を知ったのは一ヶ月前よ。それはあるキッカケがあったの」

 遥は窓の外の横浜港の景色に目を向けていた。

「私も事件に巻き込まれたの……」

 そう言うと遥は、自分が出会った事件を語り始めた。


【八月夏休み】

 遥は、安曇重工副社長の父、中澤正一と一緒に二泊三日のクルーズを計画していた。

 遥も幼い頃、母を亡くしており、正一と遥の二人家族だった。

 このクルーズは、日本一のクルーズ会社トロピカルクルーズ社が提供するもので、トロピカルクルーズ社のプライベートアイランド、伊豆諸島に在る無人島『トロピカルケイ』でのリゾートライフが売りとなったクルーズだった。

 このクルーズ商品にはいくつかのコースがあり、遥達が選んだのは一番短い二泊三日のコース。

 横浜の大桟橋を出発して、翌日の朝、伊豆大島に到着し夕方まで停泊。翌々日の朝、トロピカルケイに到着し、夕方まで停泊し、三日目の朝、横浜に戻るコースだった。

 このクルーズの食事は全てクルーズ料金に含まれていて、各地でのオプショナルアクティビティを除けば、クルーズ料金のみで利用する事が出来た。

 今回乗る船は、トロピカルクルーズ社が今年進水させた最新のクルーズ船トロピカルファンタジー。総トン数は十三万トン。プールが六つ。ヘリポートを前部デッキに備え、客室部のデッキは十二階から地下四階までの十六層に分かれ、二千五百人の旅客定員を誇る国内最大のクルーズ船だった。

 その日の夕方、遥達は横浜の大桟橋でチェックインするとトロピカルファンタジーに乗船した。遥達の部屋は十一階のスイートルームで、窓側のベランダからは綺麗なみなとみらいの街並みが見えた。

 船は夕方五時に大桟橋から出航し、横浜湾を出て、東京湾を南に向かった。

 午後七時からは四階のグランドダイニングでフルコースのディナーが振舞われ、遥も大いに満足した。船は東京湾を抜けて太平洋を更に南下していた。

 午後九時過ぎ、遥が部屋で寛いで居るとドアをノックする音がした。

 正一がドアを開けると、この部屋担当のサービス係が右手に箱を持って立っていた。

「中澤様、夜分申し訳ございません。スイートルームのお客様へ船長より、スペシャルアイスクリームのプレゼントがございます。この船でしか食べられない逸品の為、是非ご賞味下さい」

 正一がその箱を受け取ると、サービス係は部屋を辞して行った。

 正一はドアを閉めると、リビングのローテーブルに箱を置いてソファーに腰を降ろす。遥もその向かいに座った。

 彼が箱を開けると、Gallerと名前が入った丸いアイスが三つ。ホワイトチョコ、ミルクチョコ、キャラメルチョコの三種類が入っていた。

「これは、ベルギーのアイスだな。遥、食べるか?」

 実は甘い物に目がない正一は、遥にそう問い掛けながらも、既にホワイトチョコの蓋を開けつつあった。

 遥は夕食を食べすぎていた事もあって、

「私、パス。お父さん、私の分も食べて良いわよ」

 そう遥が言った時には、正一はもうホワイトチョコを開けて食べていた。

     

「これは美味い。遥、本当に食べないのか?」

 正一は本当に美味しそうにそのアイスクリームを食べていた。

 その時だった。正一がいきなりアイスの箱を手から落とし、ソファーからずり落ちる様に床に倒れ込んだ。

「えっ? お父さん! どうしたの?」

 遥が駆け寄ると、正一はまだ意識があった。

「遥…… 私の携帯……を……」

 遥はテーブルの上に置かれていた彼の携帯を手に取って渡した。正一がそれを受け取り、顔認証で立ち上げる。

「……良いか……メモ……お前の誕生日……」

 そう言うと正一は意識を失った。

「お父さん!」

 彼を仰向けにし、胸の動きを見ると呼吸はしている様だ。

 遥は直ぐに部屋の電話を取ると緊急番号に電話した。

「1101号室です。父が突然倒れてしまいました。助けて頂けますか」

 電話を置くと遥は正一の携帯の設定を変えて顔認証を解除した。

(何が起きているんだろう?)遥は助けを待っている間に考えた。

 父には持病等は無い。タイミングからいっても、さっき食べたアイスに原因がある可能性が高い。

(そうか……アイスを確保しておかないと)

 遥は急いで荷物の中からジップロックの袋を出すと正一が食べていたアイスの中身をその袋に入れた。そして、その袋を自分のバックに入れた。

 直ぐに車輪が付いたストレッチャーを押して、医療スタッフが部屋にやって来た。父をストレッチャーに載せると、彼等は地下一階にある船の医務室へ正一を運んでくれた。

 そこには、一通りの医療設備があり担当の医師が常駐していた。医師は田中と名乗った。田中医師は正一の血圧を測定し、酸素飽和度を測定している。

「お父様は血圧が急激に落ちています。また酸素飽和度も90%を切って危険な状態です。何か持病はお持ちですか?」

 田中医師が遥に聞いた。

「いえ何も。父は先程このアイスを食べて倒れました。多分このアイスの成分に何か原因があるのではないでしょうか?」

 遥はバックから袋に入れたアイスを取り出すと田中医師に見せた。

「うーん、そうなると成分分析はここでは出来ないし、毒物だとすると抗生物質もここには無いので、陸地へ緊急搬送が必要ですね。船長にお願いしてヘリを呼んで貰います」

 そう言うと、田中医師は電話を取って話を始めた。電話が終わると田中医師は言った。

「東京消防庁のヘリが来てくれるそうです。三十分くらいで到着します。それでお父様を病院まで搬送頂きます」

 遥はヘリを待っている間に正一の携帯のメモを開いた。いくつかのファイルがある。一つずつ開いて見たが、一見、何か関係がありそうなものは見当たらなかった。でも最後から二番目のファイルにパスワードが掛かっていた。

 そのファイル名はは『disruptor third』となっている

「お父さんは私の誕生日って……。0829がパスワード……?」

 遥が0829と入力すると、そのファイルが開いた。そこには、暗号みたいな文字が書かれている。

 [disruptor third, say qwertyuiopasdfghjklzxcbvbnm then activate]

 [遥 これはお前を護る鍵だ]

「何? これは。私を護る鍵? 何のことだろう……?」

 遥は暗号の様な文字を見つめた。ある法則に則ったこの暗号を覚えるのは簡単だった。

「お父さん。これが私を護るって……どう言う意味?」

 未だ意識を取り戻さない正一を見つめながら遥は呟いた。

 十分程で診療室の電話が鳴った。田中医師が受話器を取る。

「はい早いですね。分かりました。ヘリポートに向かいます」

 田中医師は受話器を置くと遥を向き直って言った。

「東京消防庁のヘリが来ます。お父様を連れてヘリポートに向かいましょう」

 田中医師のその言葉に遥は大きく頷いた。

トロピカルファンタジーのヘリポートは、前部デッキ四階フロア部にあった。遥は正一のストレッチャーを田中医師と押して、四階のヘリポートに向かった。

そこには船の作業服を着た男性が既に待機してくれていた。遠くからヘリコプターの音が近づいて来る。すると、左上方で眩い光が点灯した。上空のヘリが着陸灯を点けて、船の甲板を照らしている。ヘリは船の上をゆっくり旋回すると、作業員の指示に従いヘリポートへ着陸体制に入った。物凄い風の中、遥は正一のストレッチャーを抑えてヘリの着陸を待っていた。しかし甲板に着陸したヘリを見て遥は違和感を覚えていた。

「あれは、東京消防庁のヘリなの?」遥が呟いた。

ヘリはグレーの塗色で、どこにも消防庁という様な表示が見えなかった。そのヘリの後席のドアが開いた。

「えっ?」

中から姿を現したのはグレーの迷彩色の服を着て、手に拳銃を構えた男性だった。その男はヘリを誘導した作業員の頭を目がけ拳銃の引き金を引いた。作業員は声を上げることも無く、その場に倒れ込んだ。

田中医師と遥は突然起きた事態が理解できず、その場に立ち尽くしていた。その男は遥の前まで来ると遥に拳銃を向けた。

「中澤遥、同行してもらおう」その男はそう言った。

「えっ? 私? でも父を病院に連れて行かないと……」

そう遥が言った瞬間、その男は田中医師に銃口を向け、躊躇うことなく引き金を引いた。

 バンと音がし、田中医師が頭から血を流しながら後ろ向きに倒れた。

「何を?」遥が叫んだ。

「次はお前の父だ、同行するか?」

 そう言うと、男は正一の頭に銃口を向けた。遥は首を大きく振って叫んだ。

「分かった。一緒に行くから、父を殺さないで!」

 男はニヤリと笑い、正一に向けていた銃口を遥に向け直した。

「それじゃ、後ろを向いて手を頭の後ろに組むんだ」

 遥が手を頭の後ろに置くと、男は遥の身体を触り始めた。

「ちょっと触らないで!」

 遥が叫んだが、男は、「危ないものを持っていないか確認しないとな……」と言いポケットの中にあった、父の携帯をその場に捨てた。

「それじゃ、ヘリまでそのまま歩くんだ」

 男は遥の後ろから銃口を彼女の背中に当てて遥を促した。遥は諦めた様にヘリに向かって歩き始めた。ヘリはローターを回したまま着陸しており、物凄い音と風だ。

 遥は不意に思い出した。

『遥、これはお前を護る鍵だ』

 父の携帯のメモに書かれていた文字が遥の頭に浮かんで来た。

(書かれていた文字は……)

「QWERTYUIOPASDFGHJKLZXCVBNM Activate!!」

 遥は記憶に従い言葉を発した。幸いの事にヘリの騒音の為、その言葉は後ろの男に気づかれる事は無かった

(何も起こらない……)

 遥が思ったその瞬間……。     

[遥、私はThree。ありがとう動けるようにしてくれて]

「えっ、なに?」

 遥は突然頭の中に広がった声のイメージに頭を振った。

「あなたは……?」

 [私は、あなたの身体の一部。ずっと前から一緒だよ。あなたの五感を通して、今までもずっと外の世界を見てきた。今、起こっている事も分かっている。私の力であなたは、この危機を乗り越えられる筈]

「ずっと一緒だったってどういう……?」

 [まずは、この危機に対処しないと。私の指示通り動いてくれる]

 突然湧き上がった頭の中の声は遥の理解を超えていたが、とにかくこの危機を回避しなければいけない事は確かだった。

「分かった。どうすれば良いか教えて」

 そう遥が呟いている間に、彼女はヘリに辿り着いた。

「それじゃ後席に乗るんだ」後ろの男が遥の背中を押す。

 [ここじゃ無理だね。まずはヘリに乗って]

 遥は頷き、ヘリの後席に乗り込んだ。

「シートベルトをするんだ、そして横のヘッドセットを被って」

 そう言いながら男が遥の隣に座った。

 男は後ろ手でドアを閉めると遥の知らない言葉で叫んだ

「hwagbohaessda. Ilyughaneungeoya!!」

 その瞬間、ヘリがエンジン出力を上げ離陸する。眼下には大きな船の灯りが見えるが、それ以外は真っ黒だった。     

 ヘリには男以外に、右側の前席に操縦者が座っていた。遥とその二人がヘリの搭乗者という事になる。ヘリは海面近くを高速で飛んでいた。

 十分程の飛行で、前方に陸地の灯りが見えてきた。

 [遥、左側に座っている男の拳銃を奪って、彼を撃って]

「えっ?」

 [遥、彼は既に二名を殺しているわ。目的が済んだらあなたも殺される。躊躇している場合じゃないわ]

 遥は頷いた。

 [私がタイミングを見ている。合図をするからそれに従って。安全装置は外れているから引き金を引けば良いから]

 遥はもう一度頷いた。

 男が後席から腰を浮かせると、前の操縦者に指示を出している。

「ganeunghan jeogong bihaeng-geoya. naebigeisyeon-ui jisileul ttaleuneun」

 [遥、今よ!]

 遥は男の右腰のホルダーに下がった拳銃を左手で握って奪い取った。

「mueos?」

 男が驚いた様に遥を見ている。まさか十七歳の女の子が拳銃を奪うとは思っていなかった様だ。遥はその銃口を男の頭に向けると、躊躇わずに引き金を引いた。

 男は信じられないと言う顔をしてその場に倒れこんだ。

遥は拳銃を撃つ自分が余りにも冷静なのに驚いていた。

(これもThreeの力なの……)    

「eotteohge don? museun il-iss-eo?」

 操縦者が銃声を聞いて声を上げた。遥はシートから立上がり、後席から前席の操縦者のこめかみに銃口を当てた。

「死にたくなかったら着陸しなさい!」

「geuleon il hal su iss-eulkka. jug-eum-eul taeghal su bakk-e eobsda..」

「言葉通じてないの?」遥が叫ぶ。

 [通じているよ。彼は自殺すると言っているわ]

「えっ?」

 その瞬間前席の操縦者の首が前にグッタリと折れた。口から泡を吹いている。

 [口の中に入れていた青酸カリを噛んだのよ]

 一気にヘリがバランスを崩す。

 [遥、操縦して。墜落するわ]

「えっ? 私、操縦なんて出来ないわよ」

 [私が教える、早く!]

 遥は前席の中央を通って左席の操縦席に座った。そしてシートベルトをする。

 [足をラダーペダルに。左手で前のサイクリックステックを持って。右手でコレクティブレバーを握って]

 遥はThreeの指示に従い、両足、両手を動かした。

 [今、右に二十度ロールしている。ステックを少し左に。そこで安定]

 [左へのヨーはラダーの右を踏んで、高度が下がっているから、少しコレクティブレバーを引いて]  

 Threeは全ての計器を読みながら遥に指示を出してくれた。遥はThreeがイメージで指示する内容に従い操縦桿を動かした。

 ヘリは、安定した飛行とは言えなかったが、何とか墜落せずに飛んでいる。高度は九百二十フィート。夜間飛行の為、今、どこを飛んでいるかも全く分からない。

 [広い場所に着陸しましょう。あそこ見える?]

 Threeが言うイメージの場所、街の光の中に大きな暗い場所が見える。

 [うまく減速しながら、高度を降ろして、あそこに降りて]

 遥はゆっくり頷いた。

 減速する為、機体のピッチを少しあげる。コレクティブレバーを少し下げ出力を絞る。ラダーで方向を制御する。高度は百フィート、五十フィート。少し速い。コレクティブレバーを少し持ち上げる。

 遥の操縦するヘリは大きな降下率のまま、左側を下げた姿勢で激しく地面に接地した。着地の衝撃で左側の着陸装置が壊れたが、それ以外にヘリの損傷は無かった。遥はThreeの指示に従いヘリのエンジンを停止した。着陸した場所は、平塚市の湘南海岸公園だった。


この事件も拓也の事件と同様、報道される事は無かった。当局が情報操作を行い、公には無かった事件となった為だ。

 遥の父、正一は、偽のヘリが離陸した後に船に飛来した東京消防庁のヘリで病院に運ばれ一命を取り留めていた。


【二〇二二年九月、横浜インターコンチネンタルホテル ロイヤルスイート】


 遥の話す事件は拓也にとって衝撃だった。遥も拓也と同じ秘密を持っている。そして同じように狙われた。遥は話を続けた。

「あなたのお父さんと違って私の父は生き残る事が出来た。だから私は父から いくつかの追加の情報を聞く事が出来たわ。でも父が目を覚ましたのは昨日よ。それを聞いたから、今日、あなたに接触したの」

「父は言ったわ。私とあなたは特別な頭脳を持っている。それは小脳の後ろにもう一つの小型頭脳がある特殊な脳なんだって。その、もう一つの脳をTwoやThreeと呼んでいる。その様な特殊な身体的特徴を持っている私は、そしてあなたも、父やあなたのお父様の本当の子供でなく、彼等に預けられた子供なんだって」

「えっ?」拓也は息を呑んだ。

「父は、それ以上の細かい事は聞かされていなかった。ただ私達に危険が及ぶ時は第二の脳を覚醒させるコードを知っていた。そして、それ以上の情報は、Twoを持っているあなたと連携して見つけるしかないと父は言っていた」

「父はあなたの事件を知っていて教えてくれたわ。そしてもう一人、Oneが居ること。でも父もOneが誰なのか知らなかった……」

 遥の頬を涙が流れていた。

「父は私の本当の親ではなかったの。あなたのお父様も違う……。そして私達が『Two』、 『Three』と呼ぶものは、私達の脳に寄生する別の脳なのよ!」

 遥の話は拓也に取って多くの新しい情報だった。そしていくつかの疑問が解けた。

「遥、辛い思いしたね。でも教えてくれてありがとう。俺、自分が普通じゃないのは分かっていた。でもね、父が本当の俺の親ではなかったとしても、また頭の中に何かが寄生していたとしても、その全てが俺自身だから。Twoの存在を含めてね」

 遥が大きな瞳に涙を溜めて拓也を見ている。そして言った。

「でも二つめの脳は人工的なものかも知れないわよ。それでも?」

 拓也は頷いた。

「でも遥。君もThreeに助けられただろう? 俺もそうさ。それに俺は『ディスラプターチャレンジ』の中でTwoと一緒に多くの謎を解いている。だから俺にとってTwoは、もう欠かす事の出来ない相棒さ……」

 遥は手で涙を拭くと言った。

「分かってた。Threeが私の大切なパートナーって。でも、昨日その事実を知った時は本当にショックだった。でもありがとう。拓也の言葉で私の悩みは吹き飛んだ……」

 拓也が笑顔で頷いた。遥が続ける。

「他に父が言っていたのは、TwoやThreeは、まだ能力の一部しか覚醒していない。あなたと一緒に謎を解くことで、彼等の本当の能力が覚醒するんだって。それがどんな能力かは父にも分からないって。そして私を父に預けてその秘密を教えたのは安曇重工の偉い人だって。私達の身体の秘密は安曇グループの中にあるのかも知れないわ……」

 拓也は窓から見える横浜港の眺めを見た。

(いずれにしろ遥と一緒に『ディスラプターチャレンジ』を進めるのが早道か……)

 拓也の頭は、既にその考えで一杯だった。

「遥。早速、一緒に『ディスラプターチャレンジ』をやろう。俺の家に来てくれよ。俺の部屋にはゲームをする為の最強の環境が揃って居るから……」

 遥が上目遣いに拓也を睨む。

「女の子を自分の部屋に誘って、またイヤらしい事考えているんでしょう?」

「えっ?」

 遥が意地悪そうに微笑む。

「嘘よ、それじゃ行きましょう」

 そう言うと、遥はソファーから立ち上がった。拓也もそれに続く。


 その瞬間だった。物凄い衝撃音が響き、ホテルのフロアが大きく振動した。

「今のは……? 爆発?」

 二人は顔を見合わせた。

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