反世界 2 無色路
華やかな歓楽街も、ワンブロック離れれば無個性な住宅街や、寂れた商店街、廃墟同然の忘れられた場所…というのは、どこの都市でも共通していることだ。
『
大きな特徴の一つが宗教だ。日本古来の宗教である『
しかし他国ではカルト視されていた事も踏まえ、思想的に危険だと政府に判断されたため、条約をきっかけに団体は解体させられ、信者達は形式上は改宗もしくは信仰を捨てる事を余儀なくされた。
現在の列島に住む者のほとんどは『Gee Ess』か無信仰者、そして数々の新興宗教支持者だが、団体の幹部でもあったこの街の当時の代表者は、宗教を持たない民族は結束力にも欠け、人種としても弱くなるという考えのもと、民族として新たな密教を創る必要があるとした。
それが所謂『ネオ・ブディズム』の始まりだ。
彼の判断はある意味では正しく、客観的に見ると依然としてカルト的要素も強かったが、なにより彼らには力があった。彼らは特殊な民族意識と確固たるアイデンティティを持ち、その教義や思想を介在してあらゆる方面の陰の立役者となってきた。彼らの営みは主に裏稼業で、ナイシキ・ロード内ではほとんどの店舗のシャッターが降ろされているが、中ではせっせと仕事に励んでいる。大概は必要悪である産業の仲介者として。
大使館内のように治外法権が認められているわけではない。犯罪行為を容認されているわけもない。そんな彼らが腫れ物のような扱いを受けているのは事実だ。触らぬ神に…という事ではないが、役人も面倒くさがって彼らと積極的に関わろうとはしない。
「俺たちは本来、商人なのさ。連中は変な発音で、ここを『
彼らは独自に綴ってきた歴史を次の世代に伝え、子供達もまたそういった独特の教育を受けてきている。先人達の指導の甲斐もあってか、彼らは類いまれなる選民思想を持ち、高い理想を持っていた。しかしもちろんのこと、極端に排他的な差別主義者でもあった。アメリカ人を憎み、混血を蔑んだ。
だが日常生活の中では不便な事も多い。例えば彼らは特別な戸籍を与えられており、厳密なアメリカ国籍のそれとは異なるので、生活保護的な扶助やら税制上の控除はあるものの、物一つ買うときですらスムーズにはいかない。まず彼らは通信デバイスを身につけていないために、
併合された後、彼らは選択する自由を与えられた。いわゆる便宜上の理由から名前や戸籍を完全にアメリカのそれと同じにするかどうか。しかし彼らはそれを拒んだ。実質上の同化政策を受け入れる事は、彼らの民族としての矜持が許さなかったのだ。
もともと本土では昔から移民は珍しくないので、例え
徹底した反米教育の賜物により、今から見ると年寄りの世代にとっては、一つの部族をまとめる目的としては功を奏した。だが問題なのは、彼らには情報統制がされていなかったということ。それにより百年ほどの歴史のなかで、徐々に違う考えを持つ人間が増えてきたのだ。
古い世代のプライドが、皮肉にも若い世代にとってはコンプレックスとなった。三世、四世と血脈が続くなかで、戸籍を取得することすら放棄する家族も現れてきた。存在しない
ネオ・ブディストたちは世界中にネットワークを持っており、同じ血、同じ思想を持つ者同士として鉄の結束力を持つ集まりだ。それ故に世界の広さを知る新世代のグループの中には、自分たちが軋轢を感じる生活を送らざるを得ない理不尽を、その下らない伝統のせいと決めつけた。自分たちと同じ血を持つ愚かな先人達と、自分たちの祖国を奪ったそもそもの元凶である国家に対する激しい怒りとともに、解放と統治を水面下で画策する動きが進行していた。必要な事は知っていた。やるべき事も分かっていた。
新たな思想を持つ若い世代の精鋭集団。彼らは歴史を知っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます