第17話 いきなり何ですか?

ジナン 「ロリ子ォォ! アレェン!」


ローリィ 「ジナンくん、ただいま。心配をかけたわね。あ、抱きつくのはやめてね。13歳のあなたがロリコンと言われることはないでしょうけど、成人の私はショタコンって言われちゃうから。その代わり、握手しましょう。うん、良い子ね」


アレン 「今さらですが、ローリィ先生はおいくつなんですか?」


ローリィ 「アレンくん、軽々しく女性に年齢を尋ねるのはやめなさい。女は大変なのよ、年齢を言うたびに、『いつまで遊んでいるつもりだ?』とか『そろそろ結婚しないの?』とか『ほったらかしにされて、旦那と子供が可哀想だ』とか言われて」


アレン 「すみません。でも、ということは、ローリィ先生は普通に考えてお子さんがいるくらいの年齢なんですね」


ローリィ 「言っとくけどね、アレンくん、近代化以前の社会では、女性が10代半ばで結婚させられることも珍しくないんだからね?」


エルネスト 「お帰りなさい」


ローリィ 「エルネストくん、わざわざ出迎えに来てくれて、ありがとう」


アレン 「エルネスト兄さん、帰りが遅くなってすみません」


エルネスト 「アレン、ケガはないか?」


アレン 「大したケガはしていませんし、ローリィ先生が水薬ポーションですぐに治してくれました」


エルネスト 「そうか、何よりだ。ハンバート先生、愚弟ぐていのためにありがとうございました。

 父はすぐにでも送別会を始めたがっていますが、お風呂の準備もできています。いかがでしょうか?」


ローリィ 「先にお風呂を頂けるとありがたいわ。さすがに魔獣を退治してそのままじゃ嫌だもの」


 ☆ ☆ ☆


ローリィ 「こんなに心のこもった送別会を開いてもらったのは初めてよ。楽しかったわ、ありがとね」


アレン 「あれ? もしかしてお風呂だけでなく送別会のシーンも丸ごとカットされてます?

 そりゃたしかに、みんなを待たせている状況ではお風呂といっても手早く済ませますし、送別会といったところで父さんが先生を労って飲み食いするだけなので、特筆すべき出来事ではありませんけど」


「入浴シーン、欲しかった?」


「そうですが、別にやましい意味じゃありませんよ。リラックスした空間で1人きりになったときに、この3ヶ月をしみじみと振り返って意味深なことを呟く、みたいシーンはあってもいいのにって思っただけです」


「そう言えば、以前ジナンくんに聞いたんだけど、アレンくんは歌唱が好きで、一時期はよく、をハミングしたり口ずさんだりしていたそうね。せっかくだから、私に対する熱い気持ちを歌にしてぶつけるようなシーンがあってもいいと思うんだけど」


「い、いきなり何ですか?」


「私には裸を要求したのに、歌くらいで渋らないわよね?」


「……すみません、軽率な発言でした」


ジナン 「ロォリ子ォォォ! 明日になったら本当にこの町を出ていっちまうのかぁぁぁ?」


ローリィ 「あらあら、ジナンくん、さっきから目が合わないと思っていたら、寂しがってくれてたのね。ありがとう。でも、あなたは男爵家の男児なんだから、そんなふうに恥も外聞もなく泣き叫んじゃいけないわ」


ジナン 「お、おデ! いっばい魔法を練習しで、いっヴぁい勉強しで、ロリ子を守゛れ゛るような立派゛な男になるよぉ!」


ローリィ 「そ、そう……。そういう心意気を持ってくれることは嬉しいわ」


アレン 「ジナン兄さん、悲しがり方がガチすぎて、ローリィ先生が引いてますよ……」


ローリィ 「実はね、ジナンくんとアレンくんには、最後に渡す物があるの。でも、今は開けちゃダメよ」


アレン 「封筒? まさかお金ですか? そんなもの、貧乏家庭教師の先生から受け取るわけにはいきません!」


ジナン 「そうだ、そうだ! ロリ子からかねなんか受け取れるか!」


ローリィ 「なんでそうなるの。そもそも、ナーロッパのお金はどんなにインフレが進んでも貨幣だけで、紙幣や小切手は一切使われないわよ。

 これはね、ウェストヒルズ魔道学園に宛てた推薦状すいせんじょうよ。ジナンくんは火魔法学科、アレンくんは総合魔法学科ね。

 私の恩師のスターク先生にはもう手紙を出したから、あとは入学願書にこの推薦状を同封して提出すれば、入試のとき少し加点してもらえるかもしれないわ」


アレン 「ありがとうございます! まさか先生から推薦状をいただけるなんて!」


ジナン 「俺の分もあるのか? 俺も魔道学園に入学できるのか?」


ローリィ 「言うまでもないけど、入学できるかどうかはあなたたちの今後次第よ。推薦状はあくまで、『この子たちは実力不足かもしれませんが、授業をちゃんと受けるくらいには真面目です』って程度のものでしかないんだから」


アレン 「ほかならぬローリィ先生に推薦してもらえるなんて、これ以上心強いことはありません! ありがとうございます!」


ジナン 「でも、俺はともかく、なんでアレンもウェストヒルズなんだ? たしかにあそこは歴史が古くて、帝国一の学園都市って言われてきたけど、最近じゃ帝都のシュート魔道学園の方が良いって聞くぜ?」


ローリィ 「たしかにシュートの方が予算と設備は充実してるんだけど、色々な意味で王宮と近しいから、貴族主義が強くて上下関係に厳しいの。

 あなたたちは破天荒だから、学問の自由と独立を重視するウェストヒルズの方が、伸び伸びできて合ってると思うわ」


ジナン 「そうか。ありがとな、ロリ子! 俺たちは絶対、魔道学園に入学して、誰にも負けないくらい勉強して、立派な魔道士になるよ!」


ローリィ 「あなたたちならやってくれるって信じてる。でも、油断はしないでね。入学試験は7月15日と翌16日だから、今からだと1年もないわ。

 実技試験だけじゃなく筆記試験と面接試験もあるから、魔法以外の勉強もバランス良く頑張りなさい。あなたたちが落ちたら、推薦状を書いた私まで恥をかくんだからね」


アレン 「はい!」


ジナン 「おうよ!」


 ローリィがバンクスを発った後、ジナンはアレンに喧嘩を吹っかけることが減り、魔法にも勉強にも今まで以上に熱心に取り組むようになった。そんなジナンに触発されながら、アレンも日々勉学と訓練にはげんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る