第13話 妙なところで

 ローリィが臨時家庭教師としてバーロン家に来てから3ヶ月が経ち、9月30日を迎えた。彼女がアレンたちに授業をする最後の日だ。


アレン 「うわぁ、まだ授業のごく一部しか描写されてないのに、唐突にナレーションで片付けられてしまった」


ローリィ 「これ以上は書いてもお話にならないものね。初歩的な魔法の補助は3週間で終わってその後は反復練習がメインだったし、大抵の座学も、考え方を理解した後は反射で答えを出せるようになるまで練習をくり返すだけだったわ。哲学と魔法理論はいくら進めても足りないけど、大学の講義みたいなもので、興味のないお客様には退屈よね」


「シーンが飛ばされた割に、朝から晩まで勉強と訓練けのハードスケジュールでしたけどね。我ながらよく乗り切ったものです。ローリィ先生の体力バイタリティもすごかったです。先生はいつもこうなんですか?」


「時間割は似たり寄ったりだけど、今までにないくらい早いテンポで進められたから、準備は大変だったかな。やっぱり中身が元社会人だと、話を聞いて理解するのも、概念や理論を覚えるのも、本当の12歳とは比べ物にならない早さね」


「ローリィ先生って、今までに何人くらい教えてきたんですか?」


「さあ? 数えたことないわ。どこも3ヶ月くらいしか指導しないから、結構な数にはなってると思うけどね」


「ミラー先生も休暇中は色々な場所をめぐりたいとおっしゃっていましたけど、この世界の家庭教師は、各地を飛び回りたい性分しょうぶんかたが多いんですか?」


「旅をするのも嫌いじゃないけど、旅好きというより旅せざるを得ないのよ。優秀な家庭教師であり続けるためには、各地を巡って最新の情報を仕入れたり、専門書や実験器具を買ったりする必要があるから、1つの場所にとどまってなんかいられないわ」


「ファンタジー世界なのに、妙なところでシビアですね」


「こういう設定にでもしておかないと、私がいつまでもこの家に居座いすわっちゃって、学園生活が始まらないからでしょ」


「なるほど。……いや、待ってください。それなら、家庭教師か学園生活のどちらかだけの方が、話としてはすっきりするんじゃ……?」


「どちらもやる流れになっている原因は、あなたが男爵家の三男に転生したせいね。森で隠居している賢者の養子とか、ド田舎の貧乏騎士の八男とかならともかく、仮にも男爵家のご子息様が、魔法はおろか貴族社会の常識も知らずに名門校に入学したところで、粗相そそうをしてボッチになるだけでしょ?

 あなたは親族にうとまれているわけでもないから、親御さんは当然、早い内から優秀な家庭教師を付けて教育をほどこしたいと思うわよね」


「今さらですけど、小学校か中学校じゃダメだったんですか?」


「ダメでしょ。あなたの中身は成人男性だから、小中学生ばかりの集団の中に入っても話が合わないし、ラッキースケベな展開を作ったら児童ポルノになっちゃうわ。

 時代を小分けにしてそれぞれの学生生活を描いても、俺TUEEEEにバリエーションが生まれるわけでもないし、話がマンネリ化するだけ。つまり、描写には手間がかかるのに、お客様はさほど楽しんでくれなくて、評論家レビュワーからは酷評されるのが目に見えてるわけ」


「いや、仲間やライバルたちとの出会いと別れ、主人公の苦悩と成長を描けば、ちゃんと面白い作品になるはずですよ。野球を始めた幼稚園の頃から始まって、メジャーリーガーを経て、帰国後に日本の球団で活躍するところまでえがかれた野球選手の例もあるんですから」


「うちのお客様はそういう、熱い友情とか、不屈の精神とかは求めてないの。脱力系で無自覚系でやれやれ系じゃないと、ナーロッパの主人公としては受けないわよ」


「『脱力系』、『無自覚系』、『やれやれ系』……? 何となくですが、リアルにいたらあまり友達になりたくないタイプじゃないですか?」


「まあね。ナーロッパ劇団でも、主人公以外でそういうキャラの話はめったに聞かないわ。いたとしても好意的には描かれない。作中最強の主人公がそういうふうに振る舞うのは良くても、最強になれないサブキャラや脇役がそういう振る舞いをするのは許されないんでしょうね」


「話を脇道に逸らしてすみません。今日はローリィ先生の最後の授業なんですよね?」


「そうなのよ。事前に男爵閣下と話し合っていたことだし、あなたたちにも散々予告してきたことだけど、私の授業は今日で終わりよ」


「今日は何をするんですか?」


「『今日は卒業試験をします』……というのが、ナーロッパではよくある流れだけど、魔法について教えるつもりだったことはもう教えちゃったし、あなたたち3人の学習態度にも不満はないから、別に今さら試験をする必要はないのよね。

 私だって、最終日までそういう不安が残るような教え方はしてないから、今まで教えたことをテストしても、『そりゃ、できるでしょうね』ってだけよ。

 といって、体が未成熟な時期に上級魔法を教えるのはリスキーだし……」


「体がだるくなるくらいなら、別に構いませんよ?」


「言ってなかったっけ? 子供の内に魔力を使いすぎたり、無理して高度な魔法を使っていたりすると、体を壊して才能を伸ばせなくなることがあるのよ」


「それは……たしかに避けたいですね」


「そうそう、今の内に言っておくわ。今日は昼過ぎには授業を終えるつもりよ。エルネストくんとジナンくんは自由時間にしてもらうけど、アレンくんはここに残っておいてね。最後に特別授業をするから」


「『特別授業』、ですか?」


「ええ。ビルベルの森で魔獣退治をするわよ」


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