11話:嘘と偽りと
「か、に!!!やったー!!」
「え、び!!!やった〜!!」
「何も言わないわ、えぇ、何も言わないわよ…」
食卓に並ぶ豪華なご飯。こんな所で出会えるとは、まさかのお刺身。蟹はもちろんカニカマではなくガチ蟹。海老は見るからに高級そうな巨大海老。というかここまで現実世界に食文化を似せているともう異世界設定の意味がない気がするのだが。
「ヒカリん〜、はい、あ〜ん」
「あーん!うん!美味しいよ!」
「海老もなかなかいいんさね〜」
「じゃあこっちの蟹もあげるね!」
メイロの眼前ではゆるい百合光景が展開されている。そのたびにメイロのフラストレーションが溜まっていく。
(くっ、このおっぱいにそんな顔して……幸せそうに………って何考えてんのよ私!)
「コノハ、私のお刺身もあげるわ」
「いいの!?ありがとう!」
「あ、あーん……」
「へ?」
「な!?い、嫌ならいいのよ…」
「ううん、嫌じゃない!ちょっとびっくりしただけ。メイロちゃんがそういうのやってくれるの珍しいなぁって」
「な!?」
無意識な嫉妬に駆られてついらしくないことをしてしまったようだ。果てしなく百合百合した尊い空間が形成されつつある。
「………………」
ふと何か考え込むリズ。
「どうかしたの?」
「ううん。なんでもないんよヒカリん♪いや〜尊いなぁって〜」
「な!?べべべべ別に私たちそういう関係じゃないわよ!!」
「わ〜、ご馳走さまだよ〜めーちゃん」
囃し立てるリズと、赤面するメイロ。何だかんだ相性はいいかもしれない。
「おまたせいたしました。パリスパレスパンとラクレットチーズ、ラム肉、そしてブドウジュースです。それからこちらサービスで高山野菜のサラダとなっております。ごゆっくりどうぞ」
ウェイターが丁寧に皿を並べていく。
「わー!!美味しそうだね!」
「リヒテンときたらチーズだからね〜、加えて高山野菜もなかなかのお味なんよ〜?」
「ワインみたいな香りのブドウジュースね」
「リヒテン原産のブドウを使ったブドウジュースさね〜。ワインは大人になってからなんよ〜。成長の秘訣なんよ〜。めーちゃんも飲めば育つかもしれないんよ〜?」
「殺してやるわ!!」
安い挑発に乗ったメイロ。うん、貧乳いいと思いますよ?
「わぁ!リズちゃん食べるの上手だ〜、なんか貴族みたい!」
「僕、こう見えていい家柄なんよ〜?まぁ没落しちゃったけどね〜」
そう言って器用にサラダを口に運んでいくリズ。その表情に、少しの寂寥が含まれていたことにも木葉は気付いた。なんでこう人の機微に敏感で、恋愛に関しては鈍感なんだろうか。
「さて、食事も終えたことだし。ちょっと温泉街を歩いてみましょうか」
「賛成!!リズちゃんもくる??」
「……」
リズはぽけーっとして、突然ハッとして反応する。
「あ、僕か。僕は、うーんどうしようかな〜」
「貴方一体何処に泊まっているの?」
「あ〜、宿は、うーん、まぁ……あはは〜」
「何故誤魔化すのよ…」
困ったように笑うリズ。
「う〜ん……取り敢えず付いていこうかな〜」
「やったー!!」
「…………」
その後、マッサージを受けたり、ダーツを楽しんだりして店を出た。
リヒテンの温泉街は夜に多くの人で賑わい、治安もかなり良い。憲兵の周回もやや目立つが。
「お友達と来てたの!?」
「う、うんそうなんよ〜。でもちょっと喧嘩しちゃってね〜」
「そっか……仲直りできると良いね」
「そう、だね……うん!暗い話しちゃったね〜いっぱい遊ぼっか〜!」
木葉の手を取るリズ。それに応える木葉と、イライラしながらついていくメイロ。まるで昔からの友達だったかのような光景がそこにはあった。
……
…………
……………………
「あざーしたー!!」
「さて、ちょっとお洒落な道具ポーチを買ったところで、温泉街散策と洒落込みましょうか」
「こんな小ちゃいのにいっぱい道具が入るんだもんね……魔法ってすごいなー」
「ヒカリんもめーちゃんもお金持ちなんだね〜。結構高いやつだよそれ〜」
「必要経費よ。ラクルゼーロで無駄に荷物が増えたからステータスポーチに入りきらなくなったのよ」
トゥリーたちのお土産である。大半は森の魔法少女パン…被らせるなっての。
「よ〜し、お土産屋さんいこう〜」
「あ、待ってよ!」
「ちょっ、なんで走るのよ!」
手近なお土産屋さんに入る木葉たち。
「なんか見たことないのがいっぱいある…」
何やら茶色の箱が置かれている。これは一体?
「ヒカリんこれ知らない?これは魔術時計っていうんだ〜、こうやってネジを回すと…」
「え、うわ、うわわ、すごい!」
箱が開き、切り絵のように時計が浮かび上がる。さらにネジを回すと、なにやら光の壁が浮かび上がり、箱を包み込んだ。そして…
「わ、雪が降ってる!」
「ほんとね…綺麗だわ」
「他のネジを回せば、ほら」
今度は壁の中に町の風景が映され、街路樹が赤に染まっていく。さらに動かすと、そこは夜の空間に。それでも時計部分は光っていた。
「これが魔術時計。ちょっとしたお遊び時計なんよ〜。時計都市リヒテンなんて第2の名前がつけられるくらいだからね〜」
「さ、流石ね…」
他にも珍しいものはたくさんあった。動いて踊り出す人形、空飛ぶ箒の模型、登場人物が飛び出して動く絵本、森の魔法少女パン……ここもかっ!!
「このネックレスも時計をイメージしたものなのね」
「そうだね〜。ヒカリんは何かロザリオをつけてるけど、それは満月教会のかな?」
「んー、多分?なんか気づいたら身についてて………髪飾りは何か懐かしい感じがするんだけど、こっちは本当に見覚えがないんだよね」
木葉が異世界転移した際に身についていた2つ目のアイテム、ロザリオ。一見キリスト教のものに見えなくもないが…
「ん〜何かお揃いのものでも買おっかな〜って思ってたんだけど…めーちゃんも綺麗な指輪してるしな〜既婚者?」
「ななな、だから!そういう関係ではないわ!」
「誰もヒカリんのことだなんて言ってないんよ〜〜ご馳走さま〜」
「ぐぬぬ…」
「でもそうだな〜あ、これとかどうかな〜?」
リズが手に取ったのは三枚のギアに宝石が埋め込まれたストラップだった。
「名前……彫ってもらえるのね」
「……あ」
「やめとく?」
「………ううん。構わないんよ〜」
少し逡巡したリズだったが、すぐに笑顔になって店員さんを呼んできた。楽しそうな三人、、だけどそこに刻まれる名前はそのうち2人は偽物で………まるで偽りの友情だと、心に刻みつけたようであった。
「蒸したパンだ〜なんだかお饅頭みたい!おひとつください!」
温泉街のとある石橋で3人仲良くパンを食べる。すっかり月が出て、それは水面に神々しく映っている。
「弓打ち、楽しかったね〜」
「メイロちゃん上手いよね!私全然ダメで…」
「あれくらい教えてあげられるわよ?」
先ほどまで木葉たちは、射的の弓バージョンを行なっていた。その際全発命中したメイロの手に渡った景品がこちら。
「…………森の魔法少女ぬいぐるみ」
「いいなー!!」
「あげるわ」
「え!?いいの!?ありがとうメイロちゃん!」
「要らないもの」
(中身知ってるから…)
中身がおっさんだと知っていてそれでもなお欲しいとはならない。抱きしめる際に相当な葛藤が起こるだろう。
「楽しかったな〜」
「ほんと!?よかったよ!」
「あはは。僕ね、あんまりこうやって同年代の子と遊んだことないんよ〜。こんな風に友達になれた子だって………」
「……………そっか。うん、リズちゃんと友達になれて良かった!」
「私は友達ではないわ」
「む〜、めーちゃんはツンデレさんだな〜」
「誰がツンデレよ」
「ほっぺ、パンのカスついてるよ〜?」
「なっ!ど、どこに……………リズ、騙したわね?」
「慌てるめーちゃん可愛いんよ〜」
涼しい風が吹く。周辺の草木が揺れて、さらさらと心地よい音が聞こえてくる。
「ふぁぁ、眠くなってきちゃったよ」
「そう……じゃあ、そろそろ宿に戻りましょうか。リズ、あなたは……」
「んー、僕も宿に戻るよ〜。今日は楽しかったよ、ありがとね〜」
「あの、出来れば宿の位置を聞いておきたいんだけど……」
「うーん、直ぐに会えるはずだから大丈夫だよ〜。それに僕、ちょっと用事を思い出したから」
そう言ってリズは、東の空を見上げた。向こうには………時計塔?
「じゃあ、またね」
そう言って走り出すリズ。何か急いでいる様子だった。
「え、あっ、ちょっと!リズちゃん!!………行っちゃった…」
「……何かあったのかしらね。まぁ、私達には関係のない話だわ。あの子、嘘ばっかりだったもの」
「…気づいてたんだね」
「えぇ、リズって名前も偽名でしょうね。嘘が下手よ…全く」
「うん…………あ、あれ?これって……」
先ほど木葉たちが購入したギアのストラップ。1枚目のギアには、『リズ』と刻まれている。
「あの子かなりアホね……ったく追いかけるわよ」
「え、う、うん、そだね…」
木葉は走りながら考える。リズが走り出して直ぐ、微かに聞こえた声を。
(「さよなら」って言ってた。ここでお別れなんてやだよ、絶対)
ぎゅっと拳を握りしめて、メイロの後についていく。月はもう、雲にかくれてしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます