3話:ギルド会館
「ああぁん!もう、コノハちゃん何着せても本当に似合うわぁ!!」
「トゥリー、これなんかどう!?メイドさんの服を着せて『いらっしゃいませ、ご主人様』!とか!」
「いい、いいわ!」
異世界にメイド萌えの文化が生まれた瞬間だった。かなり古いが…
「あ、あははは」
「……可愛い」
「へ?」
「な、なんでもないわ」
木葉は今、トゥリーの家で着せ替え人形となっていた。さぁお馴染みの回想シーンから行ってみよう
[回想]
「お風呂あがったよー!いいお湯だったー!」
「そう。あれだけ食べてよくすぐに湯船に浸かれるわね。凄い勢いで蟹をもいでたわよね?」
「また食べたくなって来ちゃうからやめてよ〜!」
「取り敢えず早く着替えなさい。そこの野獣どもが貴方を襲わないうちに」
「ふぇ?」
タオルを巻いて風呂場から出てきた木葉をじーっと見つめる影が10〜20。ここはトゥリー・カルメンの家である。祖母がフォレストだからなんとなくわかっていたが、かなりの名家のようでだいぶ豪華な家だった。両親は…
「娘の恩人なら良いものをご馳走しなくては!」
とシェフに物凄い食事を作らせていた。生贄の少女たちも多く招待されており、すでにダイニングは大学生たちの打ち上げ会場みたいな雰囲気になっている。
「プチパーティーだね。何から食べよっかな〜」
「まぁ貴方なら蟹安定でしょうね。悩みながらその足は既に蟹の前に……」
「はっ!!流石蟹さん………この溢れ出るコスモと謎の引力が……」
「私はなぜこんな茶番に付き合っているのかしら……」
蟹座の聖闘○……なんでもないです。
と、食事を終えて風呂に入り上がってきて今に至るのだが、その風呂もなかなか大きくてびっくりしてしまった。
(ていうか、近世風なのに一家にお風呂あるんだね…。色々元の世界と時代錯誤してる気がするんだけど、まぁ異世界だしいっか♪)
「上がったよー」
[はい回想終わり]回想するほどのことでもねぇや。
「パジャマ姿!!尊い、尊いわ!この溢れ出る思いは何かしら?」
「ほとばしる熱いパトスよ」
「いえ、愛よ!恋ではなく愛だわ!」
「うぁ、すーすーする…」
木葉が恥ずかしそうに裾を摘まみ上げる。この時代の寝巻きは大分セクスィーらしい。お風呂上がりのお姉さま方の容赦ない爆弾ボディーが木葉に炸裂する。
「うん、似合う!似合うわコノハちゃん!あとはリボンを結んでお持ち帰りよ!」
「トゥリーさんの家ここなのに」
「じゃあ私の部屋までお持ち帰りぃぃい!」
「やっ!むぎゅぅう…ぐるじぃ…」
おっぱいサンドで呼吸困難になる木葉。このままだとお持ち帰りされた上にお姉様方に美味しく頂かれてしまいかねないので、メイロがストップをかける。
「ダメです、、過度な接触は厳禁よ」
「私アイドルか何かになった気分だよ…」
「あははは、冗談だよぉ。コノハちゃんのお部屋はちゃんと用意してあるし、メイロちゃんもお部屋すぐそこだから使ってね!」
「全然冗談に見えない目をして居たわよ」
その後は結局お姉様方によって着せ替え人形として思う存分可愛がられて、お眠になってメイロに担がれて眠りについてしまった。女子大生怖えー
……
…………
……………………
「すごーーい!!」
「たーのしー……うっ、この記憶は何かしら…」
電波ジャックか何かじゃないすかね?
木葉とメイロ、そしてトゥリー達女子大生組はラクルゼーロの街に買い物に来ていた。ギルド会館には夕方お邪魔することになっているため、案外ゆるゆると買い物ができる。
「キャラクター飴があるよ!なんだろこのキャラ??」
「それは【森の魔法少女ちゃん】よ。ラクルゼーロの大人気マスコットなの。ふむ………今日はいないわね」
「え、着ぐるみがあるいてるの??ていうかこれネコの姿してるのに魔法少女?」
木葉が購入した緑色の飴。何やら猫をモチーフにした飴なのだが、これが森の魔法少女というのは?
「その猫は仮の姿、、変身するととてもキュートな女の子が、敵をバッタバッタとなぎ倒すっていう絵本のキャラクターなの。因みに青リンゴ味!」
「へぇ〜会ってみたいな。あ、美味しい!」
出店は物珍しい食べ物がたくさん売られていた。内陸の方この街は、魚介類がなかなか入って来づらい一方で山の幸はかなり豊富だ。
「あ、メイロちゃんみてこれ!」
「ん?何かしら、、悪魔?」
「かな?すっごく怖いの」
真っ黒な顔に大きくて真っ赤な目。怒ったように口から見せる牙と、頭には二本のツノ。悪魔のような、鬼のような、不思議なお面だった。子供が書いたような不気味さがあるが、どうやらこの街の芸術家の作品らしい。というか、この売ってる人の作品らしい。
「通気性もいいし、視界も悪くならない優れもの!よし、これにしよう!」
「え、まさか買うの?」
「うん。これでもし戦いの最中にクラスの子達に出会っても、私だと分からないでしょ?正義の鬼仮面!!みたいな」
「まぁいいわ………って高っ…」
銀貨20枚……。一応説明しておこう。この神聖パルシア王国では、金貨銀貨銅貨の3つが使用されている。銅貨100枚で銀貨に、銀貨100枚で金貨に換算できるという簡単システムだ。異世界転移初心者にもわかりやすい。日本円で例えるなら銅貨一枚は10円、銀貨一枚は千円ということになる。ドルで例える場合は朝のNHKの為替相場でも見て頂きたい。
ちなみに金貨に初代国王:パルシアの肖像画。銀貨には太古の龍神:【ラグナロク】。銅貨には満月教会:フォルトナの絵が描かれている。帝国や連合王国まで行くと通貨は変わってくるため、パルシアのみでの使用が可能だ。
「ドロップした金貨が底を尽きる前に換金所に行かなきゃね……こら騒がない」
「やったー!!かっこいいなぁ!」
「あとで魔法をかけて視界が悪くならないようにしましょう。そんなので戦闘力が落ちたら溜まったもんじゃないわ」
「落ちないもん。でも念のためお願い」
……
…………
…………………
「ドロップした古代の甲冑………思いの外値がついたわね」
「重かったね〜。錆臭いし、金貨20枚に換金なんて良かったのかな?」
ラクルゼーロの繁華街、さらに市議会堂の方まで行くとさらなる賑わいを見せていた。
すると、木葉の視界があるものを捉えた。
「あー!!!森の魔法少女さん!?」
そう、子供達に囲まれて焦っている着ぐるみ猫、ラクルゼーロ名物:森の魔法少女だ。
「ちょっ、コノハ!!」
「握手おねがいしまーーーす!!」
森の魔法少女は一瞬ビクッとなったが、喜んで握手に応じてくれた。風船まで頂きました。中から謎のおっさんボイスが聞こえたのは割愛します。割愛……します。
「一目見た時から可愛いって思ってたんです!!」
と、美少女に言われて喜ばないおっさ……着ぐるみはいない。たとえそれが仮の姿であっても、子供達の夢を壊さぬよう今日も着ぐるみは頑張るのである。お仕事、お疲れ様です。
その後はラクルゼーロ名物料理を食べたり、美術館や博物館を回ったりしてぶらぶら観光し、気づけば夕方になっていた。
「さて、ついたわねギルド会館」
ギルド会館とは、基本的に大都市に設置されているギルド統括の機関だ。街のギルドの金庫や倉庫、資料等が管理されている他、クエストの受注の担当もしている。冒険者たちはまずギルドで【タグ】というものが配られる。先にレガート団長が説明したが、クエストをこなして行くうちにそのタグは上位化していく。上から
金月(きんげつ)
銀月(ぎんげつ)
銅月(どうげつ)
紫月(しげつ)
蒼月(せいげつ)
翠月(すいげつ)
黄月(おうげつ)
橙月(とうげつ)
紅月(こうげつ)
白月(はくげつ)
となっている。金銀銅は定番として、その下は虹の寒色系から強くなっていくと考えれば簡単だ。この10段階評価はクエスト受注に大きく関係し、このタグカラー以上でなくては受注できないというクエストは多い。
パルシア王国はこのタグカラー制度で王宮警備を選別している。近衛騎士団は全員が翠月(すいげつ)以上の冒険者たちを【騎士】としてカテゴライズして王宮に付かせている。また、中央地方問わずに、王国への正規兵として入るには橙月以上が必須条件だ。彼らは各駐屯地の警備を行う一方、依頼を受ければ冒険者として各地域の魔族討伐に赴くこともある。
王国が戦争で使うのは7割方傭兵であり、直轄騎士の数は少ない。それこそ王都を守護する7将軍の兵団が即応部隊として各方面軍の指揮系統を担う形で戦争が成り立っている。
「お邪魔しまーす!!」
ギルド会館には大勢の人が集まって飲み食いをしていた。酒場も併設しているらしい。飲んだくれたちがヤジを飛ばしてくるのは日常茶飯事だ。
「おぉ!可愛い子が来たぞ!!おい誰の恋人だい??」
「俺の相手してくれや!まさか冒険者ってこたぁあるめえ?」
「ぎゃはははは!おかわりぃ!!」
「下品な場所ね……」
「面白い人達だね〜」
と、酔っ払いではなく優男風の男が1人寄って来た。ポンと木葉の肩に手を置く。
「君、可愛いねぇ。どうだい?僕、そういうテクには自信あるんだ」
「てく?」
「見たところ君は白月級の駆け出しちゃんだろう?冒険者なんて危ない事はやめて、女の子として幸せになるのもいいと思うんだ。どうかな?」
「うーん、でも呼ばれて来てるんだよね……ごめんね、イケメンのお兄さん」
木葉が微笑む。優男風の奴は少し驚いた顔をして、それから少し赤くなっていた
「困ったな、遊びのつもりで声をかけたのに………滅茶苦茶可愛いじゃん(ボソッ」
「へ?」
「いやぁ、なんでもないさ。僕はエゼル。翠月級の双剣士さ。どなたに呼ばれて来ているのかな?僕と少し楽しんでからでも遅くはないのではないかい?」
「たのしむ??」
全く意図がわからずにはてなマークを飛ばす木葉とエゼルの間にメイロが割り込みをかける。
「やめてくれるかしら。私たちは先約があるの。コノハにナンパとはいい度胸ね」
「おや、君も可愛い駆け出しちゃんかい?君たちみたいな子が死んじゃうのは見ていられないのさ。僕は可愛い女の子が自信に満ちて冒険に出て、ひどい目にあった例をいくつも知っているからねぇ。あぁ、それともここに男を探しに来たのかい?だったら僕が立候補したいなぁ。2人揃って可愛がってあげるよ」
メイロがため息をつく。全く話が通じない。まぁ白月級で、しかも美少女な木葉とメイロにこのように絡んでくるのも仕方ないとも言えるのだが。
「おうそうだそうだ!!ここはガキが来るとこじゃねぇぞ!!なんなら俺が抱いてやるから、そしたら帰れ!!」
「コノハちゃんって言うんだ〜!マジで可愛くね??ちょっと一発ヤらせてよ〜」
「身体の発育も悪くねぇ。誰か落としてこいよ、またエゼルにとられちまうぜ?」
「コノハちゃんやめとけー!エゼルはヤるだけやったら捨てるクソ野郎で有名だぜ??」
と、酒場の冒険者たちが口々に喚く。だいぶ酔ってはいるが、そのタグカラーは橙月が多数。たしかに木葉たちよりは上である。
「そこいらでやめとけお前ら」
ホールに髭面の男が入ってくる。身長190を優に超える大男の顔はこれまた無愛想なものだった。
「ラクルゼーロのギルド会館へようこそ駆け出し冒険者。まずは手続きからだ、そこに受付嬢がいるから手続きを……」
「必要ないわ。呼ばれているのだけど、色々と伝わっていないみたいね。それと、貴方は?」
「おいおい嬢ちゃん、やけに肝が座ってやがんじゃねぇか。俺ぁ、ラクルゼーロ戦闘系ギルド【餓狼の巣穴】のギルドマスターのシドだ。そこのナンパ男もうちのギルドの一員だ。そんで?お前ら誰に呼ばれてんだよ」
「アタシさ」
奥の部屋からしわがれた声が聞こえたと思うと、ドアの向こうから歩いて来たのは、、
「カルメン様、貴方でしたか」
緑の賢者:フォレスト・カルメン。ラクルゼーロ大学の学長にして、ラクルゼーロ市の市長さえ凌ぐ権力者である。
「となると、こちらが例の少女たち?俄かには信じられないのだが」
「一応外見まで伝えていただろう?ったく、すまなかったね嬢ちゃんたち」
「全くね。意思疎通は大事よ」
メイロが呆れたように言う。シドは値踏みをするようにメイロや木葉を眺めて来た。
「ほぉ。こんな嬢ちゃんたちがねぇ。黒猿を屠ったか………信じられねぇな。しかも白月級。カルメン様だって直接見たわけじゃねぇんだろ?俺はデマに一票だな」
「コノハちゃんたちは本当に私を助けてくれたのよ!?」
トゥリーが前に出て抗議する。しかしそれをみた冒険者たちは、口々に
「ははは!おもしれぇ冗談だな!!一発でゴブリンにやられて凌辱される未来が見えるぜ??なんなら俺が買い取ってやろうか?」
「いい身体してるからな、死んじまうのは惜しいぜ。なぁ、ヤろうぜ〜?」
と、下品なヤジを飛ばしてくる。コイツらそれしか興味ねぇのか
「ったくお前らは。取り敢えず嬢ちゃんたち中に入りな?多分そろそろ討伐組が帰ってくるからまた騒がしく………」
フォレストがそう言いかけた途端、ギルド会館のドアが大きな音を立てて開かれた。
「ほら、噂をすれば」
入って来たのは数名の冒険者たちだったが、皆暗い顔をしている。怪我をしたものも多数いるようだ。
「おや、どうしたんだいお前さんら。だいたい、フルーラはどうしたんだい?」
「……そのフルーラが行方不明です。他にもフルーラについていった冒険者数名が消息を絶っていて…。我々は撤退中、ゴブリンの大部隊に襲われて、こうなりました。面目次第もございません」
冒険者の男たちが申し訳なさそうに言う。
「それと、近隣のナカゴ村がゴブリン軍によって襲撃を受け、壊滅していました。それについての討伐依頼を本格的に出した方が良さそうです」
「ふぅむ。そうだねぇ。じゃあ餓狼の巣穴が主体となって討伐隊を組んでもらってもいいかい?フルーラに限ってその辺のゴブリンに殺されてるなんてこたぁないだろうけど、山中で身を隠して動けなくなっているかもしれないから、彼女の捜索も頼むよ、シド」
「わかった。聞いたか野郎ども!テメェらに依頼だ。ゴブリン一体につき銀貨5枚だ。滅茶苦茶うめぇ話だろう??数合わせのために若えのも参加しろ!!」
酒を飲んでいた冒険者たちがめんどくさそうに立ち上がる。ゴブリンとは最弱のモンスターといっても過言ではなく、ただ卑怯で頭が回るだけの雑魚という認識が蔓延している。よく駆け出しの冒険者が殺されるという話は広まっているが、彼らには自信があった。何せその旅路で何度もはぐれゴブリンを殺しているのだ。
「そうだ、、嬢ちゃんたちも参加しろ。安心しろよ、白月級だけど先輩たちが守ってくれるさ。経験を積むのもいいことだぜ?」
「私たちはゴブリンにやられるほど弱くないのだけど」
「白月級は大抵そういう。自分に自信がありすぎて、あっさりと命を落とすもんだ。いいか?自惚れるなよ嬢ちゃん。この世界はそんな甘くねぇんだよ」
「だから私は……」
メイロがイラっとして尚も言い募ろうとするが、それを木葉に止められる。木葉はにっこりと微笑むと、シドに対して
「分かりました。シドさんたちについていくので、宜しくお願いします!」
と言った。
「おう、素直な嬢ちゃんは長生きするぜ。ま、俺たちの活躍を見ててくれや。見るのも立派な経験さ、ワッハッハ!」
シドは豪快に笑うと、冒険者たちに号令をかけ、何やら談笑しながら奥の部屋へと入っていった。
「………コノハ」
「メイロちゃん。ここはあんまり波風立てないでおこ?私たちの見た目じゃ、こうなるのは仕方ないよ」
「でも私は、、貴方が侮られるのに納得できない」
「メイロちゃん……」
メイロは悔しそうに拳を握りしめた。そんなメイロにゆっくりと歩みを進める木葉。その手を伸ばし、細い体を抱きしめた。
「な!?コノハ!?」
「ありがとね、メイロちゃん。私のために怒ってくれて」
「べ、別に全部貴方のためというわけでもないわ!私が悔しいっていうのもあるし、だから……」
「うん、ありがと。えへへ、メイロちゃんいい匂い♪」
「な、ななな、ななな!?」
顔を真っ赤にして木葉から後ずさるメイロ。こういうスキンシップには慣れていないらしい。
微笑ましい2人に、フォレストが歩み寄る。
「すまないね。というか、アンタのステータスを見せてやれば良かったんだが、こうなると今から見せると無駄なトラブルを起こしかねない。取り敢えず、帰って来てからゆっくりステータスをシドに見せておやり。その上で正式に依頼を受けて、上り詰めて欲しいね」
「あはは、そうします。えーっと、フォレストさんもすみません。なんか色々トラブっちゃって」
「いや、アタシが悪いさ。強いものは正当にその評価を受けるべきだよ。それと、なるべくアイツらを助けてやっておくれ。もし何かあったらの場合だが」
「わかりました!じゃあ準備しよっか、メイロちゃん!」
しぶしぶ頷いたメイロ。まずは装備品から備えなくては……
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