4話:ゴブリン討伐クエスト
木葉たちはまず回復アイテムから揃えた。まぁ魔法を使えば回復はできるのだが、そう毎回魔力を使ってもいられない。実際魔力は腐るほどあるのだから問題ないが、木葉たちは目立ちたくないのだ。ここに、フォレストが公衆の面前で木葉のステータスを明かさなかった理由がみえる。
「お前さんらの見た目でそのレベルというのはどうしても奇異の目で見られる。まだ有名な戦果もないんだ、、捏造の疑いを持たれて嫌なトラブルに巻き込まれる可能性が高い。なるべくシドたち有力者のみだけに知らせたかったのだけど………まさかこんなことになるとはねぇ」
とのこと。つまり、一定の戦果を挙げて認められることが重要なのだ。それまでは無用にステータスを引け散らかすのは得策ではない。
せめてシドあたりには見せておきたかったが、彼は彼で側近たちと部屋に篭ってしまった。もともと自由気質な彼は、フォレストのこともそこまで信頼しているわけではない。寧ろ少し疎ましくさえ思っている。
と、いうことで木葉たちは【ポーション】なるものを購入した。体力を回復したり、魔力を回復したりと様々な種類を持つ回復系アイテムがポーションだ。上位のポーションとなるとそれなりに値は張るが、その辺はフォレストの口利きでかなり安くなった。
また、2人はフォレストから【矢避け】のスキルを授かることとなった。発動時の3秒間は飛んでくる矢が外れるようになるスキルだ。レベル上位の人間しか得ることはできないが、2人ともレベル70を超えているため習得に支障はなかった。で、その際ギルド会館内のフォレストの部屋に行ったのだが……
「森の魔法少女さん!?」
「むぐっ!」
何故か森の魔法少女がフォレストの部屋にいた。
「わぁぁぁあ!!スベスベだー!!可愛いー!」
「もご、もごご」
「ちょ、コノハ…」
森の魔法少女に夢中な木葉。まぁたしかにビジュアルは可愛らしい。呆れるメイロに、フォレストが耳打ちする。
「もしかしてあの子、中に人がいることを知らないのかい?」
「まぁ夢を見ているのよね。で、誰なの?中身」
「ラクルゼーロ市の市長さ」
「は!?」
まさかのである。
「ああやって公務の息抜きに着ぐるみ被って子供達と触れ合っているのさ。それを知る大人たちからすれば、仕事しろって話だけどねえ。でも、そういうのが今の市長の人気の要因なのさ」
「ロリコンかなんかなの?つまり中身はおじさんってこと?」
「おや、なんで男だと?」
「ポスター的なのを見たわ。あと、さりげなく仕草がおじさん臭いのよ。着ぐるみ被っててもコノハを若干いやらしい目で見ているのがわかるわ。殺していいかしら?」
「まぁ勘弁してやっておくれよ。あんな可愛らしい少女がスリスリと迫ってくるんだ。ああなる方が自然だよ。彼だって分別はあるし、賢い男さ。好きにさせてやっておくれ」
「本気で言ってるのなら笑い種よ。兎に角引き剥がすわ。コノハ!装備品の確認をするからソレから離れなさい」
「むー!!もうちょっと遊ぶ!!」
「子供なの?ほら、やるわよ」
体力回復系、状態異常回復系のポーションや耐久ローブ、そして呼びの短剣など。まぁコノハの『瑪瑙(めのう)』や、メイロの氷の杖 (名前は『凍華(とうか)の杖』というらしいが)は、秘宝級のアイテムだと判明したため、そう簡単に破壊されることはないだろう。それが分かった時、フォレストはますます2人に興味が湧いた。
(突如現れた2人の最強。最強のステータスに最強のアイテム。なかなかに面白い。お手並み、拝見させてもらおうじゃないか)
「帰ってきたら、色々調べたいんでね。ちゃんと帰ってくるんだよ」
「当然よ。フラグ建てようが100%帰ってくることを保証するわ。他の人はどうか知らないけど」
「…………何か、感じ取っているのかい?」
「嫌な予感がする。他の冒険者たちも、相手が雑魚だからって浮かれてるわ。正直貴方についてきて欲しいくらいなのだけど」
メイロは真剣にフォレストをまっすぐ見つめる。
「……すまないね。アタシもやることがたくさんあるのさ。それに、血気盛んな若者を止める力は、もうアタシにはないんだよ。嫌な気配が読み取れなくなるほど、アタシは耄碌したのかねぇ」
「貴方は今、トゥリーが帰ってきたことでその心がいっぱいのはずよ。色々と本調子とは言い難い。まぁ、私たちは目の前の敵を倒すだけよ。あまり心配しなくていいわ」
「そうかい。じゃあ、行っておいで」
……
…………
…………………
街の入り口の門には200名近い冒険者たちが集っていた。皆固そうな鎧や強そうな武器を持ち、それぞれを自慢し合っている。
木葉は、というといつもの黒の和服、そして頭には先ほどのお面が被せられていた。顔は出してある。
「紐も強いのにしたんだ〜。かっこいい?」
「可愛いわ」
「えぇ!?」
「な、なんでもないわ。忘れて」
思わず本音が出てしまった。木葉に対して割とクールに振舞ってはいるが、木葉の可愛さにメイロは内心心臓ばくばくだった。
(なんなのよこの気持ち……く、クールな表情が崩れる…)
まぁ15歳の少女なのだ。大人っぽく見えてその辺は年相応である。
「諸君、聞けぃ!!これより我ら戦闘系ギルド連合は、アザール山付近のゴブリン軍の退治に向かう!一体ごとに銀貨5枚だ。美味え話だろう??おら、気合い入れて行くぞ!」
「「「「おぅ!!!」」」」
シドを隊長として、ラクルゼーロの冒険者たちが進軍する。今回ラクルゼーロに駐在する王国軍は出動していない。あくまでこの手の問題はギルド側が解決するのだ。
とは言え、別個で周辺地域の貴族らの私兵団も動いている。手柄に目が眩んだのだろう。既にギルド連合より先にアザール山へと入ったそうだ。若い貴族らは武勇伝を欲しており、少しでも手柄をあげようと必至だ。社交界の話の種になったりもする。故に、シドは少し焦っていた。
(フルーラ救出を貴族らに先を越されたらこちらのメンツにも関わる。無論ゴブリン退治もだ。確か500近い兵団が攻め入ったと聞いたが、貴族のもつ傭兵など高くても橙月級。取るに足らん。負けてはおられぬ)
と、シドは少しペースを早めて先頭に立って進軍して行った。
一方木葉たち白月級の駆け出し冒険者諸君は後方に回されている。血気盛んな駆け出しはなぜか先鋒となっているが、木葉たちはやる気なしとみなされたのだろう。後ろの子たちとのほほんと世間話をしている木葉をみて、メイロも毒気が抜かれて行く。木葉のコミュ力はかなり高いのだ。
「コノハちゃんのその服可愛いね!!」
「ありがとう!貴方のローブも綺麗だね!戦闘用なの??」
「ううん。これは形見なの。これをきているとなんだか生きて帰れそうな気がして…」
「え、でも防御とか…」
「ベテランの人たちの戦いを見るだけだもの。要らなくないかな?」
「え、あ、あはは、そう、なのかな?」
その様子をみて、メイロは思う
(やはり、油断しすぎてる。前の人たちもこんな調子じゃないといいけど)
中間層もピクニック気分のようだ。とは言え彼らも20年近く冒険者をしているベテラン。いざとなれば戦闘態勢に入ることができる。
その中間層から、1人の男が後ろにやってきた。優男風ナンパ野郎、エゼルだ。
「やぁ、コノハちゃんさっきぶりだね!」
「ん?エゼル、さんだっけ?うん、さっきぶりです!」
「あはは、面白い格好をしているね。これが終わったら僕のベッドまで来ないかい?サラやリサも一緒なんだが、彼女らもきっと君を気にいると思うよ」
「べっど?お泊まり?」
「あはは、そうだね。みんなでお泊まりをするんだ。親睦会みたいなものだよ」
「へー!」
「騙されないでコノハ。この屑は貴方を食べる気よ」
「え!?食べられるの!?痛そう…」
「あー、別の意味でね。コノハがイメージしてる残酷描写は出て来ないわ」
「せい、てき?」
「くっ、決定的に性知識が欠如しているわ…」
事実、木葉はまだ未経験である。保健体育の成績もイマイチよろしくないという、まだピュアハートの持ち主なのだ。剣道一筋だった、というのが原因だが。
「メイロちゃん、君もどうだい?」
「遠慮しておくわ」
「そうか。まぁ、この戦いで僕の活躍ぶりをみてから判断してもらっても構わないさ。うっかり惚れてしまったら、いつでも言ってくれ」
エゼルは木葉の耳元に近づき、囁いた
「僕が君を、気持ちよくさせてあげるから、さ☆」
「??」
キメ顔だったが、伝わらなかった。
「それじゃ、また後でね」
「うん、ばいばーい!!」
エゼルが前列に戻って行く。
「面白い人だよね〜」
「鳥肌が立ちそうなくらい気持ち悪いわね、、塩でも巻いて置こうかしら」
「前の方のおじさん達もすっごく楽しそう!お酒呑んでるのかな?」
「コノハ、貴方よくそんな笑ってられるわね」
「えー、なんか親戚の集まりみたいで楽しくないかな?」
「いやな親戚ね」
「でも私の親戚もこんな感じだったよ?なんかお顔真っ赤にして、『木葉ちゃんが成長したら楽しみだなぁ。その時は、おじさんが……ぐひひ』って言ってたけど、なんだったんだろ」
「………貴方、こっちの世界に来て正解かもしれないわ」
純真無垢な美少女が、親戚のおじさんに色々教え込まれて最後は………同人誌向けですね。
「そういえば、フルーラさんって誰なの?」
木葉が先ほど仲良くなった年上の女の子に尋ねる。
「うん、とーってもかっこいい女性の冒険者なの!レイピアを振るえばラクルゼーロ1の剣士かな。シドさんに次いで2人目の蒼月級の冒険者。ギルド:餓狼の巣穴の切込隊長みたいな人なんだ!」
「へ〜!かっこよさそう!」
「ラクルゼーロ女子の憧れの人だよ。今回はラクルゼーロ大学の学生はあんまり参加できなかったけど、ファンも多いんだよ」
「あ、そういえばあんまりいないね、大学生の人たち。強い人おおいんでしょ?」
見渡した限りでは、30代以上の冒険者が多く、駆け出しとしても20代が多い。大学生らしき人たちは見つからないが…
「大学生は国の宝だからね。戦闘技術が高くても卒業まではあまりクエストには行かないんだ。ぶっちゃけここにいる人たちより大学生たちの方が強いなんて話も聞くけど、こればかりは仕方ないよね」
その後も暫く談笑していると、アザール山の麓までたどり着いた。襲われたナカゴ村である。
「酷いね……」
「村人たちは避難した人もいれば、逃げ遅れた人もいるみたいね。ゴブリンは女性を連れ去る傾向があるから、、」
前の方が慌ただしくなって来た。何事だろうか?
「斥候からの報告です。森の方にいくつか死体が転がっています。おそらく、逃げて来た私兵団のものと思われます」
それを聞いて、シドはほくそ笑んだ。
(貴族のバカ連中が功を焦って罠にハマったか?山の中腹までいけばゴブリンの巣があるとみて間違いなさそうだな)
「よし、進むぞ。幸い天気も良い。貴族の馬鹿どもが死のうが知ったことじゃねぇ。手柄は俺らのもんだ!」
「「「おう!!」」」
……
…………
…………………
森も随分と深くなり、動物の姿も見えなくなって来た。荷馬車がだんだんと通りづらいぬかるんだ地面になってきていた。
「しかし、なかなかゴブリンの奴ら出て来ませんね。貴族連中の姿も見えませんし」
「あぁ、妙だな。所々血の跡が見えるから、この辺でも戦闘があったと思うんだが……」
「ゴブリンが死体でも持ち帰ったんじゃないのか?」
「なんのために?」
「大体、あいつらにそんな知恵があるか?」
「俺ゴブリン詳しくねぇんだよなぁ」
「コノハ………気づいてる?」
「うん、いるね。近くに。それも、結構強そうなのが」
木葉は気づいている。前方からもそうだが、後方からもいやな予感がする。そして、さらに前に進むと、そこはゴブリンたちの砦の門があった。
「おぅし!攻めるか。手柄はお前らのもんだ。一番乗りは誰だ??」
「俺が!」
「いや、俺が!」
「私が!」
「よぉしわかった。お前ら新人のやる気はよくわかった。だが、まずはベテランが行こう。ベック、斥候は帰ってこねぇのか?」
「おそらく、先に砦に入ったかと思われますがねぇ。戦闘の気配がしねぇな」
「やられたのか?んなわけねえか。よし、ベックお前が先陣を切れ!」
「おうよ」
木葉は思案する。
(あまりにも地形が良くない。両脇が崖、前方はゴブリンの砦。後方は、、この様子だとやっぱり絶たれてるかな?考えすぎ?ううん、そんなことない。でもこれくらいベテランなら気付いてるよね?まさかこのまま突撃なんてしないと思うけど……)
しかしベテランの冒険者でも、この気配は察知できない。なぜならこれは、木葉の高レベルスキル《察知》によるものだからだ。加えて、冒険者たちは、ゴブリンが統率など取れるはずがないとタカをくくっている。
「メイロちゃん……」
「コノハ、私が後方を叩くわ。多分、囲まれてる」
「ベテランの人たちは気づいてないのかな?このまま砦に向かってるみたいなんだけど」
「蒼月級のシド辺りは気づいてもいいはずだけど、、血気に逸ってるわね。こういうのはおそらく件のフルーラが担当だったのでしょう。それが不在の今、おそらく気づいている人は………いない」
「そんな!!私、前に………」
「ギルド連合!すすめぇぇぇえ!!」
「ぉぉぉおおおお!!」
「進め!進め!!」
「手柄は俺のもんだぁぁぁあ!!」
戦闘が始まったようだ。
「そんな……まさか正面から?」
「メイロちゃん、もう時間がない。先ずは後方を………」
その時、木葉めがけて多数の矢が降り注いだ。
「コノハ!!!」
その矢は木葉の頭にめがけて一直線に突き進んでいき、そして…………
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