2章:砂漠の檻で少女たちは踊る (全員39話)

1話:あの森を越えて

トンネルを抜けるとそこは………




「…ん、まぶしい」

「お日様の下、きたぁあ!!」


愛しの太陽。久しぶりの日光が木葉に降り注ぐ。


「まぶしい…」

「布を下ろしなさい。あんまり熱気を中に入れたくないから」

「わかった!」


レスピーガ地下迷宮の外は森林地帯となっていて、見たことない植物、どっかで見たような植物がわんさか集まっていた。


連れ去られてから1ヶ月半、漸く木葉は太陽の下に出ることができたのだ。星空の間で見つけたなんかの肉の燻製を齧りながら、木葉は地図を開く。これも星空の間からくすねてきたものだ。


「サンクリュー森林地帯を抜けて、街道をまっすぐ進めば学術都市:【ラクルゼーロ】に着くね。中立都市:リヒテンはその先だけど…」


すると、木葉の後方の荷台に乗っていた女が手をビシッとあげる。


「はい!私そこ在住です!」

「わ、私も!何かお礼がしたいから、寄って行ってほしいな!」

「私たちの大学、【ラクルゼーロ大学】に顔を出して欲しいの!歓迎するわ!」

「ラクルゼーロ大学??」


それも星空の間の本で読んだような気がする、と首をかしげる木葉。メイロがすかさず解説する。


「学術都市:ラクルゼーロに存在する王国屈指の名門大学:ラクルゼーロ大学ね。学生自治といった自由な校風で数多くの有名人を輩出しているわ。学長が【緑の賢者】ということでも有名だったかしら」

「すごい!なんで知ってるの!?」

「本で読んだわ……貴方と一緒に」

「う、うそ…」


忘れるのが早すぎるのさ。………おっと、先ほど手を挙げた女性がぐいっと身を乗り出す。危ないのでやめてください。


「私トゥリー!トゥリー・カルメン!ラクルゼーロ大学法学部の4年生。緑の賢者:フォレスト・カルメンは私のお婆ちゃんよ!お婆ちゃんにもあって欲しいの!」


えっへんという顔でトゥリーは言った。危ないってば〜


「どうする?メイロちゃん」

「いいんじゃないかしら?別に中立都市に急いで行きたいというわけでもないし。それに、ラクルゼーロには【ギルド会館】もあるからそこで色々準備したいわ」

「わかった!じゃあ立ち寄ろっか。多分皆んなはそっちまで来てないと思うし」

「「「「やったーー!!」」」」


乗り出すと危ないので内側に下がってください…


……


…………


…………………


「わぁぁぁぁあ!!なんか来てるぅう!?」


木葉たちの前方に立ち塞がったのは大きな黒い猿、、魔獣の類だろう。


「【黒猿】別名悪魔もどきね。中堅クラスの迷宮に潜む魔獣よ。コノハ、遠慮なく蹴散らして!」

「ガッテンだよ!」


これに驚いたのは後方の少女たちだ。中堅クラスとは言ったが、無論これも26人近い大きなパーティーで挑む魔獣。たった2人でというのは常識的ではない。


「無茶よ!!黒猿一体一体のレベルはかなり高いのよ!?」

「私たちはいいから、コノハちゃんは逃げてッ!!」


恐怖に震える少女たち。人間の女を凌辱する性質を持つ黒猿は、後ろの少女たちの存在に歓喜する。


「きいぃぃい!!」

「キィキィ!」


前方でわちゃわちゃ騒ぐ黒猿。その距離が徐々に縮まる。後方では既に悲痛の呻き声も聞こえて来たが、木葉はそれを気にせず前をひたすらに睨んだ。



先頭のでかい個体がおそらく親玉。あれを殺すと統率が取れなくなり、群が暴走する危険がある。それを避ける為にも先ずは周りにいる200匹近い猿を……


「斬るッ!!【斬鬼】!!」


荷馬車に立って抜刀し、空を裂く。瞬間…


「ギィイアッ!!」

「ギャァァァア!!」


10匹近い黒猿の胴体が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。何が起こったかを理解できなかった黒猿たちは、自らに降り注ぐ血の雨に濡れて少しずつ自分の置かれた状況を理解し始めた。後に残るのは…………恐怖



木葉が剣を振るう。その際の空気の振動が見えない刃となって、次々と黒猿たちを切り裂いていく。仲間がだんだんと肉切れへと変化していく姿を見て、黒猿の群れは次第に逃げようとするものが増えて来た。



「キィィィィィィィイ!!」



ボス猿が前に出る。馬車は一定の速さで着実に近づいていく。ボス猿は、まず運転しているメイロを殺し、荷台に立つ木葉を八つ裂きにしようと画策した。


大きな爪が伸びる。黒猿の特徴は集団での狩りであるが、その際の武器はこの鉤爪だ。冒険者たちの鉄の鎧を切り裂き、その肉まで抉り取る鋭利な鉤爪。磨き上げた自慢の爪を準備して、虎視眈眈と少女たちの抹殺を狙う。しかし、


「させるわけないわね。【氷結】!」


メイロが杖を一振りすると、ボス猿は足元に違和感を感じた。霜が降りて、足がすっかり固まっている。いや、だんだんと凍ってきているのだ。


「ぎぃ、ギィィイ!!」


そうして迫り来る馬車。最後に見たのは荷台に立って刀を振るう木葉で……


ザシュッ!!


その醜い首が、木の根元へと転がっていく。群がっていた猿たちは、その様子を見て完全に怖気付いたようだ。我先にと逃げ出そうとして後ろ姿を見せる。当初想定していたボスを失っての暴走も、ここまでの恐怖を植え付けられるとなかなか起こらない。


「うそ………黒猿のボスを……一撃で!?」

「あの子………強い……」


木葉が屠った猿は約50匹。この程度では経験値の上昇とスキルドロップは起こらないようになってきた。やはりレベルが上がっているのだということを強く実感する。


「ふぅ…。追撃はないかな?後ろの方に被害は出てない?」

「ぇ、えぇ。大丈夫……だけど。その、コノハちゃん……あなたとっても強いのね!」


先ほどの少女……というか木葉からしてみればお姉さんという感じだが、そのお姉さん:トゥリーが興奮気味に言う。


「ホント!?えへへ、ありがとう!」


屈託のない笑顔で返す木葉。トゥリーの庇護欲ゲージがカンストした。


「あぁぁぁあ!!もう可愛いすぎるわ!!撫でる、撫でるもん!!」

「わぁぁあ、乗り移っちゃだめ!!………ふぁ、なんか気持ちいい、です」


撫でられ始め、その魔力に負けてしまった木葉。姉を幼い頃に亡くしている為、こういうの実は無意識に求めていたりもしているのだ。本人は全く意識していないが。


「あぁん、もうコノハちゃん可愛い!!強くて可愛くてカッコよくて、もう本当に結婚したいわ!」

「結婚はだめれふ……ふぁ……ふぁぁあ」


幸せそうな顔で良いようにされる木葉。今度はメイロのイライラゲージが溜まってきた。


「ちょっとコノハ、貴方一体何をしているのかしら?」

「メイロちゃん…撫でられるのって結構気持ちいいんだね〜」


メイロの気持ちを全く汲み取れない鈍感主人公木葉。だがトゥリーの方は、その冷気を感じ取ったようだった。


「あはは、お友達が激おこだ。大学に着いたら思う存分撫でさせてもらうわね!」


トゥリーがおずおずと後方の馬車に戻っていく。


「??なんだったんだろ…?」

「コノハ」

「何?メイロちゃん」

「私も……その……撫でたい……」


前を向いたままぶっきらぼうに言うメイロ。その顔ははたから見れば林檎色だった。


「メイロちゃんも撫でてくれるの!やったー!!」


オートマタで馬車は進む為、メイロが手綱を話してもなんら問題はない。メイロが後ろの荷台に這い寄っていく。


「……なでなで」

「メイロちゃんの撫で方すごく優しくていいね〜。このまま眠っちゃいそう……ふぁぁ」

「勘違いしないことね。私はコノハのその髪の柔らかさに惹かれただけよ。断固として貴方を愛でようとしたわけではないわ、だから」


照れ隠しのために必死に言い訳をするメイロだったが……


「zzz〜すぴー」


既に眠りについた木葉。座ったまま器用に眠り、鼻提灯を出している。


「相変わらずすごい速度ね。寝るなら寝るで、ちゃんと寝ないと体が痛くなるわよ」


メイロは毛布と枕、そし木葉お気に入りのアザラシぬいぐるみを取り出し、木葉を寝かせた。気持ち良さそうに眠る木葉をもうひと撫でして。


「………かわ、いい」


その頰を緩ませる。そうして暫くしてから、再び手綱の所へと戻っていった。




夕方になって、木葉が起きた頃……森を抜けた地平線の向こうに夕日が沈んでいくのを見た。さぁ、ラクルゼーロの街が見えてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る