第5話:ツクリモノの笑顔

〜晩餐会会場にて〜


案の定、勇者様は大暴れしていた。


「ぎゃはははっ!!おい!酒を寄越せ!女も連れてこい!!あん?てめぇなにジロジロみてんだよクソオタクが」

「み、みてないっす…」


それを遠巻きに眺めるクラスメイトたちは、内心神聖王国終わったな…と結構真面目にそう思っていた。


「よりによって船形 荒野(ふながた こうや)はねぇだろ…。ふつうにガタリで良かったのに…」

「俺は……そんな責任感はないさ。こうなった以上荒野を全力でサポートしていくしかないな」


天童零児と白鷹ガタリはお互いため息をつきながら会話する。さて、彼らのステータスは以下の通りである。


【天童 零児(てんどう れいじ)/15歳/男性】

→役職:武闘家

→副職:鍛冶屋

→レベル:1

→タグカラー:

HP:80

物理耐久力:130

魔力保持量:60

魔術耐久力:60

敏速:20

【特殊技能】《鉄拳》

【通常技能】《言語》《パワー向上》


………………………………………………………………


【白鷹 語李(しらたか がたり)/15歳/男性】

→役職:槍使い

→副職:探窟家

→レベル:1

→タグカラー:

HP:80

物理耐久力:100

魔力保持量:100

魔術耐久力:80

敏速:70

【特殊技能】《白刃の先》

【通常技能】《言語》《身体強化》《槍術》



「やはり、勇者の初期ステータスには届かない。これからもっと離されるんだろうな」

「でもさ、さっき聞いた話ほんとなんかな?勇者が死んだら、その役割が誰かに引き継がれるって。これってもし王国に不都合なことやったら、、荒野のやつ消されるってことっしょ?やべぇ……血を見るべ、これは」

「不謹慎なこというな。あいつだってクラスメイトなんだ。話し合えばきっと分かってくれるさ」

「だといいけどなぁ」


晩餐会での勇者の素行はともかく、王女や王子が出席するとのことで、みんなは興奮を隠しきれなかった。


サラサラの金髪と真っ白な肌、絵本の中で見たような本物のお姫様を前にクラスのみんなはカチコチである。流石に荒野も王族に対してはわきまえているよう……………あ、嘘ごめん、全然わきまえてない。めっちゃ腕組んでる。ごみみたいな態度である。


「貴方が勇者ですか?」

「あぁ、船形荒野だ。これから頼むぜ」


まさかのNOT敬語に、一瞬たじろぐマリア王女。だがすぐにその顔を柔和な表情へと戻す。


「私はマリアージュ、この国の王女です。王国のこと、頼みましたよ勇者」

「おう、任せろよお姫様ぁ」


マリア王女は非常に嫌そうな顔をしそうになって、すんでの所で押し留めた。その後、何故かキョロキョロし始める。


「それで………その、あの」

「どうかされました?王女殿下」


ガタリが尋ねる。彼は敬語を使うのに慣れているようだ。普段の素行の良さ故である。


「あの、茶髪の可愛らしい少女は、何処でしょうか??」


顔を赤くしながら、マリア王女は尋ねた。これを見たクラスメイトたちは、嗚呼毒牙にかかりかけてる、と察した。ちょろい、ちょろいぞ王女殿下。


「あ〜、そのことなんですが…木葉は体調が悪いらしくて…少し経ったら来るとは言っていたんですが」

「具合悪そうだったもんな。無理ねぇよ…だって料理人と家政婦だぜ??流石にちょっとショックだろアレは」

「ああ、顔色も悪そうだったな。気に病むことはないと励ましてやらないと…」

「……そ、そうですか。では来たら教えてください。可愛がりたい……じゃなくて、お話したいことがあるので…。ではご機嫌よう」


言ってた、言ってたぞ王女殿下。願望ダダ漏れじゃないか。


……


…………


…………………


……………………………


「木葉ちゃん、大丈夫かしら?やっぱり私も晩餐会を休めば良かったわ…」

「そりゃ駄目だろ。なんたって副リーダー様なんだから」


クラスのリーダーは勇者である船形荒野として、その船形の暴走を止めるために副リーダーも設定されることとなった。それが、尾花花蓮と白鷹ガタリである。花蓮が選ばれたのは、そのステータスの高さと能力面でのことだ。


【尾花花蓮(おばなかれん)/15歳/女性】

→役職:弓兵

→副職:召喚術士

→レベル:1

→タグカラー:

HP:100

物理耐久力:40

魔力保持量:100

魔術耐久力:70

敏速:30

【特殊技能】《閃光》

【通常技能】《言語》《命中率向上》《魔力向上》


「まさか副職まで攻撃職とはねぇ。良かったじゃないか。弓道習ってるから弓は慣れてるだろう?」

「えぇ、そうね。千鳥ちゃんも剣士でしょう?これからもよろしくね」

「ああ、こちらこそ」

「アタシも守護戦士だから前衛だな。よろしく頼むぜ!」

「勿論よ樹咲」

「ああ!」


一応、二人のステータスも紹介しておこう。


【鮭川 樹咲(さけがわ きさき)/15歳/女性】

→役職:守護戦士

→副職:建築士

→レベル:1

→タグカラー:

HP:90

物理耐久力:120

魔力保持量:10

魔術耐久力:60

敏速:20

【特殊技能】《全面守護》

【通常技能】《言語》《防壁》


………………………………………………………………


【鶴岡 千鳥(つるおか ちどり)/15歳/女性】

→役職:剣士

→副職:勘定人

→レベル:1

→タグカラー:

HP:70

物理耐久力:110

魔力保持量:10

魔術耐久力:50

敏速:60

【特殊技能】《刺突》

【通常技能】《剣術》《言語》




「はぁ、3人とも割と向いてる役職だったのに、どうして木葉ちゃんだけ……」

「料理人はねぇよなぁ。木葉、今回完全に戦力外になっちまった…」

「僕たちが頑張るしかないね。木葉ちゃんの分まで」

「んじゃぁ、とりあえず食うか!!木葉もそのうちくるだろ!」

「そうね、食べましょう」


晩餐会はつつがなく過ぎて行く。


……


…………


…………………


暗い部屋。その中で、灯りもつけずに木葉はベッドに横になっていた。ステータス画面を開く。


【櫛引 木葉/15歳/女性】

→役職:魔王 (月の光)

→副職:剣士

→レベル:???(計測不可)

→タグカラー:

HP:2805

物理耐久力:1237

魔力保持量:5490

魔術耐久力:3278

敏速:1670

【特殊技能】《捏造》《鬼姫》→

・両面宿儺(りょうめんすくな)

・茨木童子(いばらきどうじ)

【通常技能】《言語》

・強化技能:《身体強化》《精神汚染耐久+》《自動回復力強化》《切断力強化》

・剣術技能:《居合》《切断》

・防護技能:《障壁》

・回避技能:《察知》《奇襲回避》


「……ぅぅあ。くぅぅ、ひっく……なんで、、私……ううっ、グスッ……」


そして表示を見て涙をこぼす。何も変わらない表示。捏造スキルを解いて確認した結果、やはり変わってないことに気づいたのが先ほどのこと。一時的には隠しきれたものの自分が魔王であるという事実を隠していかなくてはならないということに不安を覚え、その事を誰にも相談できないことがさらに木葉を苦しめた。


コンコン


部屋に響くノックの音。続けて優しい声が響いた。


「櫛引さん、いますか?」


最上笹乃の声。信頼する大人がお見舞いに来てくれた事実に、少し安心した木葉は躊躇うことなくドアを開けた。


「ああ、良かった。具合はどうですか?」

「うん、大丈夫だよ先生。心配かけてごめんね?」

「いいえ、無理もありません。櫛引さんだってみなさんの役に立ちたいって思ってたでしょうに…」


(そっか、私がこの役職だとみんなの役に立てないって悩んでると思い込んでるんだ…。これは好都合……なのかな?)


「ううん。大丈夫。それに、料理人だってみんなに美味しいご飯作ってあげられる訳だし、役に立たない訳じゃないよ!だから……あれ?」





ぽろぽろと、涙が零れ落ちた。





なんで?と疑問に思ったが、それが先生に抱きしめられたからだと気づいて、感情の抑えが効かなくなってしまった。


「無理しなくていいんです……木葉ちゃんは、例え戦えなくてもクラスの一員ですから。だから、今は泣いてもいいんですよ?」


完全な勘違いである。木葉が泣いていたのは魔王であることを誰にも相談できずにいたところ、先生が抱きしめてくれたからそれに安心して溢れた涙だった。けれど…


(でも、それでいいんだ。勘違いだけど、今はその勘違いに甘えて、温もりを感じていたい。だから少しくらい、いいよね?)


「う、うぅうぁ、あぁ、うわぁぁぁあん!!せん、せい……うぅぅ、グスッ、グスッ……」

「大丈夫、大丈夫ですから……ね?」

「うん、……うん!ありがとね、先生……」


木葉は泣いた。自分が役に立たないからではない。自分がみんなの敵になってしまうかもしれない、みんなに敵意の目で見られるかもしれないという恐怖を心のうちに抑え込むことができなかったが故の涙。結局木葉は魔王であることを打ち明けられなかったけど、今はそれで良かった。


……


………


……………


「落ち着いた?」

「うん、先生ありがと…えへへ」


(か、可愛い!!あぁダメね私、櫛引さんを贔屓目で見てしまっているわ、教師なのに。でも櫛引さんが可愛いのがいけないのよ!うん、そうよ!)


木葉が安心したのは事実だ。だから、そこでやめておけば良かったのに、、、笹乃は要らないこと、言ってはならないことを言ってしまった


「大丈夫。きっと直ぐにみんなが魔王を倒してくれるわ!魔族が人々を襲っているのは魔王が原因なんだから、魔王さえ倒せればそれでみんな帰れる。私だって非戦闘系なのよ?一緒に、みんなの頑張りを見守りましょう、ね?」


木葉は、これを聞いて目の前が真っ暗になる思いがした。笹乃に悪気はなかったのだ。だってまさか木葉が魔王であることなど、予想だにもしなかったのだから。でも笹乃のその言葉は、木葉のこれから突き進む運命(・・)を決定づけてしまった。


「そ、そうだよね。えへへ、先生は優しいなぁ」


木葉は、咄嗟に"ツクリモノ"の笑顔を浮かべた。木葉の得意な、人工的な貼り付けたような笑みだった。


(……そうだよね。やっぱり魔王を倒さないと、魔族の侵攻が止まらないんだよね。今だって、何千人という人が魔族の侵攻に苦しめられてる…。だからこそガタリくんや花蓮ちゃんたちが戦う気になったんだけどね………けれど、私は)


明るい表情とは裏腹に、木葉の心はどんどん暗いものになっていった。木葉は昔から感情を押し殺すのが得意だ。それは6年前に姉がなくなった頃からさらに悪化したと言っていい。みんなを元気付ける性格をしているのに、自分のことはあまり話したがらない。親友の花蓮でさえ、木葉のことをあまり深く知っているわけではないのだ。






_______だから、みんな木葉が『あんなこと』になるまで、その心の闇に気づくことができなかった。

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